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九十一話  闘竜眼消滅

 港から程近いリヴィアータ商業区域。

 そこで戦闘を行っていたブェリョネィース達が見上げる空は騒然としていた。

 ここから城まではかなりの距離があるとはいえ、空に浮かぶ巨大な船から無数の何かが降下しているのが見てとれる。

 それは緩やかに、そして不気味に街中に広がっていった。



「ははは! 分かるか? あれらは全てゼラムル教団が保有する天使兵器や魔神、魔獣共だ! 初めからお前達に勝ち目など……」



 援軍による勝機を得たと確信していたキマリスは突如言葉に詰まる。

 輸送用と聞かされていたドミニオンの主砲がこちらに狙いを定め、魔力の充填が始まっている事に気が付いたのだ。



「そんな……、なぜ……。なぜここを狙っている!? 私は! 私はどうなるのだ!」


「もろとも……、だろうな。あれは山をも消せる威力があるそうだな。この場からの撤退は難しいぞ……」



 狼狽するキマリスにブェリョネィースは憐れむように声を掛けた。

 破壊竜が復活する直前に使用された兵器。

 その被害はフィルセリア山脈の地形を変える程。

 そんなものを撃とうというのだ。

 この事からも、キマリスは最初から捨て石扱いだったのは明白である。



「私に……フィルセリアを下さると言ったのに……。そんな……、そんなはずあるかぁ!」



 キマリスは両手を広げ、その手に持った魔石で地面を叩いた。

 地響きは地面を伝わり、リノレとカルマの居る左右の建物に干渉。

 石で建造された建物は音を立て、カルマ達に向かい崩れてくる。



「いかん! リノレ様! カルマ!」



 ブェリョネィースが叫びながら駆け出すも間に合わず、崩れた建物の残骸に埋まるリノレとカルマ。

 辛うじて見える隙間からカルマの声が発せられる。



「大丈夫……です。リノレ様……には……傷一つ……」



 両手を上げ、崩れた建物を身一つで支えるカルマ。

 膝を付き、前のめりになっているが辛うじて空間を確保していた。

 無論、リノレを守るためにカルマが必死で作った空間である。



「闘竜眼と……退魔神官さえ始末すれば良いはずだ……。まだ助かる……まだ!」


「おのれキマリス! クリストフの姿を、これ以上辱しめる事は許さぬぞ!」



 立ち上がり、蒼白の顔でゆっくりと歩を進めるキマリス。

 その身勝手な行いと姿にブェリョネィースは激怒する。



「なんとでも言え、先程の技の間合いには入らんぞ……。そいつらを守れよブェリョネィース……。そして死んでくれ……」



 キマリスの言う通り、ブェリョネィースは必勝の瞬間を逃してしまった。

 先の技はいわゆる溜めの動作が必要な上、対象が直線で止まっていないと使えない。

 すでにキマリスはブェリョネィースとまともに戦うつもりもないようだ。

 ブェリョネィースがこの場を少しでも動けば、致命傷覚悟で背後に居るカルマ達に仕掛けるつもりだと予想される。



「ぐは! 早く……、瓦礫を退けて……、リノレ……様を……」



 神聖術という身体強化術式を会得したカルマでさえ、どうにもならない状況。

 吐血し、今にも果てそうなカルマの言葉を受け、信者達が瓦礫を取り除きに掛かった。



「ちょっと……、あんた……」


「俺は良い……。どのみちもう動けねぇよ……。早くしろ……」



 瓦礫を退けていた男性信者が隙間から見たカルマの姿。腕、足の関節部からの出血が著しく、とても上部の瓦礫を撤去するまで持ちそうもない。

 少しでも身体を動かせば潰されそうな、そんなギリギリの状態である。

 カルマはそっと目を閉じ、リノレが救助されるのを待つ事が使命だと感じていた。

 しかし信者達の動きが突然止まり、声を上げる事すらしなくなってしまう。



「おい、どう……した。早く……」



 目を開き、信者達に視線を向けるカルマ。

 信者達は皆、カルマのすぐ隣を泣きそうな瞳で見つめていた。

 横目でその視線を追ったカルマは自分の目を疑う。

 いつの間にかリノレが立ち上がり、右手を頭上の瓦礫に添えているのだ。


 カルマはここに至って、生命力や魔力の感知も行えるようになっていた。

 リノレの生命力は今にも消えそうな程弱っている。髪は真っ白、瞳も虚ろで視線は定まっていない。

 口から洩れる息は苦しそうに掠れ、リノレが虫の息なのは誰の目から見ても明らかだった。



「リノレ様! おやめください! 早く逃げ……て……」


「おにい……ちゃん……は? 一緒……に……行こう……よ……」



 カルマはリノレの説得を試みるが、リノレはカルマの身を案じる様子を見せる。

 視界が塞がれ息も絶え絶えながら、リノレは他者を見捨てて逃げる選択肢を持っていない。

 そう察したカルマは周囲の信者達に懇願する。



「テメェら……、頼む……。頼む! リノレ様を……お連れしろ……」


「だめ……、だ……め……」



 懸命なカルマの要請にリノレは拒否を示す。そのやり取りを受け、信者達は我に返って直ぐ様撤去作業を再開した。

 すでに灰に近いその身を奮い立たせたリノレを見て、カルマは再び奮起する。

 まだ力を込められる。目が見える。諦めて良い道理は存在しなかった。



(簡単には死にませんよ……。法王の作る新たな教団……。叶うなら……、俺もそこに……)



 未来を見据え、カルマは望みを力に変え続ける。

 そうしてる内にカルマは痛みが薄れ行くのを感じた。

 限界が近いのかと思ったがそうではなく、更には別の違和感を抱く。



(リノレ様の御髪……、あんなに長かったか?)



 不思議と消えかけていた五感が戻りつつあったカルマ。

 気付けば肩越しまでだったはずのリノレの髪が腰まで伸びていた。

 白い頭髪が差し込んだ光りに照らされ、艶が出ているようにも見える。

 そう気付いた瞬間、カルマは隣に立つリノレから身震いするほどの波動を感じ取った。


 直後に大地から天に向けて殴るかのような轟音を奏で、カルマとリノレの頭上にあった瓦礫が粉々に消し飛んだ。

 辺りに漂う噴霧。何重にも重なった石壁は全て砂塵と化した。



「リ……ノレ……様?」



 重圧から解放され、尻餅を付いたカルマは片手を天に掲げるリノレを見上げた。

 光に照らされたリノレの髪は銀色に輝き、その身体には魔力が戻りつつある。



「なにを……した? 小賢しい……、小賢しい! 停止しろぉ!」



 すでに理性を保てていないキマリスは裂けんばかりに表情を歪め、発狂して再び黒い杖をリノレにかざす。

 リノレはうつむいたままガクリと片膝を付くが、さして間を置かずに立ち上がる。



「停止しろ! 停止しろぉ! なぜだ!? 停止しろ闘竜眼! ドラゴンオーブよ! メリュジーヌ! 停止し……ろ」



 絶え間なく叫び続け、やがてガチガチと歯を鳴らすキマリス。

 指令を出す度に下がるリノレの魔力は、下がった直後からより強く高まっていった。

 いまだ虚ろ気な瞳のリノレは、その身体の内に響く声を聞いている。

 それは澄んだ優しい、暖かい女性の声。



(闘竜眼。それは所有者の心の力を顕現させる神器。荒ぶる炎は立ち上がり、前に進むためにわたくしが願った力……。リノレさん……、貴女は闘竜眼に何を願いますか? いいえ、何に……なりたいですか?)



 染み入る声を聞きながら、リノレの銀髪に更なる色彩が加わる。

 グラデーションのように、髪が頭頂部から肩口まで金色に染まっていく。

 そして金色の瞳を開き、リノレは両拳を天に掲げた。



「にゃーーーー!!」



 リノレの鳴き声と共に魔力が周囲に広がる。

 激しい炎ではなく、優しく、暖かい陽の光のような薄白い閃光がその場に居る者達を包んでいった。


 一心不乱に瓦礫を取り除いていた信者達は、自分の手の平を見つめ目を丸くする。

 撤去作業で擦りむいた皮膚が再生して来ているのだ。

 当然カルマもその光りに困惑していた一人。激痛が緩和され、ほとんど動かせなくなっていた手足に感覚が戻って来ていた。



「あ……、あぁぁぁぁぁ!? なんだこれは! 身体が、焼けるように熱いぃ!」



 放たれた波動を受けたキマリスが胸を押さえ絶叫を上げる。

 その場に倒れ、のたうち回るキマリス。黒い杖も波動を受けて溶け去り、その身体からは黒い煙が溶けるように漏れ出していた。

 やがてキマリスは仰向けになって嗚咽を洩らし、口から黒い塊が瘴気を放ちながら浮き上がっていく。



「うごぁ! バガなぁ! じばいでぎでながっだの……が?」


「あれはまさか! 吸血鬼の実! クリストフよ……。まだ……、まだそこに居るのか!」



 横たわり苦しむキマリスに向けて拳を構えるブェリョネィース。

 先程と同じ型。違う事があるとすれば、それはもはや、何があっても止まる事はないというその決意のみ。



「魔を払い、魔を滅するが我が流儀。もはや踏み出すことに躊躇はせん! 不印流滅技……、天破正鵠てんはせいこく!」



 倒れるように前のめりになり、ブェリョネィースは非常に低い姿勢で放たれた矢のように疾走する。

 ブェリョネィースはキマリスの口元、浮き上がったヴァンパイアシードに拳を突き当てた。

 実とブェリョネィースの拳は吸い付け合うかのようにピタリと止まり、叩き付けられた轟音のみが天に響く。

 刹那の静寂の後、風がブェリョネィースに追い付き吹き抜けていった。


 ヴァンパイアシードに亀裂が生じ、キマリスの存在と共に破裂して霧散する。

 クリストフの身体を侵食していた魔力も消え去った。

 膝を付き、倒れているクリストフの身体を起こすブェリョネィース。

 ゆっくりと目を開けたクリストフの瞳から一筋の涙が流れる。



「法王様……、申し訳ありません……。この体たらく……。なんと情けないことか……」


「良い、落ち度は私にある……。しかし、その身体は……」



 辛うじて意識のあるクリストフに悲しげに声を掛けるブェリョネィース。

 クリストフが生きていた事で嬉しそうに駆け寄って来た信者達に顔を向け、ブェリョネィースは静かにかぶりを振った。



「分かっています……この二年、意思は消されまいと……耐えて来ましたが……。この身体はもう……」



 クリストフの言う通り、ブェリョネィースは気付いていた。

 その身体を構成する組織の一部は魔神の物に置き換わっていると。

 それを破壊してしまったという事は、クリストフの命の終わりを意味していた。

 むしろ二年もの間、心を壊されなかった事が驚異的と言えよう。

 強く優しかった大司祭が帰って来たと、微かな希望を抱いた信者達はその場で泣き崩れていった。



「ねぇ……おじちゃん……」



 リノレがクリストフの側で膝を折り、首に手を回しその顔を優しく抱き締めた。

 瞬間クリストフとリノレの身体が暖かい光に包まれる。



「皆泣いてるよ……。おじちゃんもずっと言ってたよね? 助けてって……。だから……、諦めたら……だめなんだよ?」



 リノレの言葉とその光に目を見開いて震えるブェリョネィース。

 土気色だったクリストフの身体が赤身を帯びてきているのである。



「これは……、か細くはあるが、崩壊していた細胞が埋まっていっておる……。この光が、クリストフの生きようとする思いに力を貸しているのか……」



 手の内の奇跡を言葉にするブェリョネィース。

 ブェリョネィースとリノレの腕の中で、クリストフは僅かに命を繋いだのである。

 クリストフは涙を流しながら震える手を動かしてみせた。



「なんと暖かい……。ああ、女神よ……。感謝したし……ま……」



 そう言って静かに眠りに落ちるクリストフ。

 一命は取り留めたが、あくまでもクリストフの生命力を活性化させる治癒。

 長い拘束期間も相まって、心身の疲労は限界に達していたのだ。

 いつの間にか涙を流していたブェリョネィースは信者達と、フラフラながら歩いて来るカルマに顔を向け、大きく頷いた。

 それを見た信者達に歓声が巻き起こり、カルマも笑みを作って応える。


 だが歓喜の声は続くはずもない。

 その時、頭上からの閃光でその場の空気が一変したのだ。



「おじいちゃん……。あれなに?」


「あ……れは、皆を苦しめる光です……」



 顔を上げたリノレの視線の先にある光、それを見て語るブェリョネィース。

 空に鎮座するドミニオンの瞬きである。

 ついに主砲の充填が完了し、発射間際となってしまったのだ。



「皆の者! 一刻の猶予もない……。一つに固まり結界を張るぞ! 神聖術を使えぬ者も、その祈りは力になる! 皆の力を合わせ、なんとしてもこの場を凌ぐのだ! この奇跡、無駄にしてはならん!」



 ブェリョネィースが指示を出した直後、ドミニオンの光が収束する。

 この場を塵にしうる暴威が、今まさに放たれようとしていた。



「苦しいの? 悪い光なの? 皆助かるの?」


「そ、それは……、残念ですが、上手くいっても……この周囲の建物に居る者達は……」



 心配そうなリノレにブェリョネィースは包み隠さず正直に話す。

 全員の力を結集しても、小さな範囲すら防げる確証はないのだ。

 いくらなんでも周囲の建物を覆うほどの結界など張れるはずもない。

 その言葉を受けリノレは周囲の建物を見回し、そして立ち上がった。



「リノレ……様?」


「たくさん……たくさん居るよ……。皆……、皆怖いって言ってる。だからリノレ……」



 ブェリョネィースはその名を口にし、リノレの強い意思を秘めた眼差しに息を飲む。

 カルマや他の信者達も、力強く立つその小さなリノレの姿に目を奪われた。


 空が暗転し、光り輝くドミニオンから巨大な放射状の閃光が放たれる。

 同時にリノレの魔力が口元に集約され、小さな魔法陣が形成された。

 それは振り向き様、ドミニオンに向かってリノレの咆哮と共に放たれる。



「にやぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 リノレから放たれたドラゴンブレスはドミニオンの放った閃光と激突。

 街の中心でぶつかり合う二つの光りの奔流。

 衝突で発生した強風と轟音が樹木を激しく揺らし、建物の窓ガラスを次々に割っていった。


 余波は段々とリノレ達の方に近づいていき、リノレの口元の魔法陣は徐々に亀裂が入ってきている。

 ドミニオンの閃光がリノレのブレスを押し込み続け、すでに口元の魔法陣はブレ始めて崩壊寸前。



「神竜の御子……様が押されています! 法王様! やはり結界を!」



 怯える女性信者の言葉を聞いても、指先一つ動かさずに佇むカルマとブェリョネィース。

 怯えも不安もない視線をただリノレに送っていた。



「身が震えるとはこの事か……。心配するな……。もしもの時は俺が、一命を賭してお前らを守る。俺にはまだ、覚悟が足りてなかった……」


「ふふ……、百年早いわ小童こわっぱが、その時は先に私に譲れ」



 カルマとブェリョネィース。不敵に笑う双方は、どこまでも振り絞れる己の力を感じていた。

 絶命する瞬間でさえ、何人も砕けぬ意思の強さ。全てを守りたいと言う無謀。

 それだけで動こうとしたリノレの姿は、彼等の想定した限界と言う言葉を嘲笑うように打ち砕いたのだ。


 リノレは周囲の感情を声として聞いていた。

 不安や悲しみ、嘆き、そして……諦め。

 母の教えを胸に立ち上がったリノレに、それらは耐え難い感情である。

 改めて、リノレはその身に宿る力の問い掛けに答えた。



(リノレはね、お日様になりたい。おかあさん達がリノレにくれたみたいに……。暖かい気持ちをたくさんの人に知ってもらいたいの……)


(そうですか……。なれますわ……。貴女ならきっと……。さあ、わたくしはそろそろお別れですわ……。闘竜眼に新しい、そして……最後の真名を刻みましょう。メリュジーヌの名の元に、玉室権限をリノレさんに譲渡いたします)



 神器に宿っていたメリュジーヌの残留思念が消失し、本来であれば『闘竜眼リノレ』という神器が誕生する瞬間である。

 だが闘竜眼の存在そのものがリノレと完全融合を果たし、天使兵器の括りも消滅した今となってはもう、その呼称は正しくない。



(ありがとうメリュジーヌおねえちゃん。いつもリノレが壊れないように助けてくれたよね……。おねえちゃんはね、リノレがなりたいお日様の一つなんだよ……)



 心の深層での対話が終わり、リノレの口元の魔法陣が粉々になって消え去る。

 その瞬間、数倍の熱量がリノレのブレスに加わった。

 その力はドミニオンの閃光を押し返していく。


 闘竜眼の疑似ドラゴンブレス。一種の神聖魔術であったそれは竜の息吹を模した魔術。

 だがリノレはもはや人の姿をしたドラゴンと言える。

 行使する力は魔術に非ず。故に魔法陣は邪魔でしかなかった。

 その放つブレスは、まごうことなき竜天魔法と化していたのだから。


 リノレのドラゴンブレスは瞬く間に拮抗した力場を撃ち破り、ドミニオン本体をも貫いた。

 制御を失い、機構の半分以上を削り取られたドミニオンは城の中腹に落ち、城壁を崩しその動きを止めた。



「おお……、なんと神々しい……」


「う……うぐ……、リ……リノレざま……」



 ブェリョネィースは直立不動で、カルマは目元を全力で擦りながら感涙している。

 腰まで伸びた髪は肩まで金色、その先は輝く銀髪。

 左に黒色、右に金色の角を頭部から生やし、勇ましくも暖かく佇むリノレに、誰もが息を飲んだ。



「ふ……にゃ~……」



 気の抜けた声を上げ、突如リノレは後ろ向きに力なく倒れる。

 それを瞬時に支えに走るカルマ。

 リノレの髪の長さは肩越しに、色はピンクに戻り角も消え去った。



「あ、ありがとう……。えへへ、リノレちょっと疲れちゃった」


「十分でございますリノレ様……。至らぬ我等に加護を……、ありがとうございます。どうかお休みになられて下さい。後は私が……」



 朗らかな笑顔を向けるリノレに、ありったけの羨望を込めてカルマは感謝を伝える。

 リノレは後ろ向きにしゃがんだカルマの背中にもたれ掛かり、フラフラとおぼつかない仕草でその背に乗り、すぐに寝息を立て始めた。



「リノレ様とそのクソ……、じゃない。クリストフ殿を安全な場所にお連れしましょう」


「分かっている。直にここも天使兵器や魔神が攻めてこよう……。そうなる前に……。むぅ! これは!」



 カルマの進言を受け取ろうとしたブェリョネィースだが、誰の耳にも届かぬ微かに響く声を聞き取った事で慌て始める。

 危機的状況であるも、その声色には隠しきれない喜びが見え隠れしていた。



「これはチノレ様のお声! いかん! この状況でお目覚めになられるとは! カルマよ! リノレ様をこちらに!」



 ブェリョネィースは初孫に近付くように、怪しく両手をカルマの背中に伸ばしてくる。

 カルマは身をかわし、無言で睨みながら暗黙の拒否の姿勢を示した。

 固まる二人に走る静寂という名の緊張。



「……時間がない。チノレ様と合流し、リノレ様とクリストフを安全な場所まで!」


「は! 仰せのままに!」



 ブェリョネィースは口惜しそうに妥協し、クリストフを両手で抱えてカルマと共に弾けるように駆けていった。

 突然の事に唖然とする信者達は置き去りにされた事に気付き、その背中を全力で追いかける。

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