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八十九話  人魔激突

 時は数十分程遡り、場所はリヴィアータ城上層に設けられた会議室。

 そこには各国の代表者が集まっていた。



「やれやれ……。フィルセリアとジュホンの代表はまたも欠席か……。遠征部隊が戻らぬ以上出来る事は限られるとはいえ、もう少し足並みを揃えたいところだな……」



 ゴルギアートは会議室の円卓に向き合うメンバーを見回し嘆息する。

 フィルセリア共和国とジュホン帝国の代表全員、そしてフレムも居ない事への嘆き。

 いくらなんでも気が緩み過ぎだと感じての発言である。


 会議に参席しているのはたったの七名。

 ゴルギアート、ガルシア、リリス。

 フォルテ、ボルト、シャルディア、そしてセリオス。


 エトワール、ロザリー、ミルスの三名は一階応接間にて待機。

 ゼラムル教団に狙われた事のあるエトワール。

 教団の裏切り者であるロザリー。

 この二人を置いて来る訳にもいかないというセリオスの意向である。

 シャルディアの息女ミルスも同様で、預ける予定であったハミュウェルが朝から行方を眩ませた事で、仕方なく城まで連れて来られていた。


 各国の代表者達は今後の方針と共に再度戦力の確認を行うが、やはり話し合いは難航する。

 ゴルギアートは戦いが激化する前に、各国から戦力を集める方法を提示した。

 それは近代では初のお披露目となる飛行技術。

 太古の遺産である方舟、第四級天使兵器ドミニオンの運用。

 だがすでに、ここが敵の監視下にある可能性を考えたセリオスに危険であると一蹴される。



「空輸手段として考えていた第四級天使兵器ドミニオンの使用にリスクが伴うのはやはり痛いな。リリスの協力でようやく稼働の目処が立ったというのに……」


「操られる可能性や機能停止させられ、落とされる事を加味すると、作戦からは除外せざるを得ないでしょう」



 中々諦めがつかないゴルギアートを諌めるセリオス。

 リヴィアータ帝国の各領地から首都に兵士を派遣、もしくは出向している兵士を戻す等、いくつか案は上がるが全てセリオスは否却した。



「まず間違いなく首都が狙われているとはいえ、各地の防衛を割いてしまっては民に不安や不振が広まり、やがては暴動になりかねん。その案も却下だ」


「ん~、じゃ出来る事ねぇじゃん……。セリオス、お前からはなんか良い案ないのかよ?」



 兵の派遣を提案したフォルテは若干むくれながら問い掛ける。

 淡々と非却する割にセリオスからはまったく打開案が出ないのだ。



「今のところ案はないが策はある。賭けに近いがな……。それと、例の魔導書と魔石の解析結果はどうなったのだ?」


「あ、教えてはくれないんだな……。まぁ良いや、俺が考えるより有用だろうさ。解析結果はシャルディアさんに聞いてくれ。俺には分からん」



 セリオスは適当に話を流し、話題を先日の魔道具の件に切り替えた。

 フォルテは作戦を教えてくれない事に疑問を持つがすぐに諦め、話をそのままシャルディアに投げる。



「ええ、まず魔導書の方ですが……、想像以上に強力な術式が書かれていました。情けない話ですが現段階で解読は難しく、この本自体も禍々しい魔力を帯びていて使用は困難かつ危険であると判断します」



 シャルディア自身も魔術知識に明るく、解読には自信があった。

 だが設備もろくに無い状態で、完璧に調べるまでには至らなかったと言う。



「続いて魔石に関してですが……。何かが宿っているのは間違いなく、封印石だと思われます。おそらくですが精霊を封印してその加護を得る目的で作られたものかと……。解析を買って出ておいて、このような不十分な結果で申し開きもありません……」


「いやいや、何百年も訳の分からなかった代物だ。十分だと思いますよ。魔導書はそっちで使ってください。俺が持っててもしょうがねぇ」



 シャルディアは頭を下げながら、魔導書と魔石をフォルテに返却しようと差し出す。

 だがフォルテは魔石だけを受け取り、魔導書はアズデウス公国側で活用してもらうよう促した。



「即戦力とはいかなかったなぁ。ま、何かに使えるかもしれないし、前向きに考えようぜ」



 フォルテの明るい姿勢にセリオスやゴルギアートも笑みを溢す。

 進展は微々たるものであっても、各国の結束が固まるだけでも有意義な事なのだ。

 だが会議室の空気が和やかになりつつあったその時、異変は起こる。



「ゴルギアート様!」



 ガルシアが会議室の窓を見ながら叫びを上げた。

 その場の全員がその視線を追い言葉を失う。

 突如窓から見える空に巨大な船、第四級天使兵器ドミニオンが姿を現したのだ。



「ドミニオンだと!? いつの間に! どうやって潜んでいた!」



 驚愕するゴルギアートは新しく用意した魔力レーダーを確認する。

 何の反応もないレーダーは唐突に警戒音を鳴らし、異常反応を示していた。

 高い音を奏で鳴り止まぬ警告音。

 ドミニオン内部には百をゆうに越える数の魔力反応。

 どう考えても味方ではないと、ゴルギアートは焦りを募らせる。

 続いて追い討ちのように大きく揺れる床。響く重低音。



「今度は何だ!?」


「高魔力反応!」



 突然の地響きに慌てるフォルテ。レーダーを視認したゴルギアートは奥歯を噛み締める。

 確認した魔力反応は、この会議室に重なるように現れたのだ。



「ゴルギアート様! 一時避難を!」


「もう遅い! 来るぞ! 上だ!」



 撤退を促すガルシアの言葉を切り、ゴルギアートが叫んだと同時に全員立ち上がり円卓から離れた。

 轟音と共に天井を突き破り、ゴルギアートの座って居た付近に降り立った二名の男女が興味深そうにゴルギアート達を見回す。


 男は髪を無造作に伸ばしているが幼さの残る美しい少年。

 朱色の着物を着用し、左手には刀を鞘に納めたまま所持している。


 女は地面まで付きそうな程長い黒髪をした、ややつり目がちな美しい少女。

 紫を基調とした豪華な着物を何重にもまとい、胸元に鏡の付いた円盤状の首飾りを着けている。

 その少女のすぐ後ろには大きな丸い繭が浮いていた。



「ほうほう、おるわおるわ虫けらが!」


「ほほ、一匹足らぬようだが……。アドラメレクも心配性よのう。この程度でわらわ達に声をかけるとは」



 美しい顔に似合わず、下卑た表情で笑みを浮かべる少年と少女。

 魔力レーダーは当然のように両名Aランク。ようするに測定不能である。



「く、そぉ!」



 堪らずゴルギアートはレーダーを投げ捨てた。

 いざという時の為に使えると思い作成したレーダーが、なんの役にも立っていない。

 それどころかレーダーを過信し、油断するという無様を晒した己に腹が立ったのだ。



「他にも多数の魔力反応が城の内部に出現した……。おそらく会議中に侵入されたのだろう」



 それでもゴルギアートはなんとか対策を練ろうと、冷静に状況を分析する。

 その矢先、窓の外に見えるドミニオンから羽の生えた人や獣が街に降りて行く。

 更には船首からは巨大な砲身が現れ、港の方角に狙いを付けていた。



「なに……を……、しているのだ? まさか……、港を消すつもりか!?」


「ああ、港ではない。ドミニオンの主砲にて、先程闘竜眼の反応が消えた場所を撃とうと思うてな? 角度に気を配れば街の四分の一が消し飛ぶくらいで済むだろう。二十分程で照射するようにしたが、ちと遅過ぎたかの」



 ゴルギアートは少年の言葉で自らの血の気が引くのを感じた。

 港周辺だけでもどれだけの住民が住んでいるのか……、少なくとも数千、いや数万人の被害が出るだろうと推測されるのだ。



「しかし良いのですか? シュテン様は闘竜眼に御執心だったと記憶しておりますが?」


「あれはもう、ワシの焦がれたメリュジーヌではない。ハジュンの言っていたように同化しておるのなら、こちら側に引き込む事も不可能だろう。反応を感じん以上すでに死んでおるやもしれんがな……。念のためだ、ここらで消して置けば面倒がない」



 少女の質問にシュテンと呼ばれた少年はつまらなそうに答えた。

 少女はどこか悲しげで諦めにも似たシュテンの表情を不思議そうに見つめた後、おもむろに胸元から黒い杖を取り出す。



「リリス!」


「はい!」



 黒い杖を視認したゴルギアートはリリスの名を叫ぶ。

 応じるように後方に飛び、会議室の扉を破壊して通路に脱出するリリス。

 天使兵器であるリリスは、この場に居ても足手まといにしかならないと即座に判断されたのだ。



「セリオス殿、シャルディア殿、フォルテ殿にボルト殿。正直予想の遥か上を行かれた。貴殿らはすぐに城から脱出しろ。可能であれば民の避難を頼みたい……」


「いやいや、アンタはどうすんだよ! この状況でトップを失ったらこの国はおしまいだぞ!」



 一人残ろうとするゴルギアートの気配を察したフォルテが問い詰める。

 城に攻め込むということは、狙いは国の主軸である皇帝。

 その皇帝が我先に戦場に飛び出すなど、誰が見ても問題外の愚策でしかないのだ。



「分かっている……、なればこそ! 引くわけにはいかんのだ! こやつらを片付け、なんとしてもドミニオンを止める! 黙って民が殺されるのを見てなどおれん! 唸れ竜叫剣ドラグシャウト!」



 意を決したゴルギアートは竜の首を模した柄を握り、猛々しく吠える。

 柄から光りが吹き上がる剣を構え、シュテンに対して上段から切り掛かった。



「なんと醜悪で醜い刃か……」


「な……に?」



 シュテンはゴルギアートの剣を素手で掴み、光る刀身を一瞬で握り潰す。

 精神力と生命力を出力した刃を砕かれたことで、ゴルギアートは目眩を起こしよろめく。

 続けてシュテンは左手に持った刀の鞘で、ゴルギアートの足を軽く払い転倒させた。



「ぐぁ!」


「つまらん……。つまらんな……」



 悲痛な声を上げるゴルギアートの片足を掴むシュテン。

 そのままゴルギアートの身体をやすやすと窓に向けて放り投げた。

 窓を突き破り、城の外に投げ出されたゴルギアート。

 しかし意思は挫けておらず、ゴルギアートは落下しながらも力強く叫ぶ。



「おぉぉぉぉ! 来い! サンダルフォン!」



 ゴルギアートの呼び掛けに応え、轟音を奏で真下の地面を突き破り飛び出してくる巨大な鋼鉄の鎧、サンダルフォン。

 城の地下に安置されていたサンダルフォンは主の危機に強制起動し、地面と建物を破壊しながら馳せ参じた。

 鋼鉄の翼を広げるサンダルフォン。その肩に足を乗せ、頭部に片手を置いて会議室の高さまで上がってくるゴルギアート。



「ほう……。光神鎧。闘竜眼に並ぶ玉室神器か……」


「ふう……、無駄な事を……」



 興味深げなシュテンはサンダルフォンを眼下に納め、歪な笑みを浮かべている。

 着物を着た少女は呆れたように溜め息をつき、黒い杖をサンダルフォンに向けた。


 即座にシュテンは少女を横目で一瞥し、その瞳が怪しく光る。

 その瞬間、黒い杖は少女の手からボロボロと崩れ落ちた。



「シュテン様! 何を!?」


「無粋な真似をするな、興が削がれるわ。タマモよ、お主は残りを始末せい。ワシはアレを頂こう」



 タマモは優勢を保てる魔道具を破壊された事に驚きをあらわにする。

 もはや策は必要ないとするシュテンは、すでにサンダルフォンに魅入っていた。



「停止させぬのか? ならば好都合!」



 ゴルギアートは展開したサンダルフォンの胸部に乗り込み、反転して両肩の砲身をドミニオンに向ける。

 予想外の好機を逃さぬとばかりに、砲口に光が集約していく。



「うつけが!」



 会議室の床を蹴り、一喝したシュテンはサンダルフォン目掛けて跳躍した。

 壁が吹き飛ぶ程の勢いで飛び出したシュテンは、二つの砲身を手にした刀で瞬時に切り落とし、頭部に片足をかける。



「勘違いするな。こんな物が役に立たん事を証明してやろうと思うただけよ」



 そう言うと左拳でサンダルフォンの頭部を殴り付けるシュテン。

 シュテンの二倍以上の体躯を誇るサンダルフォンは殴られた衝撃で勢いよく落下し、地面に叩きつけられた。

 宙に浮いているシュテンはサンダルフォンを追うように、ゆっくりと降下を始める。



「相も変わらず自由気ままな御方よのぅ……」



 タマモは降下するシュテンの背を見送りながらそう呟いた。

 背後に控える自身の相手は他愛もないとばかりに……

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