八十六話 背信
俺達を迎えに来たと言うカルマとリノレ。
すでに各国の代表者は城に向かっているらしい。
フィルセリア代表の法王のみ、帝国ホテルで待機中のようだ。
理由など聞くまでもない。チノレの警護の為だろう。
カルマは俺達の捜索をセリオスから依頼され、この街にあるレイルハーティア教団支部に協力を要請しに向かっていた。
その途中偶然にも俺達を発見したようだ。
「わざわざ申し訳ないな……。リノレも迎えに来てくれてありがとうな。大勢の信者に迷惑掛けなくて済んだ事がせめてもの幸いか……」
「いえ、お役に立てて光栄ですフレム様!」
俺は謝罪と感謝を述べながらリノレの頭を撫でた。
嬉しそうに一礼するカルマとお迎えが成功した事で笑顔満点のリノレ。
多分カルマが嬉しそうなのはリノレと行動できた事と、リノレの笑顔につられてのものだろう。
「むぅ~~、もうデートは終わりかぁ……」
「ははは、楽しかったけど続きはまた今度な」
呪ってるんじゃないかと思えるほどカルマを睨んでいたハミル。
そのハミルもリノレの笑顔を見て諦めたようで残念そうに呟く。
俺がハミルの頭を撫でながら慰めた事で機嫌を直し、この一件が片付いたら改めてデートを再開する事になった。
「さて、セリオスはもう城に向かったんだっけ? それじゃ俺達も……」
俺は言いかけた言葉を途中で止めた。
怒られるから行きたくないとかではない。
実際怒られるから行きたくないんだけどそうじゃない。
何やら近くの大きな教会から、棒や鈍器などの武器を手にした物々しい雰囲気の人々が出てきたのだ。
「あれはウチの信者達!? 待機命令が出ていたはずですが……」
カルマの話ではこの街の信者達には先日の間に、法王が警戒体制のまま待機するようにと指令を出していたらしい。
俺達の捜索の依頼はもちろんまだ出してはいなかった。
「なんか様子がおかしいな……」
「行ってみましょう」
俺の疑念を受け、カルマが確認しに行こうと促す。
信者達の群れって凄い怖いけど、仕方がないので俺達も同行する事にした。
「お前達! 誰の指示で勝手な行動を取っている!」
険しい顔をした集団の先頭、十代後半と見られる気品のある少女に向けてカルマが問い掛けた。
少女は薄く笑みを浮かべてこちらに向き直る。
「あら? これはこれは、背信者様ではありませんか。それではそちらが噂の邪神の子ですか?」
少女はカルマを一瞥すると俺の服にしがみ付くリノレを睨み付けた。
言うまでも無くカルマは即座にキレ始める。
「テ……メェ……。今誰に向かってなんつったぁ? 死にてぇのか!」
声が大きく口調も荒々しいカルマ。
止めなさいカルマくん。誰がどう見てもアチラが正しく見えますよ。
と、俺は怖いので心の中でオロオロしていると、信者達が俺達を囲んで武器を構えた。
「何か間違っているかしら? 信仰対象を良く分からない物に勝手に変えて置いて……、皆が付いてくると本気で思っていたの? バカにしないでちょうだい!」
こちらも強い口調で返す少女の言い分。俺がこう言ってはなんだが……
全面的に正しくないかな? 冷静に考えて、他国にある支部までチノレ漬けになっている訳はないと思っていたのだ。
反発心が芽生えるのは当然だろう。
カルマも気付いたようでさすがに言い返せなくなっている。
少女は鬼の首を取ったように見下した笑顔を作った。
「という事なので、私達は新しい神……。ゼラムル様の名の元に……、貴殿方邪神の使いを粛清しますわ」
などと宣う少女。おっと、少女よ、それはない。
どうしてそっちに移るんだ? レイルハーティアとかいう奴、実は人気無いのか?
「フレム様、リノレ様、これはこちらの落ち度です。このクソは私にお任せください……。フレム様とリノレ様はどうぞ城の方へ……。おい、ハミュウェル、しっかりとお守りしろよぉ……」
目を見開き爆発寸前のカルマは鼻息荒く、最後の理性で俺達にこの場から離れるよう促した。
急がなくてはならないのは事実だが……。このタイミングでゼラムルの名が出た以上、今回の件と無関係ではないだろう。
「いや、いくらなんでもこのままって訳には……」
「お願いしますわぁ……。俺は、コイツら、許せねぇ……」
萎縮しつつも俺は場を落ち着かせる方法を考えようとするが……
その間も段々言語がおかしくなって来ているカルマくん。
そうだな。俺が居ても意味はなさそうだ。
カルマくんのお顔が歪みまくりで凄く怖い。
仕方がないのでここは彼を信じて脱出しよう。
「分かった。法王に知らせてくる! 無理はするなよ。信じてるからな!」
「は! ありがたき幸せぇ!」
俺の言葉に悪そうな顔で笑みを浮かべるカルマ。
本当に信じてるからな! 死ぬなよ信者達!
とは言っても俺達は囲まれている。斬る訳にもいかないので、そう簡単に脱出なんて……
「邪魔だよ」
そんな心配は無用だった。短く告げられるはハミルの一声。
ハミルが腰から抜き取った地天の杖の一薙ぎで、俺達の目の前に居た信者達は地面に拒絶されたかのように吹き飛んだのだ。
この子は本当に容赦ないな。ともかく、道が出来た事で飛び出す俺とハミル。
しかしリノレが着いて来ていない。
「リノレ!」
俺はそれに気付いて立ち止まり振り返る。
リノレは逃げる気配もなくカルマの側に控えていた。
「おにいちゃん、リノレ残るよ。お話しすれば皆仲良くなれると思うの」
「いや、だけど!」
リノレの優しい言葉を尊重してやりたい気持ちはある。
だけど凝り固まった思想の人間ってのが居るのも事実だ。
いきなりそんな奴等と対話なんかしたって、リノレの心に影を落とす可能性の方が高い。
かといって決め付けで引き離すのも違う気がする……
俺は悩みながらも決断した。
「くっ! 仕方ない。カルマ! リノレの事任せられるか!」
「お任せを……、お任せを!!」
俺の言葉に先程とは比べ物にならないくらい力強く応えるカルマ。
大丈夫だろう。カルマのリノレ狂いは本物だ。きっと守ってくれるはず。
俺達に出来る事はこの状況を作った者。
法王をあの信者達の群れの中に一刻も早くぶち込む事だけだ。
あの信者達がもしもリノレの体に……、いいや、その心に僅かでも傷を作ったのなら、俺も容赦はしない。
「行くぞハミル! 帝国ホテルの場所は覚えてるか!」
「ふっ、僕を誰だと思ってるんだいおにーさん! 覚えてる訳ないよ!」
俺の力強い問いかけに元気良く親指を立てて答えるハミル。
そうだ、俺達だけで戻れる訳がない。絶対に不可能だ。
そう確信しつつも……、もはや駆け出した足を止める訳にもいかなかった。
ーーーーーーーーーー
同刻、湿地帯の沼地にて。
魔物の集落に降り立ったマトイと合流を果たすラグナート達。
「よ~、マトイ! 大変だったんだってなぁ!」
「本当だよ! ともかく間に合ったみたいだね! このエレガントに成長したマトイちゃんが来たからには……、って、何で知ってんの?」
ヘラッと笑いながら片手を上げて挨拶するラグナート。
それを見て安堵するマトイだが、自分達に何が起こったのかを知っている様子に戸惑いを見せる。
そこで状況を聞かされるマトイ。
すでに湿地帯ルートの仕事は完了し、マトイ達の事を忘れて帰るところだと知ったマトイは暴れだした。
火を吹き、転がり、癇癪を起こす。
どの辺りが成長したのか教えてもらいたいと、ラグナートは空笑いを浮かべている。
「お前達、皆無事か?」
一際心配そうな声を出したのはゼファー。
巨竜が暴れ回る惨状を呆然と見つめるカイラ達の元に、ゼファーがシリルの肩を借りて歩み寄る。
「ああ、そっちこそ……ボロボロじゃねぇかよ。情けねぇな」
「はは、無様なものだ。私が操られたりしなければ、お前達にそんな傷を作らずに済んだも……の……を」
悪態をつくカイラに軽く笑いながら弱音を吐くゼファー。
ボロボロのカイラを見て、ワーズを見て、そしてマントで肌を隠すルーアを見たところで言葉を止める。
シリルに掛けていた右腕を下ろし、左手で顔を覆って震えだしたゼファー。
「カイラ……、今更私は父親などと言えた義理ではないが……、お前はなんて事を……」
「は? いや待てよ。この説明何回すれば」
嘆くゼファーは、カイラが弁明を始めた直後に右手を突き出した。
そこから大気を圧迫する鈍い音が放たれ、作り出された空気の塊でカイラは吹き飛ばされる。
「すまんルーア……。私が孫だなんだと余計な事を言わなければ……。あの愚息には物事の順序というものをキッチリと教えてやらねば……」
「いいいいやいや、待ってくださいゼファー殿! これには訳が」
懺悔をしながらもゼファーは使命感に燃える。
慌てて止めようとするルーアだが、暴風を纏うゼファーは止められない。
地面を転がるカイラに近付く危機。
ワーズはいきなりの事態に動転し、ガードランスは体育座りで成り行きを見守っていた。
「はぁ、まったく何をやって……、あ、ヤバ……」
シリルはイリスと共に茫然としていたが、すぐに顔色を変えて慌て始める。
大混乱の中、ついでと言わんばかりに水竜の剣が輝き始めたのだ。
ヴァルヴェールは暴走状態のまま封印されている。
今目覚めたらどうなるか、誰にも想像がつかなかった。
「し、シリルくん! 止めて!」
「え? 急にそんな事言われても!」
「シリルくんに止められなかったら誰が止めるのよ!」
イリスもすぐに気付き停止を呼び掛けるも、シリルは切羽詰まって大慌て。
更に騒ぐイリスの慌てように気付いたゼファー、ラグナート、シトリーも警戒体制に入った。
樹海組は当然何がなんだか分からずに混乱している。
水竜の剣の輝きはその輝度を高め、そして弾けた。
「ふぁ~、おはようございますぅ皆さん! お揃いですねぇ? それじゃ元気にハジュンを凝らしめましょう! 罪状はキャラ被りです! 重罪ですね。色が違えば許されるなんて事はないのです! 事象の彼方に永遠に封印して差し上げましょう~!」
ヴァルヴェールはシリルの周囲を回りながらのほほんと現れた。
首を仰け反らせ、尻尾の先をピコピコ揺らしている。
その姿から暴走の危機は免れたようで、一切の不穏な気配は消えていた。
シリルは安堵しながらも、ヴァルヴェールを見つめるその目は悲しげである。
「ん? どうしましたシリル?」
「ヴァルヴェール……。いや、急に消えたから心配したよ。元気そうで良かった」
問い掛けるヴァルヴェールから、シリルは一瞬だけ目を反らす。
だがシリルは悲しさと悔しさを振り払い笑顔で向き直った。
いつか必ずヴァルヴェールの心の闇を払い、彼女の力になる事を決意して。
「その件ならおまえが寝てる間に片付いたよ。ハジュンはゼノンが回収して行っちまったがな」
「あらそうなんですか? 残念ですねぇ。私とシリルがコテンパンにする予定でしたのに……」
一先ずの憂いが晴れ、ラグナートはヴァルヴェールに経緯を説明した。
覚えていないなら、先の暴走に関しては触れない方が良いだろうと判断する。
「ゼノンの奴……、せっかく思い知らせてやろうと思ったのに……。私は上位竜族だって追っ払えたんだから……」
マトイも巨大化を解いてブツブツと文句を言い始めた。
ゼノンは千年前のマトイを知っている数少ない者の一人。最終的に敵対していたとはいえ、仲良くふざけあっていた時期もある。
認めて欲しかったという気持ちが少なからずあったのだ。
ラグナートはマトイの気持ちを察し、ふよふよと浮いているマトイの頭をそっと撫でた。
「わざわざ確認しなくたってゼノンも、俺達だって分かってるよ。上位の竜族を撃退したなんて大したもんだ。良くやったよおまえさんは……」
「そうだ。もはやその力を疑う者などおらんだろう。胸を張るのだ」
ラグナートに続き、ザガンもマトイを誉めちぎる。
特にザガンは直前までの力量差を目の当たりにしているのだ。
それを瞬時に埋めた事は称賛に値した。
「そ、そっかな? えへへぇ~、帰ったらフレムにも言ってやらなきゃ! フレムも誉めてくれるかなぁ?」
「ええ、もちろんですわ」
クルクルと回りながら照れるマトイに笑顔で答えるシトリー。
ようやく穏やかな空気が戻って来た瞬間。
そこで改めて情報交換を行う流れになったが、それをルーアが制止する。
「そ、その前にこれを何とかしてくれ! いつまでもこんな格好は……、はずかしい……」
今にも泣きそうな声で訴えかけるルーア。
相も変わらずマント一枚羽織っているだけなのだ。
これを受けてザガンとシトリーが転魔の杖に取り付けられている玉石に手をかざし、ルーアの衣服を取り出そうと試みる。
一瞬だけ輝いた玉石。そして宙に舞う小指程に小さな布切れ。
それは唖然とするルーア達の目の前で風に流されていった。
「……すでに衣服が収納された状態で再度魔術を行使したのが原因か?」
「ふぐっ……」
冷静に原因を考察するザガンの前でガン泣き寸前のルーア。
ほぼ素っ裸で帰らねばならない現実が妙齢の少女の心に影を落とす。
「な、泣かないでくださいまし!」
「こ、これはあれだな! フレムが気付かなかった事が主な原因だな!」
慌ててなんとか宥めようとするシトリーとザガン。
とりあえずザガンは責任をフレムに擦り付けようと考えた。
「ぐ……、そうだな。あの男、帰ったらただではおかんぞ……」
ルーアはフレムへと怒りの矛先を向ける事で、なんとか涙を拭って堪えきった。
そこである程度の情報を把握したゼファーは改めて謝罪を始める。
「カイラ……、他の者達も……すまなかった。助力を乞われたにも関わらず、私は邪魔をしてしまったな……」
「俺達は強くなったんだ。お前の助けなんか今更必要ねぇんだよ」
ゼファーは力になれなかったばかりか敵に回ってしまい、挙げ句助けられた事を恥じた。
その口惜しそうにするゼファーに向かい、カイラはぶっきらぼうに言い返す。
「カイラ! なんて言い方をするんだ! ゼファー殿はお前の……」
「だから! 後は俺達に任せて隠居してればいいんだよ! そうすりゃ……、力を振るわずに済む……。また皆で、暮らせる日が来るはずだ。そうだろう? 親父」
ルーアはカイラの口の聞き方を諌めようとするが、続くカイラの言葉でその真意にようやく気付いた。
ゼファーに協力を求める事に及び腰だった理由。
そもそもゼファーはハシルカが仕留められなかった魔神を一瞬で滅ぼした事で、それを見た人々から畏怖の目を向けられた。
神剣を持つ勇者達を遥かに凌ぐ人外の化物。故にゼファーは滅ぶべき悪を演じ、勇者に倒されて国を追われる形を取ったのだ。
あの時ルーア達がもっと強ければ、ゼファーは家族から遠く離れて暮らす事もなかっただろう。
「カイラ……、お前という奴は……」
「いや、待て! それは待……って……ててててて! オヤ……ジ……死、ぬ……」
感涙しながらカイラを強く抱き締めるゼファー。
メキメキと音を立ててカイラは口から泡を吹いている。
加減というものを知らないらしく、ルーアはそれを優しげに微笑みながら見つめていた。
「さて、しかし困ったな。おまえらまでこっちに来ちまうとはな」
「うん? それはどういう事だ?」
ほのぼのとした雰囲気の中、ラグナートは空を見上げ溜め息をつく。
一段落して安心感を覚えていたルーアはその発言に疑問を抱いた。
「そりゃ……、戦力をこっちに割き過ぎだって話だ。なんせ今現在、リヴィアータの首都は襲われてる可能性があるしな」
その疑問にラグナートが答えると同時に場が静まり返る。
特にシリル、カイラ、ルーア、ワーズ、マトイは驚きの余り絶句状態だ。
「まあ、そうだろうな。我等が争った者達の言葉を信じるならば、奴等の驚異としているのはラグナートただ一人。こちらの動きを悟られているのならば、今この瞬間を狙うだろう」
「だ、だったら何をのんびりしているのだ! 急いで戻らねばならんだろう!」
さも当然のように同調するザガン。
気を持ち直したルーアは酷く慌てて叫ぶ。
「慌てたってしょうがねぇよ……。こっちの動きが分かってんなら、間に合わねぇように動かれてんだからな」
「そうですわね。相手のペースに飲まれて足並みを崩すなど、それこそ相手の思うつぼですわ。まずは御自分と仲間の体力も考えませんと」
落ち着いた様子のラグナートとシトリーの言葉でルーアは我に返った。
冷静になって考えれば、ルーア達樹海ルート組でまともな戦力になるのはザガンとマトイのみ。
残りは魔力も尽きて満身創痍なのだ。
マトイとて本当は休みたいほど疲労しているはず。
さっき力の限り暴れてたようにも見えるが、おそらく気のせいなのだ。
飛行もおぼつかなかったのに、そんなくだらない事に力を割く訳がない。
ラグナート達とてそれは同じだとルーアは感じた。
イリスにシリル、ゼファーまでも傷付き、疲れきっている様子が見てとれる。
ラグナートとシトリーはツヤツヤと元気いっぱいに見せているが……
そこはさすが大人の配慮というやつなのだとルーアは結論付けた。
「私とした事がまだまだだな……。視野が狭かったようだ。マトイ、急かしてしまってすまないな。ゆっくり休んでくれ」
「んあ、いいよ。ありがとう、確かにちょこっと疲れたね。少し休んだら飛べるからちょっと待ってて~」
ルーアの言葉で思い出したようにフラフラと地面に降りて寝そべるマトイ。
やはり何だかんだで体力の限界だった様子。
皆も落ち着いたようで、座り込んだり、動力車で横になったりして身体を休めている。
沼地の魔物達はマトイが暴れだした辺りからズラっと遠くに整列、もしくは正座をして大人しく成り行きを見守っていた。
「さ、さて……、シトリー、大丈夫だと思うか?」
「え、えぇ……、駄目じゃ……ないですかねぇ?」
実のところ、一番焦っていたのはラグナートとシトリーだった。
ルーアやザガンはまだフレムと連絡が取れると思っているはず。
慌ただしくて話すタイミングを逃してしまったのである。
本当はただマトイに落ち着いてもらい、呼吸を整えさせたかっただけなのだ。
リヴィアータ防衛に当たるはずの信頼出来る戦力、その半分がこちらに来てしまっている。
もはや一刻の猶予もない。が……、ラグナートとシトリーは言い出す事が出来ず、ただ穏やかな微笑みを顔に張り付けていた。




