七十九話 プロトセラフィム
樹海から離れた僻地で対峙するザガン達と三体のゼラムル教団の者。
第二級天使兵器と思われるゼノン。
生態系の頂点、闘竜ネプトゥヌス。
最上位アンデッドであるイデアルリッチ、プルート。
単体で神や魔王と恐れられ、また崇められる存在である超越者が三体。
まともに戦えば勝ち目は薄いとザガンは感じていた。
とはいえ、このままラグナート達の元に行かせる訳にもいかない。
何故か気の急いているマトイとカイラを諌め、相性も考えた上で慎重に策を練りながら戦う必要があった。
「良いか……、よく聞け。こうなってしまっては戦い方がキモになる……。まずは……」
「何とかする! 何とかして見せるよ!」
冷静な対処を促すザガンを無視し、声を張り上げて叫ぶマトイ。
衝動に駆られた、そんな勢いを持っていた。
「ドラゴンロード! 一対一だ! アンタは私が倒してやる!」
「ふ……、正気か? 良いだろう……。成体にも成れなかった不良品が……。この世界の真の支配者の力を教えてやろう」
マトイはネプトゥヌスに一騎討ちを申し込み、ネプトゥヌスはそれに応じてしまった。
ザガンの策は一瞬で水泡に帰したのだ。
「ではイデアルリッチの相手は私がしよう。同種の変容を遂げた魔神と相対する事など滅多にないからな……。どの様な魔導を行使するのか興味はある」
続くプルートはザガンに狙いを定めた。
明らかにザガンの考えを見抜いての事。
「なんだよ、んじゃ俺は余りもんか? 珍生物にルーアモドキ、いぬっころにガラクタ……。つっまんねぇな」
「そう言うな、こちらも大概だぞ? なにせ……最強種である誇りすら捨て、人間に媚びて生き残った恥さらしだ」
悪態をつくゼノンにネプトゥヌスはそう告げ、マトイを一瞥するとおもむろに翼を広げて飛び去った。
上位竜族の戦闘規模は甚大、この場で戦いを行う訳にはいかないのだ。
「なん……ですってぇ!」
マトイは歯を剥き出し、怒りの相を浮かべながら大地を蹴る。
勢いよく飛び上がり、羽ばたいた翼がネプトゥヌスを追う。
「待てマトイ! こやつらは一筋縄では……」
ザガンの制止も聞かず空に飛び出したマトイ。
瞬間、マトイの身体を一瞬だけ黒い瘴気が覆った。
「汝……、今何をした……」
「気にするな……。下手にネプトゥヌスの怒りを買って殺されるのもなんだろう。生き残る可能性をくれてやったのだ」
ザガンはプルートがマトイに術を掛けたのを確認した。
大した威力のない術式だったが、マトイの為になる術とも思えない。
最悪の展開も予想される。
平常を装ってはいるが、ザガンは内心焦りを感じていた。
「私達も場所を移すか? ネプトゥヌス同様、私達が本気で争えば乱戦などという可愛らしいものではなくなるぞ?」
「むぅ……」
戦線の拡大を想定したプルートの提案。だがザガンはこの場より離れることを躊躇した。
タイミングから考えても、ゼノンは先日フレム達が戦った上位魔神を滅ぼした者と同一存在だろうと推測される。
仮にも上位魔神を一瞬で消滅させる程の力。
先程はその力を全く見せてなかったと言って良い。
正直カイラ達でどうにかなる相手でないのは明白であった。
相性問題を考慮すれば、ゼノンはマトイが相手をするのが妥当だと判断していたのだ。
「大丈夫だ! こいつは俺達に任せろ!」
その懸念を知ってか知らずか、カイラは力強く吠える。
そもそもザガンにとって、追う事を止めなかった事が最大の失敗かもしれないのだ。
こうなった以上、ザガンは彼等を信じるしか他にないと結論付けた。
「分かった……。用心しろよ! 我が戻るまで持ちこたえてくれ!」
ザガンとプルートの身体は黒い煙のように広がり、その場より流れていく。
その流れを見送り残る者、ゼノンはつまらなそうに呟いた。
「どうも……力の差が分からねぇらしいな……。どう足掻いてもお前らじゃ俺には勝てねぇって……」
先程の戦いを見る限り、ゼノンとカイラ達の力の差は歴然。
ゼファーと同格と言うのならば、それこそカイラ達に勝ち目はない。
ガードランスとユガケは居なかったものの、ハシルカのメンバーは手加減されたゼファーに手も足も出なかったのだ。
それでも、この二年で彼等は急成長した。
簡単に負けてやる気の者は一人も居ない。
「ザガンとマトイが、奴等を片付けるまでの時間稼ぎくらいはして見せるさ」
「アホ言うな。俺達がこいつを倒して援軍に向かうんだよ!」
「ゼファー様に掛けた術も解かせねばならんしな」
「ゼノン。タオス」
戦闘態勢に移るルーア、カイラ、ワーズ、そしてガードランス。
決死の覚悟で望む彼等相手に余裕の表情を崩さないゼノン。
「くっくっくっ……。マトイもあのリッチも死ぬと思うけどなぁ……。良いぜ……、やるだけやってみな……。死に物狂いでな!」
ゼノンは口の端を吊り上げ、鋭い眼光をカイラ達に向ける。
迸る殺気に気圧されるカイラ達。
先に均衡を破ったルーアが動き、かざす杖の先に電流が集まってゆく。
「トールハンマー!!」
呪文を唱えるルーアの持つ杖の先から発生した光輝く雷撃。
それは閃光を発したと同時に、威を示す前に霧散する。
「魔術制御の雷なんて俺相手に使える訳ねぇだろ? さすがはモドキ……、頭悪いんだな」
挑発混じりに発せられるゼノンの言葉。
ルーアは予想してたとはいえ、悔しさに奥歯を噛み締める。
「ああそうかよ!」
続けてカイラは手をかざし、ゼノンの周囲に風を巻いた。
それは熱を帯び、巨大な火柱に変化する。
大気が弾ける軽い音と共に、内部から吹き飛ばされる火柱。
ゼノンは薄笑いを浮かべ、当然のように無傷。
ガードランスの銃撃。放たれる無数の弾丸。
全てゼノンの直前で起動を変えられてただの一発も当たらない。
続けざまに高速で飛び掛かったワーズを雷撃が襲う。
「ぎゃん!」
痛ましげに地に落ちるワーズ。
そして追い討ちとばかりに周囲に放たれた雷。
「「うわぁぁぁぁ!」」
カイラ達の身体は煙を上げ地面に横たわる。
ゼノンは槍を肩口に担いだまま、指一本動かしてはいない。
「はぁ……、マジかよ……」
「く……そぉ!」
大きく溜め息をつき、呆れ顔のゼノンに再び飛び掛かるカイラ。
右手に炎の渦を纏い、ゼノンの額を殴り付けた。
避ける素振りすら見せず、拳が直撃しても微動だにしないゼノン。
その表情には、もはややる気など見て取れない。
「まずな、絶対的に攻撃力が足らねぇ」
そう言うとゼノンは槍の末端をカイラのみぞおちに叩き込み打ち払った。
地面を転がり腹を押え、苦痛に顔を歪めるカイラ。
「次に遅過ぎる」
ゼノンは背後から飛び掛かるワーズの首を掴み投げ飛ばす。
今度はガードランスが剣を抜き、ゼノンへ真っ向から突っ込んでいった。
「最後にな……」
一瞥すらくれず、ゼノンはガードランスの剣を手にした槍で軽々と弾き飛ばす。
そのまま一歩踏み込み、素手でガードランスの腹部装甲に手を掛け、力任せに剥ぎ取った。
「ガ……ガ……ガ……」
声にならぬ音を発するガードランスの腹部はバチバチと放電し、その体はよたよたと後ずさり仰向けに倒れる。
その姿は誰が見ても、戦闘続行は不可能だった。
「脆過ぎんだよ……。勝負にすらなんねぇ」
「ガード……ランス……」
ゼノンは仲間を心配するカイラに手をかざし、その前方に放電する雷球が発生した。
内包する魔力はカイラやルーアとは比べものにならない程に高い。
「もういいや、まずはお前だ珍生物。ゼファーにゃ悪いが……。これ以上やんなら死んでもらうぞ」
「く……そ……」
ゼノンの恫喝を受けて何とか立ち上がるカイラ。
その前にふらふらとワーズが割って入ってくる。
「ワーズ……、何やってんだ……。どけ! こいつは俺が……」
「退きませぬ……。ゼファー様にカイラ様の事を託されたあの日から……。我はカイラ様の盾になり、果てると決めておりました」
カイラの前でワーズはゼノンを睨み付けた。
身体中が震え、体勢を維持するのもやっとの状態で。
「ああ……、良い覚悟だ。感服するぜ。じゃ死にな、いぬっころ」
冷たく言い放つゼノンはワーズに向けて雷球を解き放った。
目の眩むような閃光が辺りに迸る。
「ぐ! ……む?」
覚悟を決めたワーズは、何故か雷撃が来ないことに動揺する。
ゼノンの雷撃はワーズに接触する手前で止まっていた。
ワーズの横でカイラが手を伸ばし、必死に風の膜で押さえ込んでいたのだ。
「カイラ様!? 何を!」
「こっちのセリフだ! 初耳だぞ! アイツから託されただ? 俺はアイツから、おまえを任されたんだぞ!」
ワーズを守るように、その身を片手で引き寄せるカイラ。
雷撃が押さえ付けながら、カイラは決死の形相で語った。
「ワーズを……守ってくれってな……。自分の……もう一人の息子を!」
カイラの言葉に唖然とするワーズ。
アズデウス公国が研究の末に作り出した生体魔導器。
子犬に直接魔道具を組み込んだキメラ、それがワーズである。
思った以上の性能が得られず、廃棄処分される寸前で幼いカイラ、そしてゼファーとシャルディアに助け出された経緯を持つ。
自らは道具と認識し、恩人の役に立つ事だけが願いだった。
「こんな……不要な道具を……? こんな……役に立たぬ我を……ゼファー様が?」
「ふざけんな! おまえを道具と思った事は一度もねぇぞ! アイツもおふくろも……、俺もミルスもだ!」
震える声で呟くワーズを全力で叱責するカイラ。
その言葉を受け、頭を垂れて震え出すワーズ。
「だから俺は……アイツの息子として……おまえの兄として! ここで……諦める訳には……いかねぇんだよぉぉぉぉ!!」
カイラの起こした風が雷撃を消し去り、余波の突風が辺りに広がった。
相殺。カイラはゼノンの力に始めて対抗したのだ。
「……へえ、さすがはプロトセラフィムの力を継ぐだけはあるってか? だが、まだ足りねぇよ」
「プロトセラフィムだと? お前は……天使兵器なんだろ? それから……アイツも……」
聞き慣れないゼノンの言葉に反応するカイラ。
そしてすでに分かりきってはいるが、確認するように問い掛けた。
「第二級天使兵器ってやつか? ああそうだ、俺もお前の父親もな。だが……、色々呼び方はあるがな、嫌いなんだよその呼び名……。だって二番だぜ? ま、それも今日までだがな。なんせ一級天使様は……今日限りで全滅するからなぁ」
邪悪な笑顔を浮かべるゼノンは肩口から槍を降ろした。
そしてその刃先をカイラとワーズに向けて振り上げようとする。
「あん?」
ゼノンが槍を持つ右腕の動きが何かに阻まれた。
それは制止するようにゼノンの右腕にしがみつくガードランス。
「なんだ? スクラップが御所望か? つーかお前もう壊れる寸前だろ」
気にする事もなくゼノンはガードランスの巨体を片手で持ち上げ、地面に叩き付ける。
それでもなおガードランスは離れない。
「しぶてぇな、諦めろって」
「ヤダ。ゼノン。タオス。ラグナート。マモル」
「ははは! 面白いな! 量産型アンヘルにギャグを飛ばす機能があったのか? ……無理だよ。そんでもって……」
一頻り笑ったゼノンの口調は低くなり、ガードランスに視線は向けたまま。
振り返る事もせず、背後から近付くルーアに雷を落とす。
「あぁぁぁぁ!!」
絶叫するルーアの全身を強力な雷撃が駆け巡った。
確認などするまでもなく、人の耐えられる威力のものではない。
「ん?」
ゼノンはすぐさまルーアの倒れる音が響くと予想した。
だが地に伏せる気配はしなかった。
代わりにゼノンの腰に何かがコツンと接触する。
それは転魔の杖の先端。
ゼノンは不思議に思い、振り返ってルーアの姿を視認する。
ルーアは存命していた。
服はボロボロであったが、そもそも着ている服がいつの間にか変わっている。
ローブの裾は短く、胸元が大きく開いた大胆な衣装に。
目を凝らすゼノンはその変化に眉を潜めた。ルーアは元素と魔力を結び付けた精霊魔術で全身を覆っていたのだ。
「精霊装衣だと!? レジストしたのか!」
「ゼロ距離なら支配も何もあるまい! 食らえ! 《バニシングフレア》!」
杖とゼノンの間から、溢れる火球を解き放ったルーア。
その勢いに槍を手放し飛ばされるゼノン。
大地を削りながら飛ばされ、地面にうつ伏せになる。
が……、何事もなく立ち上がり埃を払う。
「良い発想だ。で? 次はどうする?」
真顔のままゼノンは周囲を見回した。
ガードランスは槍を握り締めたまま膝を付き動かない。
カイラ、ワーズもジリ貧、ルーアも凌いだとはいえ、雷撃を無効化した訳ではない。
全員体力の限界だろうと推察した。
ゼノンはカイラとルーア、ワーズの前方に移動し右腕を天に掲げる。
上空に輝く光球。凄まじい魔力を持ったそれは、もはやカイラ達には防ぎようのないものであった。
されどカイラ達の瞳はまだ諦めを覚えてはいない。
「どんなに粋がろうと終わりだ珍生物、ルーアモドキ、そしていぬっころ。頑張ったご褒美に……、せめて楽に殺してやるよぉ!」
咆哮するゼノンの言葉とは裏腹に、空に輝く光球はゼノンの予期せぬ反応を示した。
構成魔力に乱れが生じ、制御が不安定になっていたのだ。
「今度はなんだ!?」
ゼノンは苛立つように上空を見上げた。
自らが作った光球から弾けるような音が木霊している。
その音はバチバチと激しさを増し、やがて光球は収縮し消え去った。
「なんだ? 今の反応は!? かき消されたのか!? だがどうやって……」
何が起きたのか分からずゼノンは困惑する。
目の前の三名にそんな事が出来るはずはない。
そもそも、実際にカイラ達は何もしてはいないのだ。
ふとゼノンは背後から感じる魔力に気付いた。
間違いなく光球に干渉したのはソレの仕業。
有り得ない……。ゼノンは内心そう思いつつ、ゆっくりと背後を振り向いた。
「なんの冗談だ……。なんでお前が……、なんでソイツを……」
ゼノンは後方で膝を付く者に語り掛ける。
その者の手には、先程までゼノンが持っていた槍が光り輝いていた。
その槍はゼノンがどんなに粗雑に扱おうと傷一つ付かない。
それ故に愛用していたが、ついにゼノンにはその槍の真価を発揮させることが出来なかった。
「意思なきガラクタ風情が……。なぜ……精霊神器を起動出来る!?」
ゼノンの叫びに答えるように燦然と輝く槍。
精霊神器、雷鬼の槍ヴルギュローフ。
槍から発せられる雷光に包まれ、鋼の騎士ガードランスが立ち上がった。
「ヴルギュローフ!」
その名を呼ぶガードランスの目が文字通り光を放つ。
ガードランスは雷を纏う槍を水平にかざし、脚部のブースターが火を噴きゼノンに突進する。
「ぐ! バカな!? 何故……」
咄嗟にゼノンは右手の指で刃を挟み、左手で槍の柄を押さえた。
いくらゼノンといえど、起動した精霊神器の一太刀を受けて無傷とはいかない。
「ゼノン! タオス!」
ガードランスの言葉に不思議な違和感を感じるゼノン。
所有者の高い精神力と同調し、心を通わせる事で起動するのが精霊神器。
自由意思などない下級天使、特にその行動が設定されただけのプログラム制御である七級などに、起動出来る訳がないのだ。
「ガラクタがぁ……。意思が……、心があるとでも言うのか? アンヘルマシーネごときに……。そんな事……今更ぁ! 認められるかぁぁぁ!!」
狂ったように咆哮するゼノンは自身と、ガードランスに特大の雷を落とす。
衝撃でカイラとルーア、ワーズは飛ばされ、雷撃は絶え間なくゼノンとガードランスを包み込んでいる。
「おらおら! そろそろショートすんじゃねぇのか? いい加減壊れろよ!」
雷で内部回路を焼き切れるという目算だったが、ゼノンの予想は完全に外れていた。
徐々にガードランスの持つ槍がゼノンを押し込んでいるのだ。
「な……に……、効いてねぇのか?」
雷撃の嵐の中で、ゼノンはガードランスがなおも動いている事に驚愕する。
効いてないどころか、ガードランスは力強さを増していった。
均衡が崩れ、ゼノンは咄嗟に飛び退いたが胸部に薄く切り傷を刻まれる。
「もう、容赦はしねぇ!」
再びゼノンの手の平に雷球が形成される。
大きさは手の平に収まる程度だが、先程以上に膨大な魔力を内包していた。
「さあ、互いの雷撃は相手に届くかな? 勝負と行こうぜ……、ガラクタァ!」
勢い良く雷球から電撃を照射するゼノン。
ガードランスは防御もせず真っ直ぐゼノンに向かっていく。
雷撃をものともせず、再びゼノン目掛けて槍を振り下ろすガードランス。
ゼノンは奥歯を噛み締めながら上空に退避し、宙に留まって疑念を膨らませる。
「おかしい……。確実に俺の方が魔力も制御も上だ。なのに何故効かない……」
戦場を見下ろすゼノンは、勢い余って槍を大地にめり込ませているガードランスを見て、違和感に気付いた。
先程剥がしたガードランスの腹部が直っているのだ。
「あそこまで壊したら修復なんて……。少なくともこんな短時間の自動修復機能なんぞねぇだろうに……」
ゼノンが空中で考え込んでいると、地面から奇妙な音が鳴り響いてきた。
掘り進むような重厚な音。そして突如、地中から突き出した白銀の刃がゼノンを襲う。
「なんだこりゃ!?」
間一髪かわしたゼノンを取り囲むように、地面から次々現れる白銀の刃。
それは意思を持つようにしなやかに動き、光り輝いている。
ゼノンは周囲に雷撃を放ち牽制するも全く効果が出ない。
地上に居るガードランスの持つヴルギュローフの先端、刃の部分は尋常じゃないほど伸びていた。
「そうか、くそ……。雷鬼の槍ね……。紛らわしい名前しやがって……」
ゼノンは一斉に襲い掛かって来る刃を素手で薙ぎ払い砕く。
間髪入れずに地上から、大きく振りかぶった刃が降り下ろされた。
そのガードランスの斬撃を魔力障壁を使い押さえるが、ゼノンはそのまま地上に叩きつけられた。
「く……、雷を忌避する槍……。つまりヴルギュローフの能力は雷を操る事じゃなかったってことか……」
地面にめり込んだ身体を起こしながら、ゼノンは言葉を投げ掛ける。
ガードランス、その背後に居る者に。
ここまでの性能を発揮しているなら、信じられない事だが初期起動なはずはない。
居るはずだ。ゼノンのかつての盟友が……
ゼノンが認める人間は二人だけ存在した。
一人はヴァルヴェールを『水竜の剣』として扱わなかった者。
そしてもう一人はファシル帝国初代大将軍。
人の身にて戦場を駆け回り、格上の超越者に対しても一矢報いて生き残る。
救世主の異名を持つ豪傑。
その風貌は筋骨粒々の厳つく、渋く、威厳ある大男。
その名も高きメサイア・ギュローフ。
その予想を肯定するかのように。
ガードランスの背後から低く、渋い声が上がる。
「その通りだ! 金を支配し、木を征するは我が能力! 五行相克の一つよ! 雷など木属性の派生に過ぎぬ……。帯電、絶縁など思いのままだ!」
ガードランスの背中から這い上がり、ちょこんと頭に乗る物体。
それは固く開かない短い手をゼノンにビシリと向けた。
金色に輝き、長い耳を後ろに垂らし、つぶらな瞳をゼノンに投げ掛ける。
金色のウサギの姿がそこにあった。
(なんて……なんて姿をしてやがる……。ウサギって……、なんだよウサギって!!)
そっと心の中で呟くゼノンは冷静を装い、自らの魔力を高めていく。
金ウサギを視界に入れないように……
今のやり取りを無かった事にするように……
「悪かったな……。お前らを小物と舐めた事は詫びてやる。良いぜ、改めてかかって来い。ゼファーの子、ルーアを継ぐ者、気高き獣よ。そして……アンヘルマシーネ……。いいや、ガードランス! プロトセラフィムが一体、天空を祓う者……、この雷帝ゼノンが相手になる!」
ゼノンを中心に大気がゆっくりと押し出される。
先程とは違う、ゼノン本体から発せられる竜波動にも近い覇気。
その緊迫感を持って、ゼノンはその場の空気を取り繕った。




