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六十八話  待機組のお茶会 前編

 ザガン達を見送った俺達。

 いきなりマトイで飛んで行くわけにはいかないらしいので、ワーズが久々に役に立てると張り切っていた。

 アイツラどうやってリヴィアータに来たのか忘れたのだろうか?


 徹底した情報規制故に軍人も敢えて配備させなかった事。

 例の魔神騒ぎを理由に外出禁止令も出していたらしいが……

 そのお陰で見られなかった可能性もある。だが白昼堂々と大陸横断して街中に降り立ったくせに……

 敵に見付かってたって不思議じゃないぞ。


 ともかくこれで宿に残っているのはアガレスとチノレ、リノレ、エトワールにロザリー。

 エトワールはともかくとして、基本的に皆遊びに来てる感覚なのにどうしてロザリーが来たのか分からない。



「ところでなんでロザリーは付いて来たの?」


「今更? 私は教団の裏切り者なのよ? あんな所に一人で留守番なんて出来るわけないじゃない! 本当はシトリーお姉様についてたかったけど……。本部の魔神とラグナートが怖いから貴方達で我慢するわ。意地でも離れないから!」



 俺の疑問に答え、ロザリーはササッとエトワールの側についた。

 忘れてた。コイツ元々敵だったな。でも多分、こっちの方が危険な気がするんだよね……

 ついでに俺はセリオスに確認しておかねばならない事を思い出した。



「時にセリオスくん。ここまで来て各国の方々に色々隠しているようだけど、大丈夫なのかい?」


「その点ならば問題ない。国家機密というところだ。そもそも他の国も手札を伏せているのは同じだろう。これからの作戦会議でその辺りも多少は掘り下げよう。特に精霊神器が使えない可能性が高い今、ジュホン帝国の持つという三種の神器の性能も気になるしな」



 俺にはうかがい知れない心理戦でもしてたのかセリオスよ……

 国家機密、便利な言葉だな。三種神器とはこれまた……

 何かカッコ良い魔道具が出てくるのかな?

 俺は少しワクワクしたが、天使兵器だった場合あまり意味がないので過度な期待は持たないことにした。

 ともかくそう言う小難しい意図があるなら、俺が考えを巡らせても仕方がない。


 アガレス達を宿に残し、俺とセリオスはホテルのロビーに戻った。

 そこで法王とハミルが何やら言い合いをしている場面に遭遇する。



「なんで僕は行っちゃダメなの! シリルくんやルーアちゃんが心配だよ!」


「おまえは謹慎だ! いつも突拍子もない事ばかりしおって!」


「ワーズやガードランスは良いの!?」


「ガードランスは依頼でアズデウスに、ワーズ殿は元々アズデウス公国の者だろうが! チノレ様の意向で連れて来られたのだろう? ならば問題ない!」



 交互に喚き散らすハミルと法王。

 側に居る退魔神官カルマは呆れたようにそれを眺めていた。

 このカルマという少年。シリルの話では昔から素行も悪く気性も荒い、喧嘩っ早くてどうしようもない奴らしいが……

 ハミルパパが数年前に無理矢理教団に入信させたらしい。

 レイルハーティアに信仰心など当然のようになく、魔神をぶちのめす為だけに退魔神官をやっているような男だそうだ。

 法王が何故こんな奴を連れて来たのか、シリル達にも分からないそう。



「こちらはこちらで油断は出来ないのだがな。今後の作戦を練る必要があるというのに……」



 セリオスはそう呟き、あまりの緊張感のなさにか表情を曇らせる。

 そんなセリオスや俺に気付いたカルマが近寄って話し掛けて来た。



「セリオス王子。戦闘になったら真っ先に俺を頼ってくれ! ハシルカなんぞより余程役に立って見せるぜ!」



 口の端を上げ偉そうに語るカルマ。

 彼は度々ハシルカと喧嘩になり、特にカイラと仲が悪いらしい。

 双方気が荒いからな。多分同族嫌悪と言うやつだろう。



「どうでも良いけど協調性は欠いちゃダメだよ少年」


「分かっておりますフレム様」



 俺がおっかなびっくり注意を促すと、会釈程度のお辞儀をして敬語まで使ってくるカルマ。

 思ってたよりは礼儀正しい。一応は教団の意向には従うということか。


 その時ロビーに入って来たリノレとチノレ。

 リノレの手にはアガレスがある。

 何故リノレがアガレスと一緒に居るか……

 理由は単純、ポシェットの中のオヤツが痛まないよう、アガレスの能力で鮮度維持を行っているためだ。

 睡眠瘴気で逆に痛まないか? と思うが実際出来るのだから不思議である。



「おにいちゃん。リノレ、おかあさんとお散歩行きたい!」


「にゃ~~」


「散歩かぁ……。そうは言っても今散歩は危険じゃないかな? かといって一日二日で解決するわけないけど……」



 散歩を所望するリノレとチノレ。俺は許可を出すのをためらった。

 皆出掛けてるから退屈なのだろうとは思う。

 新しい街を散策したいと言う気持ちも分からないではない。

 チラリと後ろを振り向くと、法王とカルマはいつの間にか俺達の側で膝を付き、頭を垂れていた。



「お久しぶりですチノレ様、リノレ様。その警護の任、何卒我等にお任せ願いたく!」



 凛々しく丁寧かつ勢いのある口調から、法王が必死である事が伺える。

 会議が始まる前にチノレ達が来たことを伝えてから、ずっとソワソワしてたからな……

 おそらく自分の立場を完璧に忘れているだろう。

 だが戦力的に見れば、ある程度固まってくれた方が良いのではないだろうか。

 アガレスも付いているし問題ないだろう。むしろ俺もこちらに付いて居たい。



「じゃ~お願いしようかな。リノレ、あんまりわがまま言っちゃ駄目だぞ」


「はーい! よろしくねおにいちゃん!」



 俺の注意に元気良く答えたリノレは、頭を垂れたままのカルマの頭を撫でた。

 プライドの塊のようなカルマにそんな事したら怒って暴れるんじゃなかろうか?

 俺はプルプル震え出したカルマとリノレの間にそっと割り込んだ。

 ポタリポタリとカルマの顔から雫が落ちている。

 悔し涙だろうか……



「リノレ様に……頭を撫でて頂けた……。生きてて……、生きてて良かった……」



 震える声を絞り出すカルマくん。

 全然大丈夫そうだ。カルマくんが流しているのは感動の涙だった。

 彼は立派な退魔神官であらせられたのだ。



「ズルいよ法王様! 自分ばっかり!」



 対してハミルは身勝手な法王に対し憤りを覚えているようだ。

 この展開を見せられたら当然と言えば当然である。



「ええい! 仕方がない! ハミュウェル、おまえにはフレム様の警護を命じる!」


「かしこまりました法王様! その任務、全力で当たらせて頂きます!」



 法王の指令をやたら恭しく受け取るハミル。

 瞬く間に態度を変え、ビシッと直立して敬礼している。

 シリル達はもう良いのかよ……



「はぁ……、とにかく会議の続きだ。といっても戦力の確認程度しか出来そうもないが……。その前に……、エトワールとロザリー、チノレ殿リノレ殿は我らより先に現地入りしていた事にしてくれるよう陛下に進言してくる」



 一部始終を見守っていたセリオスは溜め息をつき、今後に向けて動き出した。

 あれだけ存在を隠そうと必死だったのに……

 セリオスはエトワールの身の安全のためならば体裁もくそもないようである。

 俺がしっかりしなきゃな。


 アガレスはどうするんだろう? と感じたが……

 彼はもうフルメタルで動き回る事に疲れたようだったので、各国への報告はしなくて良いという判断なのだろう。



 ーーーーーーーーーー



 ゴルギアートに話を通し、エトワールとロザリーはアーセルムの客室に待機してもらっている。


 会議室に集まった者は少ない。

 ゴルギアート、ガルシアさん、リリスさん。

 セリオス、俺、シャルディアさん、フォルテ、ボルト爺さん。

 そしてちゃっかりハミルが交じっている。


 ジュホン帝国は部屋に籠り待機しているそうだ。

 先の会議で失態をしでかしたので作戦を練っているのだろうとの事。

 フィルセリア組も居ないから何も言えないが、ジュホン帝国は半ば孤立化していた。


 シトリーから借りて読んだ本でこういう展開があったな。

 孤立したヤツは敵が現れたら真っ先に殺られるお約束だ。

 何とかして早めに仲良くなっておかないと……


 円卓の席に着く俺達の前にコーヒーや茶菓子を置いていくリリスさん。

 もうこれ会議じゃないな。ほのぼの楽しいお茶会だな。



「まあ楽にしてくれ。二ヵ国も席を外しているのだ。気晴らしの雑談くらいに考えてくれ」



 この国の皇帝ゴルギアートの発言に皆肩の力を抜く。

 気を張りっぱなしで正直疲れていたところだ。



「ちなみに皆何か秘密兵器があるんですか? まだ戦力が増えるならもう少し気が楽になるんですが……」



 俺は会議改めお茶会開幕即座に問い質した。

 あ、このコーヒー美味いな。と考えながら気楽にだ。



「ちょ! 待つのだフレムくん!」



 セリオスが慌て出している。良いじゃないか減るもんでなし。

 ほら、ゴルギアートだって感心したような素振りを見せている。



「ほほぅ、流石だな。確かにリヴィアータ帝国でもいくつか隠し玉がある。だが使える物は少ないぞ」



 話に乗ってくれたゴルギアートによると、リヴィアータ帝国では銃器を主体とする軍備、移動式の大砲なども所持しているとのこと。

 だが魔神戦を想定するなら大して役に立たないらしい。

 魔道具を扱う者や魔道士ももちろん居るが、在中するレイルハーティア教団の退魔神官含め、上位の魔神相手には刃が立たないだろうとのこと。



「対魔神に有効な武器はあるが、もっとも有効と目された天使兵器が無効とされるのは痛いな。我が国で保有する光神鎧サンダルフォン、第四級ドミニオン五隻もおいそれとは動かせまい」



 眉間にシワを寄せて難しそうに語るゴルギアート。

 つまりあの白銀の巨大鎧も天使兵器ということだ。

 さらっと言うゴルギアートに俺は気になることを告げた。



「ゴルギアートは天使兵器について知ってるのか?」


「そうですな、私も最近まで知らなかった事です」



 平静を取り繕ったセリオスがここぞとばかりに追従する。

 何故神話のおとぎ話と化している天使兵器の名が軽く飛び出すのか……

 聞き流す訳にもいかないのだろう。



「ここまで来たら言っておこうか。このリヴィアータは神の国……、そう呼ばれたファシル帝国の属国だったのだ」


「それならばこちらからも情報を提供しましょう。アズデウス公国も同じくファシルの属国ですからね」


「実は私もファシル帝国に詳しいですよ~」



 ゴルギアートの発言にシャルディアさん、そして何故かリリスさんまでも話に割って入る。

 ここまで来たら俺達だけ黙りというのは失礼だ。



「じゃ俺達がラグナートとヴァルヴェールから聞いた話も入れてまとめてみるか」



 俺はそう提案し、セリオスも笑みを浮かべて同意してくれた。

 あの顔は多分、後でお説教だ覚悟しろという意味だろう。

 めっちゃ怖い。出来る限り余計な発言は控えようと心に誓った。

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