六十七話 六ヵ国会談
美しいメイドさんの案内で会議場に入る一同。
立派な円卓に各国の代表者達が席に着く。
側近や冒険者扱いの者はその後ろに立つようだ。
耳打ちしたり不測の事態に対応するには良いのだが、ずっと立ちっぱなしは辛いものがある。
リヴィアータ帝国からは皇帝ゴルギアート。
皇帝の側近及び御世話係りのガルシアさん。
そして冒険者として、先程俺達を呼びに来たメイドのリリスさん。
こう見えて素手で魔神を殴り殺せる猛者らしい。ちなみに凄い巨乳だ。
アーセルム王国からは第一王子セリオス。
そして男爵扱いされてる俺、フレム。
冒険者枠でイリス。
フィルセリア共和国は法王ブェリョネィース。
愛想もなくチンピラ全開の退魔神官カルマ。
冒険者のシリル。
アズデウス公国からは貴族代表シャルディアさん。
側近枠でルーア。
冒険者としてカイラ。
ジュホン帝国は現在病に伏せて居る皇帝に代わり、第一皇女タマモ姫が統括しているのだとか。
なので今回の代表は第二皇女ミコト姫ちゃん。
側近のコウメイという偏屈そうな爺さん。
冒険者枠はハバキの野郎だ。
グレイビア王国からはフォルテ王子。
とても優しそうにニコニコしている執事風の爺さんボルト。
フォルテの幼少からの世話係りなのだそうだ。
冒険者として我等がラグナート。
以上総勢十八名にて会議が執り行われる。
簡単な挨拶が行われた後さっそく本題に入った。
撃破したゼラムル教団幹部からの情報に続き、先程の謁見で話したリヴィアータの現状。
敵拠点と思われる場所の周りが不可侵勢力だらけという事。
さらに旧ベルゼーブ領手前の街には敵信者達による防衛線が張られている事。
そしてリヴィアータでは作為的に船が壊され、海も荒らされて各国の援軍が見込めない事を語った。
リヴィアータ帝国も俺達が到着して程なくやられていたらしい。
もちろん元々の情報源は伏せてある。
ザガン達の説明など面倒を増やすだけだからな。
「各国の軍隊を動員しての物量勝負は出来なくなったわけだ。つってもようするにそれは亜人対策の最終手段だったんだろ?」
「坊っちゃま! 御言葉にお気をつけください! 世界各国の王族の方々なのですぞ!」
「坊っちゃまはやめろって! 恥ずかしい……」
「じいは心臓が止まる思いでございます……」
全く尻込みしないフォルテにボルトは涙ながらに嘆く。
フォルテは王族なのにこういった場は苦手なようだな。
こういうヤツが居ると俺の緊張感が和らぐから助かる。
「構わぬよ、ことここに至って我等は対等と思っている。フォルテ殿の言う通り。軍隊はあくまで威嚇だ。民や各国の軍人、亜人に至るまで被害を出す気は元よりない。まして上位魔神数体が相手なら、我が国の軍備を持ってしても勝ち目は薄い。だからこそ対魔神に連なる者達に集まってもらったのだろう?」
あくまで共同戦線。上下はないと語るゴルギアート。
それを証言させるかのように、ゴルギアートの視線がセリオスに移る。
「ええ、各国の名だたる勇士の方々の援軍が見込めないのは残念ですが……。各国が保有する対魔神に有効な術がここにある……。今この場に居る方々は世界有数の魔払いと考えています。最低でもこの状況を打破する為に敵の内情を知り、援軍を呼べる状況に持ち込まなくてはなりません」
セリオスはどうも策無しでお話しが出来ないようである。
各国の援軍など当てにせず、一気に攻める腹積もりのくせに……
「だが我々は閉じ込められたようなもの。人の住む場所やこの首都の守りも疎かには出来ん。いや、状況からして狙われているのはここに居る我々だろう」
「ではリヴィアータ軍には首都及び人の住む街を警備してもらい、この場に集めた戦力で旧ベルゼーブ領を調べる……。という事ですかな?」
ゴルギアートの発言にジュホンの家老コウメイが確認するように問い掛ける。
さっそくで悪いが俺は眠くなって来た。簡潔に願いたいものだ。
「それが今打てる最善ですな。我等チノ……レイルハーティア教団の支部はこちらにもあります。防衛の足しにはなるでしょう」
法王は何か言い直したが聞かなかった事にしよう。
もう神竜レイルハーティアに信仰心ないんじゃないかなこの人。
「ええ、しかしそのためには、現在旧ベルゼーブ領近くの街に立て籠っておる信者達を制圧せねばなりません。我が軍も時間を掛け百名程配備してますが降着状態でしてな。相手もおそらくは利用されている人間達……。あまり被害は出したくない」
「それなら俺に任せな。交渉は得意だぜ」
ゴルギアートの懸念にラグナートが名乗りを挙げた。
ラグナートが交渉上手とは意外過ぎる。
というか信じられん。絶対嘘だ。
「ではどう進むかだな……。普通に行軍しては亜人達の領域に侵入する事になる。それを回避するには数週間掛けて大きく迂回するか……」
ゴルギアートが言うには真っ直ぐ進んでも三日程は掛かるらしい。
動力車を使っても旧ベルゼーブ領手前の湿地は抜けられないそうだ。
「時間は惜しいな。その湿地を通るルートで行きたい」
ラグナートはあくまで強気に話を運んでいる。
余程自信があるのだろう。ワクワクしているようにさえ見えた。
単なる戦闘狂でない事を見せ付けたいのかもしれない。
「亜人達を刺激しないように……。となれば少人数で行くしかありませんね。あくまで最初は偵察のみと考えた方が良いのでは?」
シャルディアさんは現場に行く者達の負担を考えて提案したのだろう。
そう、無理はいけない。俺が行く事になるかもしれないからだ。
「それならば今の内に後顧の憂いを絶っておきましょう。懸念材料の一つ、樹海に住み着いたと言われる魔神を始末することを進言します。お恥ずかしい話ですが、かつて私共が逃した魔神の可能性が高いのです。その始末をアズデウス公国に請け負わせて頂きたい」
ルーアの回りくどい言い方から察するに、多分例の魔王の事なのだろう。
要らぬ不信を買わぬよう、なるべく内密に樹海に居ると思われるゼファーに接触しようと考えたのだ。
ここで話を通しておけば堂々と会いに行ける。
「そういう事なら、わらわからも提案じゃ! 我国で取り逃がした大鬼の始末と拐われた姉上の奪還をしたいのじゃ! その偵察隊にわらわも交ぜてくれ!」
「ひ、姫様!」
ミコト姫ちゃんの突然な提案に取り乱したようなコウメイ爺さん。
ハバキは呆れたように目を閉じ、ただ天を仰いでいる。
「だから黙っていろと言ったのに、このバカガキが……」
主君に対するとは思えない暴言を吐くハバキ。
もう少し忠誠心があると思っていたのだがそうでもなさそうだ。
「何故じゃ? あれこれ考えても姉上を取り戻せなんだら我国は終わりじゃぞ?」
ミコト姫ちゃんは無邪気なまでに失言に気付いていなかった。
押し黙ってしまうコウメイ爺とハバキくん。
変わってざわめく会場。
「なるほど、現在ジュホン帝国を統括しているタマモ姫は囚われの身という事か……。元より拐われた者が居るのは視野に入れている。あくまで偵察、調査を目的にし、可能なら人質の解放も考えねばならんな」
「正気ですかな? 他国の事情を考慮して短慮な決断を出すと?」
当然のように語るゴルギアートの提案にハバキは難色を示した。
この会議は、世界各地に被害を出しているゼラムル教団打倒に名乗りを挙げた国で行われている。
名目上は共通する目的の為だけにある協力関係だ。
しかし先のミコト姫の発言でジュホン帝国は国の当主を取り返す手段として、この会議を利用しようとした……。という事になってしまう。
普通に考えれば立場が悪くなるだろう。
何せ対等な協力関係だったはずが、必要以上に恩を売られる形になってしまうのだ。
たとえどの国もそんなつもりがなくとも、その事実は変えられない。
「ならばジュホン帝国は単独で動かなくてはならなくなりますな。それはこちらとしても本意ではない」
ゴルギアートの牽制にも似た台詞に不穏な緊張が走る。
これでは会議自体が頓挫する可能性が出てきた。
俺は両手の平を目の前でパン! と叩き、思い付いた名案を口にする。
「聞かなかった事にしましょう。それで丸く収まります。でもミコト姫ちゃんのお姉さんは助けましょう?」
素敵な笑顔を作っているはずの俺を見る目が皆して冷たい。
何故だ? なんで皆そんなバカを見るような目で見てんだろうか?
「あははは! そうだな、そりゃ良い!」
「さすがフレム様ですな」
少し間が空いたがフォルテ、法王は賛同してくれた。
セリオスやゴルギアート、シャルディアさんも笑いながらこの提案を飲んでくれる。
「ぐ! どちらにしても姫の同行など認められん! 何のための冒険者だ! こちらの事情は晒してしまったのだ! 姫の護衛としてハバキには残ってもらうぞ!」
コウメイ爺さんはこちらを全く信用していない。ハバキも同様だ。
ミコト姫ちゃんは大喜びだがこれは仕方ないだろう。
そもそもアーセルムにとってほぼ都合の良いメンバーで固まっている。
立場が逆なら俺でも信用出来ないだろう。
話し合いの結果として、冒険者の割り当ては……
湿地ルートにラグナート、シリル、イリス。
樹海にはカイラとルーア。
首都防衛にリリスさん、ハバキが残る。
まとめるとラグナート組の目的はゼラムル教団が占拠している街の解放。
及び旧ベルゼーブ領の偵察と情報集め。
難しいが可能なら人質の奪還だ。
アズデウス組の目的は表向きは樹海の魔神討伐。
実際は内密に魔王ゼファーに協力を取り付ける事。
その間に残った者達で戦力の確認及び作戦会議となる。
最終的には総戦力がラグナート組に合流し、ゼラムル教団本部を叩く方向に持って行くしかないだろうとセリオスは言う。
都合よく海を荒らしてる奴を倒さない限り援軍など呼べないのだから。
そんな上手く行くとは思わないが……
各国それぞれ思惑がありそうで怖い。
ウチのセリオスくんでさえ何か企んでいそうだ。
長々とした会議が終わり、ラグナートやルーア達はさっそく遠征準備に移る。
準備には近くの宿を利用することにした。
理由は言わずもがな、ザガン達に事情を説明するためだ。
俺とセリオスもこっそりやって来た。
「……てことだけど……。こそっとマトイに連れて行ってもらうわけには行かないのか?」
「考えどころだな……。会議に出席した者が教団側に露見しているのは間違いない……。だがアソルテ館のメンバーまで把握されているとは限らん。これ以上の情報は与えたくない。少なくとも湿地ルートは正規の方法で向かった方が良いだろう」
「え? バレてるのか? マズイじゃん! どういう事だ?」
「各国に協力を要請した際、出来るだけ情報の漏洩を避けるよう打診した。しかし結果は各国もれなく、リヴィアータに着いたそうそう襲われている。全員の名まで知られた上でな。何処からか情報が漏れたか……。あるいはやはり会議に参席した者の中に内通者が居るのかもしれん」
俺の提案は敢えて使わないとセリオスは言う。
敢えて棘の道を行く事で、こちらの戦力を隠そうという計画らしい。
大変危険ではあるが最終手段、軍隊の包囲網を敷けない以上万が一にも相手にやけくその特効などさせられない。
下級魔神や事情を知らない信者でさえ、武装してたら民間人など一堪りもないのだ。
相手のペースに乗せられた上での討伐が望ましいという事である。
「さて……、戦力的には申し分ない……。とは言い難いな……。神器を封じられる可能性があるってんなら……」
「でしたらわたくしが御一緒しますわ」
不安が残るとするラグナートの状況分析を受け、軽い笑顔のシトリーが立候補する。
ラグナート組にシトリーが同行するのは心強い。
戦略不足を補うにはうってつけな万能お姉さんだ。
「湿地に入る手前の町で検問があるそうだ。危険地帯らしいからな、そこで身分証を呈示して許可証を貰う決まりなのだそうだが……。今からシトリー殿の身分証を用意してもらうには時間が掛かるぞ?」
「作戦がありますの。お任せくださいませ!」
セリオスの言葉に何やら企んでるかのように返すシトリー。
これはあれだな。隠れてやり過ごすとかいう可愛い作戦ではないな。
「樹海ルートはどうする? 結構遠いし危険がないとも限らない。まさかカイラとルーアだけで行くわけにはいかないだろ?」
俺はもう一方のルートを心配した。
迎えに行くだけとはいえ、すでに敵は街中にまで入り込んでいたのだ。
小娘と小僧だけで外出なんてどんな間違いがあるか……
そこに名乗りを上げた者がいる。
ワーズ、ガードランス。そしてザガンとマトイだ。
ザガンもそうだが、マトイが行くと言い出したのは予想外だった。
「おまえ街で美味しいもの食べに来たんじゃなかったのか? 要らないのか?」
「帰ったら食べるよ! もちろんだよ! ただね……。海を荒らした奴が気になってね……」
俺の意地悪な発言にこれまた予想外に真面目なマトイ。
なにやら敵の戦力に気掛かりがあるらしい。
「あんなこと出来る奴なんて、上位竜族か封印の地であった天使ルーアくらいなもんだよ……。もし上位竜族が協力してるなら……。私がやらなきゃ!」
いつになく大真面目なマトイ。
アズデウス方面の海域や船が荒らされた時期と間隔を考えると、それを行った者は旧ベルゼーブ領に潜んでる可能性が高いそうだ。
何せアズデウスからは空を行くなら、リヴィアータよりベルゼーブの方が近いらしい。
多少遠回りだが樹海側からも旧ベルゼーブ領に入れるようだ。
カイラ達がゼファーと合流するのを見届けたら、マトイは大回りでラグナート達と合流する予定になった。
そんなマトイが心配なのでザガンが付き添うということらしい。
俺とイリスが連絡を取り合える事を考えると、遠征組の帰宅最終手段にマトイが居るのは好都合だが……
俺はフヨフヨ浮かんでるマトイの頭に手を乗せる。
「その防具……。おまえに無理させるために作ったんじゃないからな……」
「わ、わかってるよ! もう!」
俺はマトイのやる気を汲み、注意だけして送り出してやる事にした。
遠征の準備も終え、ラグナート達には動力車が用意されている。
途中でいくつか小さな町を経由し、何事もなければ三日程で目的地の立て籠り現場に到着出来るようだ。
「じゃ、行って来るわ」
「絶対に無理はするなよ!」
軽い挨拶をするラグナート達を見送った俺達。
樹海組は途中に町などない。入念な買い出しの後出発するようだ。
ワーズとガードランスは山程荷物を背負っている。
軽く考えていたが、ある意味こちらの方が大変そうである。
「マトイ……。ガードランスが可哀想だからオヤツはその十分の一にしなさい」
ガードランスのリュックの上に、人一人分の荷物を乗せようとしたマトイを俺は嗜めた。
リュックの中からはオルゴールの音も聞こえてくる。
やっぱりコイツ遊びに行く気全開だ……




