表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非魔神の非魔ツブシ ~デモンズハーモニー~  作者: 霙真紅
アーセルム王国の魔神編
7/205

六話  不可解な訪問者

 ここ数日、イリスは毎日魔神館に来ている。

 隣町からご苦労なことだ。

 馬車で二時間程らしいが数分で酔い、三十分で何かを放出する俺には不可能な芸当だ。

 この件がなければ俺は一生隣町を拝めなかった事であろう。



「あ、シトリーさん。年代物のワインを手に入れたんです。この間のお詫びとお礼を兼ねて持って来ました!」



 イリスはワインを椅子に座るシトリーに差し出した。

 酒か……、別にあってもなくても困らないが何故かここにはなかったものだ。

 ワインなんかは肉料理に使うとコクが出るらしいしあっても困らない。

 味の違いは俺には全く分からないんだけどね!



「まあ、ありがとうございますわ。ではさっそく頂きましょう」



 シトリーは嬉しそうにグラスを用意し、皆で試飲をする運びになった。

 昼間っから飲む酒……。なんという贅沢。

 う~ん……、なんだかゴージャスだ。



「なんですの……、これは……」



 ワインを一口飲んだシトリーが震え出す。

 身体から瘴気も漏洩れ出していた。



「あ、あの……、お口に合わなかったでしょうか……」



 申し訳なさそうな表情で恐る恐る問うイリス。

 仮にも貴族令嬢たるイリスが安酒を持って来たとも思えないが……



「おぉぉぉいしーですわぁぁぁ! なんですの? どこで手に入るのですの? 材料は? もうありませんの?」



 捲し立てるシトリー。余程美味しかったのだろう。

 安堵し、気を良くしたイリスはまだまだ持って来ると言う。

 ザガン、アガレスも悪くないと御満悦だ。

 俺はアガレスの鉢植えにワインを流し込む作業を中断し、スッと椅子から立ち上がった。



「イリス、ついでに果実の種も頼む」



 次の栽培対象が決定した瞬間である。

 そしてふらふらと酔っ払ったチノレに、俺とイリスが為す術なくボコボコにされたところで宴は幕を閉じた。

 誰だよ。猫に酒飲ませたのは。



 ーーーーーーーーーー



 翌朝。

 今日も良い天気だ……。晴天の下、農作業に従事する俺……

 なんて健康的なんだ……

 ブドウのみならずリンゴやミカン、イチゴなども作り始めた。

 酒作りの発酵等の過程は大分ザガンに丸投げしたが……


 ザガンいわく、『発酵は得意だ、任せろ!』


 と不思議な言葉を貰ったから任せて大丈夫だろう。

 もちろん今度は忘れずにニンジン、キュウリも育てている。

 そこで俺は気付いた。

 気付いてしまった……、大切な事に。


 米が無いじゃないか!

 なんて事だ! 俺としたことが!

 一番大事な物を! この一ヶ月近く忘れてたなんて愚か過ぎる!

 きっとアガレスも同じ気持ちだろう……

 表情なんて分かるはずもないが……

 あの兜の艶々感はきっと同じ気持ちでこちらを見つめている証拠だ。



「フレムよ」



 ああ分かってるよアガレス。みなまで言うな。

 お前の心は手に取るように分かっている。



「稲……だな。大麦は必要だ。あのプチプチした食感は今の俺達には必要なものなんだ」


「侵入者だ」



 俺の予想とは裏腹に、アガレスはまたしても緊急事態発生を告げた。

 泣きたくなってきたが泣いてる場合ではない。

 状況を確認する為、急いで円卓の間に向かった。



「シトリーーーーー!! 結界は!? 結界はどうしたのさ!」



 円卓の間で、責めるようにシトリーに詰め寄る俺。

 まさかシトリーまで厄介事を望んでいるというのだろうか?



「きちんと張っておきましたわぁ。結構きつめに掛けておきましたのよ……。結界に入って数分も滞在したら、数日間平衡感覚がおかしくなって寝込むくらいには……」



 少し悲しそうにうつむくシトリー。

 勘違いをした俺は得意技の土下座を全力で繰りだし、なんとか許しを貰う事が出来た。

 そしてすぐにザガン、シトリー、フルメタルアガレス、チノレを伴い侵入者を出迎えに行くことにする。

 アガレスの感知によると、律儀に入口でノックをした後屋敷に入り、ずっと玄関で待機しているらしい。



「おお~フレム~! 久し振りだな~」



 玄関先で陽気に挨拶をして来たのは近所のおっさんだった。

 色褪せたマントを羽織り、一見すると冒険者のような出で立ち。

 金髪オールバック、渋い顔立ちとは裏腹にどこまでも適当でノリの軽い、四十歳くらいのおっさんだ。


 俺の住んでいた……。あ~、記憶の鍵無くした。

 なんたら町の外れに十年程前から住み着いている。

 無気力な俺に剣や武術を無理矢理やらせ、いつも数分で逃げてるのにあれこれ世話を焼いてくる世話好きの良いおっさんである。



「ラグナートのおっさん! こんな所までいったい何しに……」



 まさか……、ラグナートもイリスのように俺を助けようと来てくれたのだろうか……

 俺はなんて愛されているのだろう……

 目頭が熱くなってくるではないか。



「おまえ魔王になったんだって? これからどうするんだ? 人間滅ぼすのか?」


「なってねぇよ! 滅ぼさねぇよ! 何しに来たんだよ!」



 あっけらかんと言い放つラグナートに俺は思わずツッコミを入れた。

 物騒な内容のわりにノリが軽過ぎるぞ。



「いや~、町でおまえの噂を耳にしてな? ちょっと様子を見に来たんだよ」



 このおっさん。散歩感覚でちょっと寄ってみた感じだろうか?

 一応魔神の住みかなんだけどね?



「問おう、汝……何者だ? ここには何用で来た?」



 ザガンが珍しく真面目である。

 雰囲気から大物臭がするではないか。

 何か変なものでも食べたのだろうか?

 見ればシトリー、アガレスも警戒している様子だ。



「さあ……、なんだろうな。本当に様子を見に来ただけなんだが……。まあ、そうだな……。やっぱ少しやり合うか!」



 ヘラヘラとしていたラグナートから突然戦意が溢れ出した。

 腰のロングソードを抜き、その切っ先をフルメタルアガレスに向ける。



「相手をしよう」



 それに応じたアガレスから瘴気が溢れ出す。

 アガレスはラグナートの元まで歩み寄り、そして対峙する二人。


 俺はいきなりの事態に慌て、チノレの持って来た怪しい緑色の泡立つ飲物を飲みながら観戦することにした。

 これは美味い。


 先に仕掛けたのはラグナート。

 上方からの豪快な一太刀。それを受け止めるアガレス。

 そのまま二撃、三撃、と両者共に剣を打ち合っていく。



「やるねぇー。おまえさん名前は?」



 ラグナートは連撃を止めずに語り掛けた。

 緊迫した状況のはずだが、その様子は何故か楽しげに見える。



「俺の名はアガレス! 貴殿も相当な腕前だな、ラグナートとやら!」



 アガレスの言葉にラグナートの表情が一瞬強張ったように見えたが……

 すぐに呑気な笑みを浮かべて答え返した。



「……ははは、嬉しいね~」



 幾多の打ち合いの末、剣を捌かれフルメタルの銅を切り裂かれたアガレスが距離を取る。

 黒煙を上げ、即座に元の形に修復されるフルメタル。

 しばしの静寂……、そして唐突に戦いは終わった。



「いや~まいったまいった、こりゃ勝てん! 完全に俺の負けだわ」



 ラグナートがあっさりと降参したのだ。

 やる気が感じられない。へたすりゃ俺以上に無気力な男だ。



「じゃ、俺帰るから。邪魔したな。あんまり無茶するなよフレム」



 そう言うラグナートは踵を返し、片手をひらつかせて帰って行った。

 何の余韻も残さず帰ってしまったのだ。

 ………本当に何しに来たんだよ。



「今一度問おう、アレはなんだフレムよ」



 サガンは何故かラグナートのことが相当気になっている様子だ。

 なんだと言われてもな……

 確かに強い。さっきの戦いに割って入ったら俺なんかはあっという間に細切れになるだろう。



「昔はアーセルム王国の騎士団長もやってたらしいし……。それなりに強いんじゃないのか?」



 俺は以前聞いたラグナートの情報を明かす。

 正直それくらいしか知らないし、あんなチャランポランが騎士になれるってのが胡散臭いが……

 本人がそう言ってるのだから、一応信じる努力をしてあげるのが優しさだろう。

 強いのは間違いないし。



「ふむ……、そうか。魔力も持たず魔具も持たず……、シトリーの結界を抜けた上、アガレスの瘴気も効いていない……。ありえるのか……」



 ザガンはぶつぶつと真剣に考えている素振りを見せる。

 だが酒作りの途中だったのを思い出したのか、突然ウキウキしながら工房に足を向けた。

 ザガンにとって料理に使える調理酒の登場は、不審者への疑念が吹き飛ぶ程に魅力的だったのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ