六十六話 各国顔合わせ
錯乱するゴルギアートをなんとか落ち着かせた後。
俺達はリヴィアータ帝国ホテル前に戻って来た。
「フレム……ちょっといいか」
動力車から降りると呆れ顔のラグナートが出迎えてくれる。
大体分かる。先程の魔力反応がこのホテル付近に集合してたしな。
ラグナートに促されホテル入口に居る集団に近付く俺達。
ゴルギアートやガルシアさんにも話を通して居るので、一緒に居ても構わないだろう。
そこには仮面を付けたザガンを筆頭にし、シトリー、フルメタルアガレス、スッポリローブ着用チノレ、リノレ、マトイ、エトワール。
そして何故かワーズにガードランス、ロザリーまで居る。
そしてガードランスの背後に隠れるようにもう一人。
十三か十四歳くらいの少女が追加されている。
薄い赤の掛かったセミロングの黒髪、品のある黒いローブの可愛い子だ。
「色々言いたい事はあるが……。その子は誰だ。どこで拐ってきた」
「うむ、実はな……せっかくなので留守番で暇だろうとハミュウェルやワーズに声をかけようと思ったのだが……」
俺の質問に少し困ったように話し出すザガン。
まずフィルセリアに行ったのだが、ハミルは脱走したと言われたのだそうだ。
どこに行ったのかとハミルパパが号泣していたらしいが、そんなもの考えるまでもないだろう。
続いてアズデウスに向かったザガン達。
ガードランスとワーズに声を掛けたのだが、ワーズが御世話をしていた貴族の娘がどうしても着いてくると言って聞かなかったそうだ。
いや、それで連れて来ちゃダメだろう……
素性を確認しようと、俺は怯えたように隠れる少女の前でしゃがみ込む。
「お嬢ちゃんお名前言えるかな?」
「あ、あの! ミルスディア・アクタルと申します! お母様とお兄様にお会いしたくて……」
話し掛けると返ってきたのは聞いた事のあるファミリーネーム。
アクタルか、ふむふむ……カイラの妹かな?
大人しくて礼儀正しい良い子じゃないか。
お母さんとお兄ちゃんが心配で仕方なかったんだな……
俺が一人納得していると、今度はゴルギアートが前に出て挨拶を始めた。
「お初に御目にかかる、私はこの国の長をしているゴルギアート・グロータスと申す者。アーセルムよりの援軍、心より感謝致します」
実際にはアーセルムだけではないし、不正入国みたいなものだがその辺りはこの際目を瞑る事にしたのであろうゴルギアート。
それは助かるが、俺を見ながら『まあ、フレムの仲間なら破天荒なのは致し方ない』と呟いたのは納得いかない。
一先ずゴルギアートとガルシアさんはアソルテ館のメンバーと一通り挨拶を交わしてくれた。
「それにしても……、恐ろしい魔力……。失礼だがこれ程の魔神が野心も無く人も襲わないとは……」
ゴルギアートは魔力レーダーをチラ見しながら戦々恐々としているようだ。
先程の慌てようから推測して、これ程の魔力が結集している場面などおそらく初めて遭遇したのだろう。
「あら? なんですのそれは?」
「周囲の魔力反応を調べられる装置らしいぞ。これで魔神の位置を把握出来るんだそうだ」
興味ありげなシトリーに俺はサッと説明をした。
そしたらシトリー、ザガン、アガレスは顔を見合わせ……
「そういう事でしたら……」
「む? 反応が!? Aランク反応が三つ消えたぞ!」
シトリーが呟くとゴルギアートが驚愕の声を上げる。
どうやらザガン達が小細工をしたようだ。
「人間共に悟られず数百年を過ごしていた我等だ。その程度造作もない」
威張り散らすザガン。シトリー、アガレスも魔力反応を隠せるらしい。
それぞれ隠し方は異なるらしいが、保有量でレーダーに映っているのにそれを隠せるなど、ゴルギアートは考えてもいなかったそうだ。
「それとこの測定許否……、今まで見た事もない反応が気になるな。魔力反応があるのだがランクが分からん」
「エトワールじゃないのか?」
首を捻るゴルギアートに適当に答える俺。
EがミルスちゃんとしてCはワーズ、ガードランス、ロザリー。
BがリノレでAがザガン、シトリー、アガレス、マトイ。
チノレは反応ないだろうし。
そう仮定すると残るはエトワールだけなのだ。
「アーセルムの聖女エトワール殿か。単独測定ならばランクが表示されるやもしれんな。では失礼する」
ゴルギアートはレーダーを個人単位に向け測定してみると言う。
範囲を狭め、エトワールに座標を固定して測定を始めたのだが……
その瞬間『ボン!』っと爆煙を上げ、レーダーは粉砕した。
ゴルギアートは無表情で固まっている。
「はっはっはっはっは!! うむ、心強い! 歓迎致しますぞ、アソルテ館の皆々様!」
ゴルギアートはもう考えても無駄だと判断した模様。
仮にコイツらが敵ならば、この国はもう終わりなのだ。
そもそもAランク以上は測定不能という意味らしいなのに、この結果は理解の範疇を越えているのだろう。
そこにホテルの入口からシリル、カイラ、ルーア、ハミルまで登場した。
俺達が帰ってきた事に気付いたのだろうか。
「ミルス!? なんでここに!」
カイラが叫ぶとミルスちゃんは応えるように笑顔でカイラ達の方に駆け出した。
兄と妹、感動の再会である。
「シリル様ぁ!」
カイラを素通りしてシリルに抱き付くミルスちゃん。
おっと、どうやらミルスちゃんの目当ては違ったらしい。
「ミ、ミルス! こんな所まで来たら危ないじゃないか……。ほ、ほらカイラも心配してるし……」
シリルはあたふたとして話をカイラに振ろうとする。
一方カイラは両手を広げたまま振り返り、半泣きでシリルを睨んでいた。
「ミルスちゃん久し振りだね!」
「ハミルちゃん懐かしいね!」
可愛らしくお互いの手の平を合せ笑い合うハミルとミルスちゃん。
続いてミルスちゃんはルーアに抱き付いた。
「ルーアお姉様ぁ!」
「こらこら……、シャルディア様に怒られるぞ」
やれやれといった感じでミルスちゃんの頭を撫でるルーア。
なんだかお姉さんっぽい感じが出ている。
ちなみにそろそろカイラは本泣きに移行し始めていた。
「ミルス殿……。あのですな……。その……」
何やら言い淀み困ったようなわんこのワーズ。
ちょいちょいとミルスちゃんの足をつつき、しゃがみ込んで落ち込むカイラに前足を向ける。
「お、お兄様! お、落ち込まないでください!」
気付いたミルスちゃんが抱き付くと、すぐに笑顔になり機嫌が直ったカイラ。
彼はかなり重度のシスコンなのだろう。
ちなみにミルスちゃんはただ遊びに来た……。という訳ではないそうだ。
待機中の船が落雷で沈んだり、不規則に海が荒れて船の手配が出来なくなったらしい。
このままでは会議がまとまってもアズデウス公国から援軍は送れない。
ザガンの話ではアーセルム、フィルセリアも同様のようだ。
明らかに作為的なものを感じる。
こうなればおそらく他の国も同じだろう。
「状況は悪くなる一方だな……。少し早いが準備を始めよう。皆はロビーで待機していてくれ」
ゴルギアートとガルシアさんが準備に入っている間、俺達はロビーで寛がせてもらう事にした。
ザガン達にはとりあえず近くの宿を手配してくれるようだ。
さすがに他の国に説明もなく、ホテルに入れるのは示しがつかないらしい。
ロビーに入り座りながら飲物を飲んでいると、笑顔の青年が話し掛けて来た。
二十代半ば程で豪華な身なりの男である。
「イリス! 元気になったみたいだな! 連れは見つかったのか?」
「フォルテ王子。はい、無事に見つかりました。先程は無様な姿をお見せして申し訳ありません……」
気さくに語り掛けるフォルテと呼んだ男に頭を下げるイリス。
セリオスが小声で教えてくれたが、どうやらグレイビア王国の王子らしい。
「それは良かった。しかしそんな仰々しい態度はやめてくれイリス。俺とおまえの仲じゃないか」
「いえ……しかし……」
ひたすら軽く対応するフォルテ王子にイリスの方が折れた。
恭しい態度を止め、呆れたかのように顔を押さえている。
「はあ……、こういう場でくらいきちんとするべきよフォルテ……」
「こういう性分なんでな、無理だ」
イリスのお叱りに粗野な笑顔を作るフォルテ王子。
とても楽しそうだな。ところでどんな仲なのだろう?
「フレムよ、グラスが割れてるぞ」
セリオスの言葉を受けグラスに目をやる。
俺の持つグラスがひび割れ、テーブルがビショビショになってしまっているではないか。
これは酷い。なんて脆いグラスなんだ。
「ところで……考えてくれたか? 俺との婚約の話……」
フォルテ王子がコンニャクの話をした途端、『パリン!』と俺の持つグラスが割れて粉々になってしまった。
覚えて置かねばな。リヴィアータ製のグラスは危険……と。
俺は席を立ち挨拶をする事にした。
一国の王子に対し、いつまでも気付かない振りは失礼だろう。
「グレイビア王子殿下。始めまして、私はフレム・アソルテと申します。アーセルムの代表者の一人として参りました。今回はよろしく御願いします」
「おお、キミがフレム君か。話は聞いてるよ。いつか会って話がしたいと思っていたんだ」
熱く固く握手を交わす俺とフォルテ王子。
そんなにも仲良くしたいのか、全力で握ってくるのでこちらもその熱意に応えている。
出来るなら、今握っているこの手を握り潰してしまいたい。
「イリスとはどのような御関係で? 大切な親友が御迷惑を掛けて居ないか心配です」
「なに、以前から公私共に世話になっていてな。大変仲良くさせてもらっているよ」
「ほほう、それはそれは……」
他愛ない会話をしつつ、俺とフォルテ王子は笑顔で互いの手をギチギチと締め上げている。
イリスは慌て出したようだが、チラッと見えた限りではセリオスとラグナートは肩を震わせ笑いを堪えているようだ。
「話がしたい……。少し良いかなフレム君……」
「喜んでお付き合いしましょう」
急に真面目な顔になったフォルテ王子の要請を、俺は即座に飲んでやった。
この急展開な状況に難色を示したのはイリスである。
「え? ちょっとフレム! フォルテ! こんな時に何を!」
「放っておけメインシュガー。大事にはならんだろう」
そんな取り乱すようなイリスを、冷静な態度で諌めてくれたセリオス。
深刻な状況には至らないと判断してくれたようだ。
当然慌てるような事態にはならないさ。コイツ次第だがな!
そんな訳で待機中ではあるが、俺達はロビーからホテルの奥に向かって歩き出した。
互いに肩をぶつけ合いながら、それはそれはとても仲良く。
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フレムとフォルテが去った後。
機会を伺っていたのか、セリオスの元に女性が近付いて来る。
カイラやミルス同様ほんのり赤毛の上品な女性、シャルディア・アクタル。
その背後にカイラとルーアが付き従っていた。
「セリオス王子、娘がお手間を取らせたようで……。申し訳ありません……」
「いえ、母と兄を心配してここまで来るとは中々勇敢なお嬢様だ。こちらを気になさる事はありません。ところで無礼を承知でお訪ねします。フィルセリアの魔王の件なのですが……」
軽い挨拶を交わすシャルディアとセリオス。
以前セリオスが聞いた話では、かの魔王はシャルディアとカイラの為に国を出たと言う事であった。
挨拶ついでとして、セリオスはその辺りの情報を掘り下げようとしたのだ。
「はい、先程小耳に挟んだのですが……。おそらく南の樹海に住み着いたという魔神がそうなのでしょう……」
何故か申し訳無さそうな表情を浮かべるシャルディア。
その魔王について提案があるとルーアが話に割って入る。
「会議がまとまって少し時間があったら、私が話を通しに行ってみましょう。巻き込むのも悪い気がしますが、協力を仰げればこれに増す戦力はありません」
「あんなの居なくても余裕だし、行く必要ないし」
ルーアの進言にカイラは否定的だった。
子供のように我が儘を言っているようにも映る。
「そう……、私には会わせる顔がないからよろしく伝えてちょうだい。貴方達二人が早く一緒になってくれれば、あの人も喜んでくれたでしょうに……」
綻んだ悲しげな表情を浮かべ、自らは会えないと語るシャルディア。
その急な発言にしどろもどろになるルーアとカイラ。
「え? いえいえいえいえ何故そのような話に!?」
「そ、そそ、そうだ、ぞ! なんで俺がこここ、こけ!」
ルーア、カイラは真っ赤になり、明らかな動揺を見せていた。
それにより南の樹海に居るという魔神の正体に検討が付いたセリオス。
とりあえずそういう事なら、任せておいて大丈夫だろうと判断する。
アズデウス一行が離れた後すぐに十に満たないくらいの少女と、お付きと思われる青年がやって来た。
きらびやかで身の丈に合わない大きな着物を着ている少女と、黒い着物を着ている青年。
少女はおもむろにセリオスの前の席に座る。
「そなたがアーセルムのセリオス王子じゃな? わらわはジュホン帝国第二皇女ミコトじゃ!」
「ハバキです。お見知り置きを」
明るく無邪気に話すミコトとは対照的に無感情に語るハバキ。
フレムが争ったという話を思い返し、セリオスは悟られぬように警戒する。
「これはミコト姫。そしてハバキ殿。御挨拶にも伺わず失礼しました。私はアーセルム王国第一王子セリオス・フォン・アーセルム。此度は我国に賛同して下さり感謝致します」
完璧な作り笑顔で対応したセリオス。
一頻り挨拶を交わしたところでフレム達が帰って来た。
先程の一触即発な空気はどこへやら、といった雰囲気での帰還である。
「でなぁ! そのウチのクソな上層部が見放した孤児院の前に、たった一人立ち塞がったのがイリスなんだよ! 押し寄せるオークをバッタバッタ薙ぎ倒すその勇ましさといったらもう!」
「勇猛果敢だからな! あいつなら軍隊だって一人で蹴散らしそうだ!」
仲良さげに肩を組み歩くフォルテとフレム。
先程の険しい表情が嘘のように、双方満面の笑みを浮かべていた。
「なんで仲良くなって来てるのよ……。おまけになんて話してんのよ……」
「いや~面白い奴だなフレムは!」
「フォルテは良い奴だよ。グレイビア王国は安泰だ!」
呆れ気味のイリスにフォルテとフレムはガッチリ肩を組みながら互いを誉め立てる。
そのフレムを無言で一瞥しているハバキ。
「剣気を当てても柄に手を掛けても反応は無し……か。やはり買い被りか……」
「ハバキ殿、その程度の殺気ではフレムは動じませんぞ」
消え入るように吐き捨てたハバキの声は誰の耳にも届いてはいない。
しかしセリオスは薄笑いを浮かべ、ハバキの行動に対しての返答を口にする。
挑発とも受け取れるその言葉にハバキはピクリと眉を潜めた。
その張り詰めた空気を壊すように、ふんわりとした長めのボブヘアーをなびかせたメイドの女性がロビーに現れる。
「はいは~い皆様大変お待たせしました~。会議の準備が整いましたのでどうぞこちらへ~」
美しい顔立ちと底抜けに明るい笑顔を撒き散らし、金髪のメイドが緩い口調で召集を呼び掛けた。
各々緊張感の欠片もないまま、いよいよ会議が始まろうとしている。




