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六十四話  リヴィアータの皇帝

 街の大通りに位置するリヴィアータ帝国ホテル。

 ゼラムル教団対策会議は、このホテルを貸し切って行われる予定である。

 セリオス達は、アーセルムに割り当てられたホテルの一室にて待機していた。



「どこに行ったのだアイツは! どうやったら直進していてはぐれるのだ!」



 どうにもならない思いを胸に、大声を張り上げるセリオス。

 セリオスは確かにフレムとイリスを伴って歩いていた筈なのだ。

 ほんの二、三分しか目を離していない。

 それなのにふと振り向いたらフレムは居なくなってしまっていた。

 そこに部屋をノックし、ラグナートが入室してくる。



「やっぱこの辺りには居ねぇな……。まさかフレムも魔神とかち合ったか?」



 合流したラグナートは単身フレムを探しに行っていた。

 セリオスとイリスはフレムが居ない事に気付いてすぐに、街中で堂々と三名の魔神に襲われている。

 魔神は駆けつけたラグナートと共にあっさり討伐出来たのだが……

 状況からしてどうやら魔神達の目的は会議に参加する各国の代表者。

 フレムも当然狙われているいう見解。今回はただの迷子では済まないのである。



「フレム……」



 椅子に座り青白い顔をしているイリスがポツリと呟く。

 イリスは以前森でフレムとはぐれた時の恐怖を思い出し、カタカタと体を震わせていた。



「大丈夫だ。フレムはそう簡単にはやられねぇよ」


「そうだとも。仮にも私に勝った者だぞ」



 ラグナートとセリオスは自信を持ってフレムの無事を諭す。

 それは気休めなどではない。二人はそう確信しているのだ。



「……やはり会議が始まる前に皇帝に謁見するべきだな。敵が誰なのか……。情報が足りなさ過ぎる……」



 そう呟いたセリオスは部屋から出てロビーに向かい歩き出す。

 先程確認した時皇帝はまだこちらに来ていなかったが、最悪はこちらから出向く必要も考慮していた。



「これはセリオス殿下、ご無沙汰しております」



 セリオスが廊下を歩いていると、レイルハーティア教団の法王ブェリョネィースが声を掛けて来る。

 その背後には二名の供を連れ立っていた。



「法王殿、お久しぶりです。それとシリル殿と……」



 セリオスは焦りを隠しながら応じるが、法王の付き人がふと気に掛かった。

 法王の背後に居るシリル、そして同じ年頃の目付きの悪い退魔神官のローブを纏った少年。

 冒険者枠のシリルは分かる。

 しかし側近扱いの者と言えば、大司教か大神官が来ると思っていたのだ。



「この者はカルマ・アルイン。ヴァズァウェルの一番弟子でしてな、今回は特例で付き人として連れて参りました」


「カルマ・アルインだ……です。見知り置い……、置きくださいセリオス殿下」



 法王に促され、挨拶らしき事をするカルマ。

 見た目通りの気性の持ち主のようだと察するセリオス。

 シリルも溜め息をついているし、何か特別な選出基準でもあったのだろう。

 セリオスは法王に事情を説明し、皇帝に謁見を申し込みに行くところだと伝えた。



「なるほど、フレム様ならば心配ありますまいが……。皇帝陛下への謁見、私もお供したいと思います。ラグナート様もお連れした方が宜しいでしょう。イリス殿はこの者達に責任を持って警護させますので」



 法王の楽観的な姿勢に同意を取れたかのように内心安堵するセリオス。

 その提案に乗り、塞ぎ込んでいるイリスをシリルとカルマに預け……

 セリオスはブェリョネィース、ラグナートを伴い、フロントにて皇帝の所在を問い質した。

 しかし、進展の無い押し問答が続いている。



「お許しください、私の立場では何の情報もお出しすることは……」


「では陛下でなくとも良い。話の出来る者に取り次いでくれ! 急を要するのだ!」



 ホテルのフロント係りの男性を困らせているセリオス。

 セリオスとて情報の開示など無理を言っている事は承知の上だった。

 緊急事態を少しでも知らしめ、広げる必要があったのだ。

 そこに身なりの整った老紳士が近付いて来る。



「これは何事ですかな?」



 老紳士が問うとフロント係りはただ頭を下げるのみであった。

 おそらくはこの国でかなり位の高い者であるとセリオスは推察する。



「騒がせてすまない。私はアーセルム王国第一王子、セリオス・フォン・アーセルム。緊急の用がある、皇帝陛下への目通りを願いたい」


「アーセルムの……」



 セリオスの要求に少し考えたように口元に拳を置く老紳士。

 その様子に黙っていた法王、ラグナートが口を開く。



「ガルシア殿、話だけでも通してはもらえぬか?」


「頼むぜガルシア」



 法王とラグナートは老紳士と知り合いである様子を見せる。

 友好的に話す彼等に老紳士ガルシアは深く溜め息をつく。



「やれやれ、ブェリョネィース殿とラグナート殿にそこまで頼まれては断れませんな……」



 諦めたような表情をしたガルシアは皇帝に話を通しに行ってくれた。

 この老紳士ガルシアは皇帝の側近かつお世話係りであり、皇帝はつい先程ホテルに入って現在会食中らしい。

 最終的にその席でよければ話を聞くと取り次いでもらえた。



「陛下、お連れしました」



 ガルシアはそう言うと会食中の一室の扉を開き、セリオス達を招き入れた。

 部屋の入り口で一礼をして中に入るセリオス。

 部屋には長いテーブルがあり、右端に皇帝、手前の席横並びに二名が食事を取っていた。

 真っ直ぐに皇帝だけを見据え前に進むセリオスだが、横目でチラリと見えた食事中の者を見て少し呆れてしまう。

 二名共に作法も何もなく、ガチャガチャと音を立て食事にがっついているのだ。

 リヴィアータの皇帝はよくこんな事を許していると思えた。

 そんな思いを懐に納めつつ、セリオスは皇帝の前で方膝を付き話を始める。



「御前を失礼します陛下。この度は急な謁見を受け入れて頂き……」



 言葉の途中、セリオスは食事の音が止まった事で何の気なしにそちらに目を配った。

 ポカンと口を開けてすぐ隣でこちらを見る青年と視線がぶつかる。

 そこにあったのは見たことのある男。現在行方不明の友人の姿であった。



「フ……フ……、フレムゥゥゥ!? おまえ何を!? ま、まさか皇帝陛下に何か無礼を!」



 思わず声を上げるセリオス。そこに居たのは紛れもなくフレムだったのだ。

 あれほど皇帝には警戒しろと言い含め……るのを忘れていたセリオス。

 なにせ注意を促す暇もなく消えていたのだ。



「え? 皇帝陛下? ゴルギアートが? どういう事?」



 セリオスとゴルギアートを交互に何度も見なおした後、隣に座るハミルに視線を移すフレム。

 ハミルも目を見開き首をぶんぶん振っている。



「この方がリヴィアータ帝国の皇帝、ゴルギアート・グロータス陛下だ! こ、こちらに来てきちんと挨拶をしてくれ!」



 かつて無い程慌てているセリオスの叫びを聞き、全速力でゴルギアートの前で土下座を始めるフレム。

 焦りにより口元の汚れもそのままである。



「し、知らぬ事とはいえ……、真に申し訳なく思いますぅ! ……死刑ですかね? 斬首ですかね? それとも島流し?」



 頭を下げたままブルブルと震えるフレム。

 一瞬だけ震えが止まった時にボソリと『逃げるか……』と聞こえたのでまだ余裕はありそうである。



「陛下! 我が国の者が粗相をしたのでしょうか? 申し訳ありません! 全ては私の責任で御座います!」



 声高に全力で頭を下げるセリオス。

 ゴルギアートの中のセリオス像からはとても想像出来ない姿であった。

 予想もしなかったセリオスのその姿に、ゴルギアートの表情筋は崩壊した。



「ははははは! 勘違いだセリオス殿! 顔を上げてくれ! フレム! お前もだ、急によそよそしくなってくれるな。寂しいではないか」



 笑い続けるゴルギアートにキョトンとするセリオス。

 確かに言われて見れば状況がおかしいと感じていた。

 フレムが無事だった事による安心感もあって少し過敏になっていたのだ。



「フレム達には私が世話になったのだ。恩人を会食に招いただけ、何も不備はないだろう?」



 ゴルギアートは楽しそうに笑っている。

 とりあえずホッと胸を撫で下ろすフレムとセリオス。

 しかし突然の事で固まっていたハミルは恐ろしい気配を感じ、震えながらゆっくりと後ろを向いた。



「ハミュウェルよ……。何故ここに来ているのだ?」



 とても良い笑顔で冷たく良い放つ法王ブェリョネィース。

 その口振りから完全にお怒りであるのは誰の目からも明らかだった。



「お、おじ……、法王様。これは……、あのね? あの……。ユガケ! 助けて!」



 ハミルが助けを求めるも、食べ疲れて寝ているユガケは答えない。

 そもそもユガケに説明させたところで事態は何も変わる事はないだろう。

 フレムの姿を確認した事で、セリオスの不安と焦りは取り払われた。

 セリオスはいつの間にか、自身から警戒心さえ消えていた事に驚きつつ……

 小さく安堵の笑みを洩らす。



 ーーーーーーーーーー



 無事にセリオスと合流出来た俺は、怒られる事を覚悟しておびえている。

 現に度々睨まれてはいるが、リヴィアータの皇帝だと判明したゴルギアートが居る限り俺は安心だろう。

 なんとしても今、この間に怒りを静めてもらわなくてはならない。



「法王殿もラグナート殿もよく来てくださった。歓迎しますぞ」


「ご無沙汰しております皇帝陛下」


「久し振りだな小僧。えらく貫禄が出て来たじゃねぇか」



 ゴルギアートの挨拶に答える法王とラグナート。

 何かを危惧していたようなセリオスの緊張は緩和され、部屋には和やかな空気が流れていた。

 関係無しとばかりにハミルが法王に散々怒られたところで、ゴルギアートの話を詳しく聞くセリオス達。

 俺とハミルが皇帝に協力して教団幹部と戦って来たという報告だ。

 新情報も頭が痛くなるほど手に入れていたので、セリオスくんも頭を抱えている。

 懸念していた吸血鬼の実、ヴァンパイアシードの活用。

 教団幹部の数や一枚岩ではないという事。

 精霊神器やリヴィアータが保有していた神器を活動停止に追い込ませる魔道具。

 更に上位魔神クラスの協力者の存在だ。

 そして……



「対策会議を利用しての策か……。入れ替りの策が漏洩した上での発言となれば他の策があるか、もしくはすでに誰かが……」



 食事が片付けられたテーブルに座っている俺達一同。

 セリオスの探るような言葉に皆の沈黙が続く。



「一度襲われはしたが、グレイビアの小僧とお付きの爺さんはここまでしっかり護衛したぜ」


「我等の所にも来ましたが、仮にも魔殺しの異名を取る退魔神官と神器持つ勇者。こちらもそう簡単に後れは取りませぬ」



 ラグナートと法王は自信たっぷりに言い放った。

 どちらも身の潔白を証明するには十分な実力を持っているのだ。



「私とメインシュガーも問題ない。証はすぐに合流したラグナート殿がしてくれよう。フレム、お前の方はどうだ?」



 続けてセリオスも自身の潔白を主張した。

 そしてすでに弁明が面倒臭くなってボーッとし始めてい俺に話を振る。



「え? ああ、ハミルとゴルギアートは大丈夫だろ? 信頼出来るぞ。ガルシアさんもさっきゴルギアートが大丈夫って言ってたし。俺も多分大丈夫なはず……」


「では、この場に居る者は信用出来ると言う事だな」



 俺の自信のなさを無視して話を進めるセリオスくん。

 そのあっさりとした態度に反応を示す者が居た。



「はっはっはっはっはっ!!」



 ゴルギアートが大きな声で笑い始めたのだ。

 どこか壊れたのかと心配になる俺と、同じく驚いたように目を丸くするセリオス。



「本当に変わられましたなセリオス殿。二年前はそのような曖昧な……、特に何の確証もないフレムの言を簡単に信じる者ではなかった」


「なに、時に信を貫く事の大切さを知っただけの事です」


「ふむ、正直に言うとな……。二年前、私はいつかアーセルムとは戦になると思っておった」



 ゴルギアートとセリオスが和やかに対談を始めたかと思った矢先、不意にゴルギアートの投げた言葉でその場に緊張が走る。

 アーセルムとリヴィアータに戦争の兆しがあったと言うのだ。



「今一度問おうセリオス殿、貴殿の守りたい物はなんだ?」


「……ふふ、二年前と同じ質問ですか。当時私は『民』と答えましたな。……御察しの通り、確かに私の答えは変わりました」



 ゴルギアートはセリオスを真剣に見据え質問をする。

 当時のセリオスは自信を持って民と答えたようだが、今の考えは違うようだ。

 上に立つ者として、国や王などより民の存在が不可欠。

 民を守る事こそが国を守る事だと考えたのだろう。



「命です、陛下。酷く曖昧な答えですが……。私は自国の事しか考えていなかった。この世界をどこか遠く、空の上から眺めている気になっていた。私の二年前の恥知らずな言動、どうか若輩の戯れ言とお聞き流しください……」



 そう言い頭を下げるセリオスに笑みを浮かべるゴルギアート。

 憂いは晴れた。そんなスッキリした表情をゴルギアートは浮かべていた。

 確かに以前のセリオスは、盤上の駒のように俺達を見ていたのだろう。

 だが今は違う。一つの対等な命として、視野を広げているのだ。



「強くなられましたな……。そう、曖昧で良いのだ。当時の貴殿は決断を急ぎ過ぎた……。いずれその迷いのなさが災いとなると私は判断したのだが……。今なら……」


「陛下?」



 ゴルギアートの言葉にガルシアさんは怪訝な表情を作る。

 何かとんでもない事を言い出すような予感を募らせているかのように。



「二年前の同盟交渉……。今度はこちらから頼めますかな? アーセルム王国第一王子、セリオス・フォン・アーセルム殿」



 ゴルギアートの発言を受けて不自然に硬直し、明らかに動揺するセリオス。

 そもそも正式な謁見ですらないこの場での同盟結決など前代未聞なのである。



「ゴルギアート様! お戯れが過ぎますぞ!」


「うるさいのう……。良いではないか、そもそも同盟を蹴ったのはセリオス殿の危険性故だろうが……。今のアーセルムは国益だけを考えぬ。先程の一臣下に対する己の立場を忘れた振舞いを見なかったのか? 以前のセリオス殿ならその場で斬り捨てていただろう」



 激昂するガルシアさんを宥めるゴルギアート。

 以前のままならサクッと殺られていたかもしれない、その内容に俺は少し怯えた。

 確かに国の代表者があっさり非を認め、全面的に謝罪はやり過ぎであろう。

 そもそも何もやってないのに、心配性な奴である。



「全く持ってお恥ずかしい……」



 セリオスは言い返す言葉がなく落ち込んでいた。

 ともあれ非公式でただの口約束であるが、同盟が結ばれたのは両国にとっては喜ばしい事であった。

 俺は項垂れながらも照れるようなセリオスがなんだが誇らしくなり、一人笑みを溢している。

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