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四十七話  アーセルムの聖獣 後編

 ユニコーン探索を始めた俺とセリオス。

 長く険しい道程を少しだけ覚悟はしていたのだが……

 しかしそんな俺達は今、二人揃って呆然としていた。



「どういう事だセリオスくん」


「うむ、どういう事だろうなフレムくんよ」



 俺とセリオスの前には大きな湖が広がっていた。

 何の障害もなくあっさり辿り着けたのだ。

 林に入って数分の出来事である。拍子抜けも良いところだ。



「む、居たぞ! あれがユニコーンだろう!」



 セリオスが目を向けた方向に白い馬が居た。

 金色の一本角を生やしたふてぶてしそうな馬刺しが一匹。

 見付けたのならサクッと終わらせてしまおう。

 時間をかけてもしょうがない。


 背後に回りそろりそろりと近付く怪しげな俺とセリオス。

 だが、残り数メートルというところで馬に気付かれてしまった。

 俺達と白い馬は見つめ合いしばしの沈黙……



「ブルルゥ!」



 突如首を振って俺達を威嚇してくる白い馬。

 怒ってないか? まだ何にもしてないよ?



「そういえば……ユニコーンとは清らかな乙女にしか会わないとかなんとか……」


「セリオスよ、そういうことは出発前に言うことだ」



 今更重要な情報を開示するセリオスに俺は優しく文句を垂れた。

 しかしなんて我が儘な馬だ。

 男はお嫌いか? やはり馬刺しにするか?


 俺達がヒソヒソと話していたその時、馬刺しが尖った角を突き出して突っ込んで来た。

 俺とセリオスは左右に飛び、難なく避けられたがかなり早い。

 やはりあの角は武器になるのだろう。危ないし怖い。



「どうするセリオス? 馬刺しとは言え斬るのは抵抗があるんだが」


「バサシ? いや、一応アーセルムの聖獣なので殺したくはない。なんとか角だけ貰いたいのだが……」



 馬の突進を必死に避けながら、俺とセリオスは会話を続けた。

 聖獣なのか? 乙女にしか会わない如何わしい馬がか?

 まあ、俺も殺生はしたくないし、セリオスもそう言うなら仕方がない。

 だがさっさと他の手を考えねば、避け続けるのも辛くなってきたぞ。

 いつも通りの心境だがもう帰って寝たい。



「ヒィィン……」



 そんな時、林の奥から子馬が現れた。

 小指の先くらいの角があるので同族、もしや親子か?

 なるほど……。馬質作戦で行くか……

 俺がそんな名案を考えていたところ……



「フレムよ……。あの子馬を盾にすればヤツも動けないのではないか?」



 セリオスが鬼のような作戦を提示してきた。

 なんて非道なんだ。恐ろしい男セリオス。



「ブルルルィ!!」



 馬刺しがよたよた近付いて来た子馬ちゃんを邪魔するなと言わんばかりに蹴り飛ばす。

 地面に倒れ悲しそうな声を上げる子馬ちゃん。

 酷過ぎるので俺はちょっとあの馬刺しに教育を施す事にした。



「ブルルルルィ!」



 馬刺しは再び俺達に向き直り、容赦なく突進して来る。

 俺は一歩も動かずにユニコーンを見据えていた。



「フレム!? どうした! 何故動かん!」



 飛び退いたセリオスの叫びが俺の耳に届くも、俺は恐怖よりも怒りが先行しているのである。

 俺は突進して来た馬刺しの角を掴み、立ったまま地面を滑った。



「んぎぎぎ……。止まれこの馬刺しぃぃ……」



 両手で掴んだ角を俺は必死に押し止める。

 少し手を緩めればお腹から串刺しだ。冷や汗が止まらない。

 馬刺しは勢いをなくしすぐに止まってくれた。そこで俺は手を離す。

 そして、俺の平手打ちが馬刺しの頬を捉えた。



「ヒィィン!?」



 パシンと良い音が鳴り、鳴き声を上げて倒れ込む馬刺し。

 俺は馬刺しを蔑むように怒りを込めて見つめてやった。



「おまえがどんな性癖を持っていようと良いだろう……。だが心配してか怖いのか……。どちらにしても、頼ってきた子供を足蹴にするとは……。許しがたき所業! その性根を叩き直してやる!」


「ヒ! ヒヒィィン!?」



 延々とお説教を続ける俺に馬刺しも困惑しているようである。

 やがて馬刺しは地面に伏せ、頭を垂れて大人しく聞いてくれるようになった。



「分かってもらえたようだな……」



 微笑む俺の見据える先には、馬刺しが子馬の元に寄り添い毛繕いをしている光景がある。

 うんうん。子馬も安心したのかとても嬉しそうだ。



「凄いなおまえ……。どこの世界に聖獣を説教する奴が居るのだ……」


「ここに居るぞ?」



 説教を始めた辺りから終始無言だったセリオスが呆れたように呟いた。

 俺は馬刺しを見つめるセリオスに軽く答え、踵を返して湖を背にする。

 やり切った感を醸し出す表情を作り、多分帰り道はこっちだろうと歩き出した。



「さて、俺達の役目は終わったな。帰るぞセリオス」


「待て、角だ角。締めようとするな」



 カッコ良く立ち去ろうとする俺をセリオスが止めて来る。

 そうだった、角取りに来たんだったな。

 俺はクリムゾンシアーを抜き、言葉は通じないかも知れないと思ったが……

 馬刺しに近付いて懇切丁寧にお願いしてみた。



「バサシくん。キミの角をおにーさん達にくれないか?」



 俺の言葉を聞いたバサシは突然角を地面に叩き付け、取れた角を鼻で押しこちらに献上してくる。

 金色のドリルのようなカッコいい形状の角だ。

 はて? どこかで見たことあるような……

 気のせいだな、俺がこんなカッコ良いアイテムを忘れるわけがない。

 さすがに貰うだけは悪い気がしたので、持ってきた野菜を代わりに渡してみた。



「ヒン? ……ヒヒィィィィン!」



 野菜を一かじりした馬刺し親子は跳び跳ねて喜んでいる。

 良かった良かった。なんて安い奴等だ。

 俺達は馬刺し親子にお礼を言い、今度こそ湖を後にする。



「せっかくだ。湖と共に消えた村を見ておきたい。恐らく廃墟だろうが、この一件の手掛かりが掴めるかもしれん」



 セリオスが言うに村は湖のすぐ近くらしい。

 このパターンって恐ろしい怪物が出る予感がして嫌なんだが……

 俺達はすぐ逃げられるよう、最大限警戒して村があったはずの場所に向かった。

 のだが、歩き始めて数分後に俺達はまたも立ち尽くして唖然としている。



「どういう事だセリオスくん」


「うむ、どういう事だろうなフレムくんよ」



 再びお互い疑問をぶつけ合う俺とセリオス。

 当たり前のように、ごくごく普通に村があるじゃないか。

 村人だって元気よく歩いているのだ。まさか亡霊なのか?



「お、フレムの兄ちゃん! 今日は新顔連れて来たのかい?」


「あら~フレムくん、そっちのお兄さん男前ね~!」



 俺に気さくに話し掛けてくるおじちゃんとおばちゃん。

 あれ? ここは……まさか……。そういえば見覚えがあるな……

 思案しながらポカンとする俺の肩にセリオスの手が掛かった。



「説明してもらえるな……、フレムくんよ」


「あらやだ、セリオスくんてば目が怖いぞ」



 笑顔なのに妙な威圧感のあるセリオスに臆する俺。

 待ってほしい。俺のせいではないのだ。

 ここはあれだ……。どう見てもタマゴ村だな。

 美味しい卵が取れるのだ。

 後は綺麗な反物も作っているぞ。

 よく作る服はここの布地を使っている。


 やはり金色のドリルはチノレが持ち帰ってくるアレか……

 取りに来る必要はなかった。我が家に沢山あるのだ。


 ここはシトリーの結界内に存在する村。

 村の周囲、恐らく湖も入っているのだろう。

 そこを避けて結界が構築されているので、並の人間では入る事も出る事さえも出来ない。

 そういや数日前ってフィルセリア行ってたね。

 面倒だから結界魔石で魔神館だけ覆ってたんだった。

 二百年もこの状態で栄えてるとか凄いよね~



「二百年も独自に生活しているのでは、今更アーセルムの文化に適応させるのは難しいな……。しかもここの住民はこの生活に不自由していない……。今解放したところで彼等のためになるのか……。いや、その前にその意思を確認せねばならない……」



 セリオスは俺が説明した途端、何やら頭を抱えてぶつぶつ言い始めた。

 何やら小難しい事を考えているのだろう。お偉いさんって大変よね本当。



「うむ、保留だ! 帰るぞフレム」



 セリオスが考える事を止めて逃げた。

 まあ今は他にも問題が山積みなのだろうから仕方がないな。

 とりあえず文句はザガンとシトリーに言ってくれ。

 当然約束通り帰りは俺の操作だ。酔ったら休む、これ大事。



「待て! 待ってくれ! フレム! ま! 死ぬ!」



 セリオスの声が耳に心地良い。しかしこれは凄いな。全然酔わない。

 命を握られて自分ではどうしようもない不安から酔っていたのだろうか?

 速度をいくら上げても急に鋭角に曲がっても全然平気だ。

 結構楽しいし、さっきからセリオスも楽しそうに奇声を上げている。



「ちょっとまっ! あ、そこは右だ! いやま! 後輪が滑っ……」



 このようにセリオスの指示通り動けば迷う事もない。

 まさかこんなにも快適に帰れると思いもよらなかった。


 そんな感じであっという間に魔神館に続く森の前に到着した。

 行きより早いんじゃないか?

 途中ガイドのセリオスが何度か寝ようとしたが阻止した。

 俺が道なんか知るわけないからな。



「く……国で取り決めよう……。速度の規制だ……」



 セリオスが瀕死である。いきなりどうしたのだ?

 国で決めたのなら従うよ?

 この国で世話になってる以上ルールは守らなきゃな。

 すっきりした心持ちで魔神館に帰宅すると何やら円卓の間が騒がしい。



「おお帰ったか! 見てくれこれを!」



 嬉しそうなザガン達の側には、神々しい光を帯びたエトワールが居た。

 美しく真っ白で大きな六枚の翼を広げるエトワール。



「美しい……。天使のようではないか……」


「天使だよ」



 改めて確認するセリオスに俺はツッコミを入れた。

 ザガン達はラグナートとマトイの部屋作りと歓迎会の準備を終え、新たな暇潰しにエトワールの魔道具作りを始めたのだそうだ。


 第五級天使の話を参考に作り上げた魔道書。

 エトワールが魔力を注入するのではなく、開くとエトワールから魔力を奪い、背中から翼として放出する。

 これなら供給過多で壊れる理由もない。


 過剰魔力を放出した状態で魔道書へと魔力を注入させる。

 表紙に色とりどりの宝石が散りばめられていて、その一つ一つに魔力を通わせる事で初めて発動させられるらしい。

 極めて面倒かつ繊細な魔力操作が求められるのだが、出力が強過ぎただけで魔力操作の得意なエトワールには造作もないようだ。



「お任せください。発動キーとなる魔石全てに均等に魔力を分散させるのですね? 隣の男子学生と奥様との間で揺蕩う旦那様のように」


「その通りですわエトワールちゃん!」


「さすがですエトワール様!」



 エトワールの自信たっぷりな発言にシトリー、イリスが声援を送る。

 預ける相手を間違えた。何してやがったおまえら。


 魔導書を起動したエトワールの周囲に光球がいくつも浮かぶ。

 一つ一つが相当な魔力を秘めている。

 これらは防御結界などの元に使えるようだ。

 いくつもの魔術を同時に行使する事で魔道具の崩壊を防いでいる。

 まだ未完成だが上手い具合にエトワール用の魔道具が作れそうだ。

 エトワールの魔道書はザガン、シトリー、そして手伝いでイリスが担当する。


 俺とアガレスは聖剣の製作に取り掛かった。

 セリオスが持ってきた材料より上質な鉱石や金属がウチにあったので、それらを使うことにする。

 出来ればエトワールの魔道書に劣らない武器を拵えたいのだ。

 もちろんバサシの角も活用する。

 火入れ焼入れにはリノレまで協力してくれた。


 魔道書より完成は遅れたが、およそ二日で聖剣が完成。

 ありえない程早いがザガン、シトリー、アガレスにリノレが力を合わせれば何て事はない。

 イリス同様俺はおまけなのだ。


 神々しく輝く白い刀身に、青と金の装飾が美しい聖剣が出来上がった。

 もちろんただの剣ではないぞ。

 所有者の精神力を魔力、そして神気と言われる生命力に変換する攻防一体の聖剣。

 名付けて『グランフォウル』。

 そして同時に複数の魔術を発現させる魔道書。

 虹の光を彷彿とさせる『エクレールアルクス』。

 アーセルムの歴史に残る二つの神具が出来上がったのだ。



「素晴らしい……礼を言うぞ」


「ありがとうございます皆様」



 受け取りに来たセリオスとエトワールが礼を述べる。

 報酬沢山貰ったし気にすることはない。

 我等にとっては暇潰しなのだからな。



「ところで屋敷の前にあった建物はなんだ?」


「あれね。歓迎会に使うんだよ。ちょっと催し物を考えててな……」



 セリオスはラグナート達の歓迎会に使う会場に興味を示したようだ。

 俺は概要を伝え、せっかくなのでセリオスにも協力を要請した。



「ほう、面白そうだな……。ちょうど試したい技があるのだ、私も参加させてもらおう」



 嬉々として乗ってくれたセリオスは新技も開発しているようだ。

 俺は後で聖剣と新技の御披露目に付き合う事にした。

 どうやらグランフォウルを国宝として飾って置く気は全くないようだ。


 セリオスの提案で歓迎会はシリル達も呼びつけて盛大に行う事にした。

 先の一件での後始末やゼラムル教団の調査で皆疲れているので、良い息抜きになるだろうとの目論見だ。

 ラグナート達もうすぐ帰って来ると思うが、間に合えば良いな。


 俺とセリオスが椅子に座って話をしていると、魔道書を作り終え、例のタマゴ村に卵補充に行っていたザガンが帰って来た。

 何やらタマゴ村で不思議な事件があったらしい。


 ここ数日、近くに生息する魔物が何十頭も村人の前でその角を折り、差し出して来るようになったとか……

 そして村人としばし見つめあった後、悲しげに帰って行くそうだ。

 その話を聞いた俺とセリオスは即座に椅子から立ち上がった。



「ニンジンを! いや、野菜を収穫するぞ! ありったけだ!」


「うむ、急ごう!」



 俺とセリオスは大量の農作物を引っ提げ、通訳のリノレも連れてユニコーンの湖に向かった。

 そしてユニコーン達に必殺の土下座を繰り出し、全力で謝って来た。

 ごめんよ……。そんなつもりじゃなかったんだ……

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