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四十六話  アーセルムの聖獣 前編

 セリオスとエトワールは王都へ、シリル達はフィルセリアに帰っていった。

 皆今回の件で後始末が山盛りなのだ。

 俺とて忙しい。実際問題呑気に遊んでいる場合ではないのである。


 中庭で俺とアガレスが壁に寄りかかり、今後の栽培対象を相談しているとラグナートとマトイがやって来た。

 どうやら魔神館に住みたいという話らしい。

 ザガン達は了承したが最終決定権を俺に委ねていたようだ。

 俺は家主でもないので勝手に決定権を委ねないでもらいたいのだが。



「良いんじゃないか。一人で山に居てもつまらないだろう?」


「ほんとに! 私ここに住んで良いの!?」



 俺の了承を得て頭の上に乗ってきたマトイが嬉しそうに叫ぶ。

 堅苦しい奴だと思っていたが、中々人懐っこい奴である。

 住まいを変えるならレイルハーティア教団にも連絡しなきゃならないらしい。

 なんでも天竜マトイが居るからこそ、あの場所に本部を作ったようなものなんだとか。

 よーし。知ったことか。上手く言いくるめて来い。


 山に置いてきた荷物も多少はあるようで、他にもいくつか回りたい所があるそうだ。

 もろもろの引越し準備の為、一週間程出掛けるらしい。



「じゃそれまでにおまえらの部屋を作っておくか。どんなのが良いだろうか?」


「お城!」


「おまえの部屋は鳥籠に決定した。可愛く作って置いてやる」



 俺の提案にマトイは随分と豪勢な要求をしてくる。

 なので豪勢にして豪快な鳥籠を用意してやることにした。



「けちー! けちー!」


「部屋だっつってんだろうがー!」



 マトイが頭上から俺の額を両手でぺしぺし叩いてくる。

 部屋の雰囲気や内装を聞いたんだよ。城なんて作れるか!

 俺は負けじと両手で指弾きを仕掛けてやった。

 くそ、見えないからほとんど当たらねぇ!


 俺達の様子を空笑いを浮かべて傍観していたラグナート。

 ふと思い出したかのようにいきなりとんでもない事を言い出した。



「そういやその剣、おまえにやるよ。良いだろマトイ?」


「うん、良いよ。いつまでも飾ってても仕方ないし」



 ラグナートとマトイは紅い剣を俺に譲渡すると言うのだ。

 確かに俺は我が物顔でクリムゾンシアーを大事に持っていた。

 だがそんなにあっさり貰って良い物なのだろうか?



「え? 良いの? 大事な物なんじゃないのか? 借りといてなんだけど、さすがにこんな凄い剣受け取れないぞ?」


「気にすんな。大した価値があるもんじゃない。俺らは使わないし、なんなら飾っとけよ」



 貰えるとなると急に尻込みする俺に、大したもんじゃないと言い張るラグナート。

 なんでも本来の目的は手に負えない魔神を封印するために作られたらしい。

 当時残っていた竜族やエルフが製作に協力していたのだとか。

 どの辺が大した事ないのか言ってみろ。


 要らないなら飾っとけとまで言うのでありがたく頂いておこう。

 正直カッコ良いので嬉しい。初の自分用武器である。

 いつまでも友人であるアガレスに頼るのはいけないと思っていたところだ。

 喜ぶ俺を尻目に、ラグナート達はさっそく出発するらしい。



「もう行くのか? ちょっと待ってろ。マトイのオヤツに菓子でも包んできてやる」


「やったー! フレム愛してる!」



 俺はクリムゾンシアーを壁に立て掛け、マトイと共に急いで厨房に向かう。

 ザガンが作り置きしておいた菓子を包み、可愛らしくリボンで括ってからすぐにラグナートの待つ中庭に戻った。



「お待たせラグナート。ん、どうした?」



 戻って来た俺を待っていたのは乾いた笑顔を作っているラグナート。

 何かあったような感じのラグナートはやたら小声で話し掛けてくる。



「いや……、たまにはアガレスを散歩に連れてってやれよ」


「ああ、うん。うん?」



 ラグナートの言葉の真意を汲み取れない俺。

 いつも連れてってるんだけどな……

 それにしても、ちゃんと立て掛けたはずのクリムゾンシアーが倒れて砂にまみれているのが気になる。

 どんなに上手く置いても少し離れると汚れているから不思議な剣である。

 目を離しただけで石がぶつかるような音や、『こいつめ……。こいつめ……』といった恨みがましい幻聴も聞こえるから恐ろしい。


 まさかアガレスが自我のないクリムゾンシアーに陰湿な嫌がらせを行っている訳でもあるまいて……

 一応、あまりこの剣に夢中になるのは控えておこう。



 ーーーーーーーーーー



 ラグナート達が出発して数日後。

 ラグナートとマトイの部屋作りと歓迎会の準備をしているところに、セリオスとエトワールが訪ねて来た。

 神妙な面持ちで現れたセリオス。面倒だが仕方ないから対応してやろう。



「すまんな……。ようやく時間が取れたのだが……。一つ重要な事を見落としていたのだ。知恵を借りたい……」



 疲れた表情と心配事が同居したような様子のセリオス王子。

 俺の嫌な予感は的中し、どうやら頼みがあるらしい。 

 なんでも可及的速やかに、エトワールの護身用の魔道具とアーセルムの宝剣を新しく用意したいようだ。



「なんで今頃? この間のテイルなんちゃらはどうしたんだよ?」



 俺の記憶が確かなら国宝の剣があったはずだ。

 激務の合間を縫ってまで新たに制作を急ぐ理由はないだろう。



「ああ、テイルキャリバーはな……。その……。消し飛んでしまってだな……」



 セリオスの話では例のエトワール爆弾で宝剣は消滅したらしい。

 国の象徴の一つである宝剣を勝手に持ち出した挙げ句、紛失したとなるとさすがにバツが悪いようだ。

 ここらでテイルキャリバーを越える聖剣を新たに作り、国宝にしようという事らしい。

 国王であるセリオスパパにバレる前にだ。



「それはちょっと……マズイんじゃないですかね殿下……」


「礼はする! 何が欲しい? 金か? 名誉か? 爵位か?」



 渋る俺にセリオスは畳み掛けるように謝礼を提案した。

 どんだけ爵位やりたいんだこの王子様は。

 セリオスは鉱石や金属、なんかの皮や酒などの趣向品を山程持ってきている。

 想像以上に結構必死なのだ。



「そうそう、おまえには先にこれを進呈しようと思う」



 セリオスは俺に小さな長方形の黒いケースを渡してきた。

 物で釣れると思われるのはしゃくだな。勲章でも入ってたら投げ返してやるぞ。

 あくまでも俺は強気の態度でそれを受け取った。



「こ、これは……」



 ケースを開いた俺の心は思わず弾んでしまう。

 中に入っていたのは、工業都市で有名なグロータス製の最上級ノッギス。

 そんなに大きな物は測れないが、物の大きさを正確に測る精密な物作りの必須道具。

 しかし、これの真価は測る事にあらず!

 何かの作業中に刺さってしまった極小のトゲでさえ、その精密な機構で取り払えるのだ!

 下手なトゲ抜きよりも遥かに優秀なのである。

 イリスの父親に借りた事があるが、散々人の興味を煽ったところで取り上げられてしまった過去が影を落とす。

 俺を悔しがらせるために貸したのだ。性根が腐ってやがるあのクソ親父。

 他国の道具で恐ろしく高いので手が出せなかった、幻の神器が今ここに!



「誠心誠意協力させて頂きますセリオス殿下」


「うむ、よろしく頼むぞ」



 俺とセリオスの利害が一致した瞬間である。

 とりあえずエトワールの魔道具だが……。さっそく難航した。

 どれもエトワールの魔力に耐えられないのだ。

 要らないからとルーアが置いて行った魔道書。

 それなりにランクの高い物だったらしいが、これもエトワールが魔力を通わせた瞬間に紙吹雪となって消えてしまった。

 こんなのどうしろってんだよ。


 仕方ないのでエトワールの魔道具を後回しにし、宝剣製作に入ろうとした。

 セリオスはテイルキャリバーの素材だった物を一通り集めたようだが、一つ足りないらしい。

 神気を宿す聖なる触媒、ユニコーンの角。

 これは是非とも使いたいようだ。

 ユニコプターの親戚とかではないらしい。

 紛らわしい話である。


 ユニコーンとはアーセルム領内、しかもこの付近にあった湖に生息していた角の生えた馬らしいのだが、二百年程前からその姿を見る者が居なくなったと言う。

 そもそもその湖や近隣にあったミトスという村すら見付からなくなったと言うのだ。

 つまり半ば伝説的な生物となっている。


 しかし数日前、その馬が以前生息していたとされる林で目撃されたらしい。

 セリオスは調査団が派遣される前になんとしても角を手に入れたいようだ。

 言うまでもないが調査団の派遣を止めているのはセリオスである。


 ラグナートとマトイの部屋作りと歓迎会の準備は止めたくないので、エトワールはイリス達に頼み、俺とセリオスだけでその林に出発することになった。

 相手は馬だ。ニンジンとか食わせとけば良いだろうといくつか野菜を収穫して持っていく事にする。



「さあ、乗るが良い! 我がスターアーセルム号に!」



 魔神館のある森から出てすぐ、セリオスが偉そうに紹介してきたスターアーセルム号。

 馬車のようでいてそうでない、鋼鉄製の白いボディの乗り物だ。



「これウチのじゃない?」


「うむ、借りているぞ」



 俺達が以前制作した乗り物を使っていた事を白状したセリオス。

 やっぱり白く塗りたくってたか……

 しかも『我が』って言った上に名前まで付けるとかさすが王子。

 容赦がない。アーセルムの国旗入ってるしな。


 まあ今更そんな些細な事を気にする俺ではない。

 スターアーセルム号に乗り込み、セリオスの操作で出発した。

 悪そうな笑みを作り、目を血走らせたセリオスはぐんぐん速度を上げていく。



「待って! 待って! 速度! やば」


「ははははは! 私は風になる!」



 俺の叫びを無視し、テンション高く速度を上げ続けるセリオス。

 日に日にセリオスという男は壊れていってる気がするな。

 なんなのだ……。俺は呪われているのか?


 吐き気と頭痛を堪え、なんとか目的地周辺までやって来た。

 とりあえずはここからそんなに広くなさそうな林に入り馬を探す事になるようだ。



「セリオスよ……。帰りは俺が操作するぞ……。文句は言わせ…………な……い」


「そうか? 致し方ないな」



 俺はセリオスから言質を取っておいた。

 了承したからには意地でもセリオスには使わせない。

 自分で操作した方がマシに決まっているからだ。

 いつでも俺の意思で止まれるしな。

 しばし深呼吸を行い調子を整えた俺達は、二百年程前に湖があったと言われる場所まで行ってみる事にした。

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