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四十一話  破壊竜追撃戦

 一方、緩やかな速度で天空を駆ける黒き竜。

 ゼラムルの体を構築している細胞が、あの獣の眼前に留まる事を拒んでいた。

 負ける要素は微塵もない。始末は容易に出来たはず。

 だが壊れたゼラムルの精神の代わりに、その骸を動かす残留思念とも言うべき意識。

 それが取ろうとしていた行動。殺戮、復讐、破壊衝動。

 それら全てをかなぐり捨て、ゼラムルは行く宛もなく空に飛び出したのだ。


 勢いもなく飛行するゼラムルの遥か上空からは急速接近する者がいた。

 減速する事もなく、その金色の塊はゼラムル目掛けて突進して来る。

 当然の如く空中で接触し、ゼラムルは大地に叩き落とされた。



「追い付きましたよ!」



 そう言って大きく翼を広げる金色の塊はマトイ。

 マトイは接近している事に何の反応も示さないゼラムルに奇襲を掛ける為、ゼラムルより上空から狙いを定めていたのだ。



「これ以上は暴れさせねぇ! ここで終わりにするぞ!」



 ようやく破壊竜ゼラムルと邂逅し、声を振り絞るフレム。

 ゼラムルの後を追う形で飛行してしたフレム達は、道中の惨状を目の当たりにしていた。

 天候は崩れ、自然を破壊する脅威。

 留まるだけで洪水や火事の恐れもある天災。

 逃す事は許されない。

 フレム達はここが決戦の地だと確信していた。



 ーーーーーーーーーー



 教会から数十キロは離れているであろう土地。

 多分もうここはフィルセリア国内、だが辺境らしく人里はなさそうだ。

 林に落ちたゼラムルの衝撃で木々は薙ぎ倒され、良い感じに戦闘の舞台は整っている。

 俺達は決戦の場に降り立ち、破壊竜ゼラムルと対峙した。


 イリスの連絡によるとリノレとチノレの活躍により、ゼラムルはレイルハーティア教団本部から撤退したらしい。

 リノレとチノレは要安静だが、シリル達は逃げたゼラムルを追っているのだとか。

 俺の中にリノレ達が無事だった事による安堵と……

 間に合わなかった事による不甲斐なさが渦巻いている。


 チノレ達が恐れずに立ち向かったのに……

 俺だけが尻尾を巻くわけにはいかない……

 尻尾なんてないし膝は依然ブルンブルンに震えている上に、竜酔いで吐き気と頭痛と目眩が凄いけれどやるしかない!



「グオォォォォォォ!!」



 咆哮するゼラムルの起こす風圧で木々が薙ぎ倒される。

 気を抜くと俺達まで吹き飛ばされてしまいそうだ。

 だが、封印が解かれた時に感じた威圧感はほとんど感じなかった。

 先手とばかりにシトリーは地面から太い樹の枝を出現させ、ゼラムルを絡めて締め上げる。



「グルッ、オォォォ!」




 ゼラムルはそれをメキメキと容易く粉砕する。

 続けこちらに向けて口を開け、口元に赤い球体が現れた。



「ドラゴンブレスが来ます!」


「ヤバそうだな。アガレス! 空間停止だ!」



 マトイが危険を知らせ、俺はフルメタルアガレスにバリアをお願いした。

 直後赤い奔流、ドラゴンブレスとやらが放たれる。

 アガレスのバリアは一瞬ドラゴンブレスを押し止めるも簡単に粉砕された。

 だがブレスの軌道はバリアが粉砕された箇所を軸に大きく逸れる。

 吐く息が逸れていくのは違和感があるがそこはアガレス。

 きっと凄く不思議な力が働いているのだろう。


 間を置かずにザガンが放つ毒々しい黒い水流がゼラムルに向かった。

 これもゼラムルの咆哮により敢えなく霧散する。


 俺は粉砕された樹の枝を利用して飛び上がり、ゼラムルの胸部を切りつけた。

 紅の剣はガリガリと皮膚の上を擦るだけで刃は全く通らない。


 お次は上空に飛んだマトイのドラゴンブレス。

 それはゼラムルのドラゴンブレスと衝突し、打ち負けたマトイの側面を掠めた。

 ラグナートも顔面を切り払いに掛かるが、俺の時と同様に皮膚を滑るだけ。

 舌打ちをしたラグナートはゼラムルの顔面を蹴り上げ距離を取る。



「こうなりゃ仕方ない……」



 そう呟いたラグナートは剣を捨て、丸腰で突貫した。

 ゼラムルの腕をかわし、体を駆け上がり顔面を殴り飛ばす。

 体勢を崩す程度は出来たが尻尾で反撃され、勢いよく地に落とされた。



「こいつやっぱ強いよ! 息巻いたは良いけどこんなんどうやって勝つのさ!」


「やっぱりレベルが違い過ぎるな……」



 俺は勝ち方を尋ねたつもりだったが、ラグナートからは諦めの声が聞こえてくる。

 嘆いて良いのは凡人である俺だけだ。超人はもう少し頑張ろう。



「素手でこんだけ強いならさ、ラグナートがこの剣とかアガレス使ったら勝てるんじゃないのか?」



 俺がこんな立派な剣使うより余程有用だろう。

 むしろ俺は本当にいらない子な気がする。



「残念ながらそいつぁ無理だ……。俺は魔力を扱えない。そいつの真価は発揮出来ねぇんだよ……」



 ラグナートが口惜しげに語るのはその身に秘めた魔力無効化能力。

 このせいで精神力を魔力に変換する事が出来ないので、魔道具の類いは使えない。

 予め魔力の込められた退魔武器とかなら使えるが、すぐに劣化するそうだ。

 アガレスなら使えるようだが、魔力放出を阻害するので出力が下がってしまう。

 ついでにこの無効化はそこまで便利でもないとのこと。

 例えば精霊魔術の火球とかは、ラグナートに当たった瞬間に魔力の繋がりが絶たれ霧散するのだが、炎自体は消せないので普通に熱いらしい。

 つまり瞬間的に威力を発揮する魔術などにはあまり意味がないそうだ。


 それにしたって色々試せそうなのにどうも歯切れが悪い。

 勝つ気がないようにさえ見えるのだ。

 ちょうどその時……



「危ない危ない~!」


「こらカイラ! 死ぬぞこれ!」


「んなこと言っても精密操作なんて出来ねぇよ!」


「落ちるーーー!」



 シリル、ルーア、カイラ、ハミルの四名が空から落ちて来た。

 カイラの腕や腰、足にしがみついたまま皆涙目である。


 落ちて来たハシルカ四名はシトリーが風を操り受け止めた。

 九死に一生という感じのシリル達。

 加勢に来るにしてもなんとも言えない登場の仕方だ。



「格好が付いたのは最初だけだったな……」


「ああ、思ったよりすぐにバランスが崩れた……」



 仰向けで嘆くシリルとうつ伏せで愚痴るルーア。

 最初はカイラの肩などにカッコ良く手を乗せ、風を起こして飛んで来たらしい。

 浮いて……、ではなく大砲のように飛んできた模様。

 そりゃ怖いね……。俺なら泣くな。

 まあ、来たからには何か策があるのだろう。

 俺はさっそく起き上がった勇者ハシルカに尋ねてみた。



「弱ってるって聞いたがそれでも強過ぎるぞ! なんか策はあるのか?」


「全くない! 神器は二つあるが、正直そちらが頼りだ!」



 期待を込めて聞いた俺にふんすとふんぞり反って偉そうなルーア。

 そんな気もしたがやはりノープランらしい。

 シリルの神器とハミルが法王から強奪してきた神器はあるが、結局俺達頼みだと言う。



「《ふるぱわーはみるふぃーるどぉ》!」



 ハミルはその神器を振るい、ゼラムルの周囲に結界を構築した。

 重圧がゼラムルを包むも、大した効果も出ないまま結界は破壊された。



「むむむぅ……。むむっ! むぅぅぅぅ!!」



 ハミルは悔しそうに可愛らしく呻いている。

 さらに力を引き出そうと気合いを込めているようだ。



「いきなり使いこなすのは難しいですね……。ただでさえブューケさんは起動が困難なので……」


「どちらさん?」


「あ、初めまして~。ヴァルヴェールと申しますぅ。いえね、私は以前お会いした時に自己紹介したかったんですよ? でも喋れなくてですね。こんな形でのご挨拶となってしまってやや憤慨気味と言いますか……」



 いきなりシリルを囲うように現れた大きな白蛇が喋り出した。

 ちょっとびっくりした俺が訪ねると丁寧に自己紹介をしてくれる白蛇さん

 どうやらこの白蛇がヴァルヴェールらしい。

 前に見た時は半透明でカッコ良い水の蛇だったが……

 なんともひょうきんで可愛らしい顔付きになったものだ。


 そのヴァルヴェールが言うには、地天の杖ヴャルブューケはもっとも扱いが難しいと言われる精霊神器なのだそう。

 千年前の英雄ルナリィ以降に起動出来た者は数える程しかいないらしい。

 教団内で最高の神聖術の使い手、歴代最高の法王と呼び声高いブェリョネィースですら初期起動しか出来なかったようだ。

 意思の波長が合わない事にはまともに扱えない。

 それが精霊神器らしい。


 とにもかくにもこのままでは打つ手がない。

 ゼラムルとマトイが上空で大怪獣対決を始めたが、ザガンの援護があってなおマトイは防戦一方だった。


 そう言えば戦闘が始まって邪魔だからと、その辺に投げて置いた物を俺は思い出した。

 天使ルーアの杖だ。俺はそれを拾い上げルーアに投げつけた。



「小娘! あっちのルーアから預かってきた! おまえにやるってよ!」



 ルーアは投げ渡した杖を受け取り、驚いたように杖を見ている。

 なんだろう? 俺の渡し方変だった?

 ちょっとカッコ良かったと思うんだが。



「これは……、初代ルーアが使っていた転魔の杖じゃないか!? 使えないぞこんなの!」



 慌てたように喚くルーア。そういう事か……

 知らんがな。なんとかしたまえ。

 ルーアが転魔の杖を手にしておろおろしていると突然杖が輝き始めた。



『こんにちはルーアちゃん。多分使えないだろうから、ルーアちゃんが手にしたら発動するようにしておいたわ。いくつか助言があるの。多分貴女達、私の忠告も聞かずにゼラムに挑んでるでしょうから……、簡潔にね』


「これは……。杖にメッセージを残していたのか? とんでもない事をするな……」



 反響する天使ルーアの声が辺りに小さく響いてくる。

 ルーアは魔道士としての実力の違いを思い知らされたのか、なんだか腹立たしいと言わんばかりに苦い顔をしていた。

 どうやら自動再生されるだけで対話は不可能なようだ。

 目を閉じ、真剣な様子のルーア。

 取り溢しのないようその声に耳を傾けているのだろう。


 助言内容は主に魔術理論の指摘。

 天使ルーアがガルドの持っていた情報を元に推測した結果、ルーアは召喚魔術を間違えて覚えているという。


 召喚陣の中心に対象を設置すると、それを封印してしまうと考えていたらしいルーア。

 それは逆で、むしろ色々解き放ってしまうようだ。

 転魔の杖を媒介にし、召喚陣の中心に転生術を使う要領で意識と触媒を配置する。

 そうすれば良い感じに簡易生霊が作れると教授してくれている。

 どのみちゼラムルには効果は無いが、正しい知識は発想を産む。

 知っておいて損はないと言う話だ。


 そして自動再生が終了すると、この魔導器に入ってる術式は消滅する。

 だが込めて置いた魔力、ルーアでは到底溜められないような膨大な力をルーア用に変換してくれているようだ。

 一瞬見ただけで指紋や血液型を把握されたようなもの。

 どこまでも規格外な美女だった。



『最後ね。貴女達は出来る事だけを精一杯しなさい。貴女達の後ろにはラグナートやマトイ達が居る。特にあのフレムとかいう男……。何故か腹が立つから少しくらい無茶させてでもなんとかさせなさい』


「ああ……うん、分かる。何故か腹が立つのだこの男」



 天使ルーアは最後の言葉と銘打ち、優しげにルーア達ハシルカを鼓舞する。

 ルーアは突然冷静になったようにその言葉に同調し、天使ルーアの気配は消えていった。

 何故だい? ひょっとして俺結構ひんしゅく買ってるの?

 あのお姉さんとこの小娘に何か悪い事したっけ?

 嘘でしょ? 俺って腹の立つ要素皆無だと思うんだけど。



「なんともお節介な天使だ。まるで姉のようだな。最初に会った時も、対処出来るギリギリの範囲で手を抜いていたのだろうな。こんな回りくどい事をするのだ……。もう、存在しないのだろう?」


「ああ……、自壊魔術を行使したのを確認した……」



 ルーアは閉じていた目を開け、こちらに視線を向けて問い掛けた。

 それにはザガンが答え、再びルーアは空を見上げたまま目を閉じる。



「ありがとう……。この姉のような存在も、私を私として見てくれた……。助言、ありがたく貰い受ける……」



 空に打ち上げるように感謝を唱えるルーア。

 ルーアは目を開き、転魔の杖を構えた。



「あの天使からの伝言だ! ハシルカ! やれることを全力でやるぞ! 後はラグナート達、特にフレムが頑張ってくれるそうだ!」



 ルーアの進言、大雑把な作戦内容に俺は驚愕した。

 少し離れていたハミル達に向けての言葉であろうが、わざわざ宣言する事もないだろうに。

 そもそも冗談じゃないの? 何故そこで本当に俺が出てくるのだ?

 この場において唯一の一般人、それが俺だよ?



「よーし! おにーさん、後は任せたよ! 一番、ハミュウェル行きます! むむむむぅ…………、ヴャルブューケ!!」



 ハミルの気合いに呼応するように、地天の杖ヴャルブューケが強い輝きを放つ。

 ハミルの前方に二メートル程の大きさで、半透明の土気色の球体が現れた。

 それは徐々に実体的に見えるようになり……

 茶色の真ん丸いフサフサの毛玉になった。

 その毛玉から二つの目玉が開かれる。黒く小さなつぶらな瞳。

 続いて鳥のようなくちばしが生え……

 その大きさとは不釣り合いな程小さな羽を広げ、そして鳴いた。



「ピィーーー!」



 超巨大なだけでただのひよこじゃねぇか!

 どうやら人の言葉は話せないようだが……

 どこから首でどこから足なのか分からないほど丸い。

 天も地も制覇しそうな名前なのに、天でも地でも何も出来ないような容姿をしていた。

 これはもう一段階覚醒しそうな予感がする。



「いきなりブューケさんを完全体で使いこなすなんて……。さすがハミルと言わざるを得ませんね……」



 俺の希望をヴァルヴェールがあっさり打ち砕いた。

 あれが完全体なんて、制作者を問い詰めたい気分でいっぱいだ。

 どうやってあんなのと意思疎通を図れと言うのか。

 誰も扱う事が出来なくて当然である。



「ヴャルブューケ!」


「ピヨ!」



 ハミルは上空に居るゼラムルに重力結界を仕掛けた。

 なんと結界の形はひよこ型だ。

 ゼラムルはジワジワ下がって地に降り立ったが悠然と佇んでいる。

 効果がない事はないが、さほど効いてはいないようだ。



「はぁぁぁぁぁ!」


「ピィィィィィ!」



 ハミルとひよこが共に気合いを込め、杖の柄が伸びて先端に巨大化したひよこがくっついた。

 絵面が真剣なこの局面に全く合っていない。



「はみるはんまー!」



 ハミルは先端が五メートルをゆうに越えるひよこハンマーでゼラムルを叩き付ける。

 全く痛く無さそうな外見だがズゴンと生々しい音を上げ、直撃したゼラムルは立ったまま木々をなぎ倒し、後方に飛ばされた。



「えぇ~……。すげぇな……」


「ええ、すごいですねぇ……。ブューケさんに蓄積されている魔力も完全にハミル用に置き換わっているようです。凄まじいシンクロ率です。このままでは私とシリルの影は薄くなる一方ですね。ただでさえハシルカのおもり番と呼ばれるシリルですから……」



 シリルの口数少ないのにヴァルヴェールうるさいな。

 無口な子かと思ってたのに。

 どうやらハミルは弱ってるユガケを玉石ごと置いて来たらしく、魔力はひよこから使っているようだ。



「負けてられんな! 良いだろう。見せてやる! 私の封印術をな!」



 ルーアの召喚術の間違いはユガケの一件で判明していた。

 なので自分なりに封印術というものを考えていたのだろう。


 転魔の杖アズライルに意識を集中させるルーア。

 お札数枚を空間に配置していく。

 多分なんらかの術式が込められた物と思われる。



「天使ルーアの助言を元に完成させた術式だ。実は転生術すら使用できる自信がないが……、あえてその原理も上乗せして構成してみたぞ!」


「ぶっつけ本番じゃねぇか!?」



 ルーアは意気揚々と新術を晒そうとするが、俺は不安でいっぱいだった。

 ゼラムルに向け解き放たれた新術。

 巨大な黒い竜を囲むようにいくつもの陣が横に斜めにと形成される。



「目にもの見せてくれる! 《ファイナルドラゴンキラー》!」



 ルーアが叫ぶとゼラムルを囲んだ多重の輪っかが薄暗い輝きを見せた。

 陣の外周から黒い煙を放出し、キョロキョロとしたゼラムルは慌てているようにも見える。



「封印するのか殺すのかどっちなんだ! というかあれは封印術なのか?」



 俺はツッコミどころが多過ぎるネーミングに思わず叫んだ。

 俺の疑問にはザガン達が次々に答えてくれた。



「うむ、全く違う。紛れもなく召喚陣だ。しかし魔力を吸出して放出しているな……」


「おまけに意思も流れていってますの。適切な判断が取れなくなるようですわね……」


「なんと恐ろしい術なのだ……」



 ザガン、シトリー、アガレスが珍しく怯えているようだ。

 あの召喚陣は魔力と今考えている思考を体外に放出するらしい。

 仮にあれを魔神等に使った場合、例えるなら血が出続けているのにどうしていいか分からなくなるという恐ろしい効果なのだそう。

 ドラゴンキラーじゃなくてデビルキラーだろう。


 そもそも精神を引っ張って本体を引きずり出すのが召喚。

 生命力を圧縮して行う封印を、精神に作用する暗黒魔術で行うのは不可能だと言う。


 引っ張り出す召喚術、ならば内側に押してやればいいだろう的な発想。

 実際の効果はルーアの意識を反映した言わば魔放陣、それがゼラムルの意志と魔力を圧迫して押し出している。

 対魔神用黒魔術の妙技が誕生した瞬間である。

 ゼラムルも堪らないと感じたのか、周囲に暴風を巻き召喚陣を吹き飛ばした。



「それを待ってたぜ!」



 カイラは力強く拳を握り大気を操った。

 ゼラムルが起こした風が更に加速を見せる。

 自らの力を利用され竜巻に飲まれるゼラムル。

 その力をゼラムルに消される前に、カイラは瞬時に炎を灯す。


 竜巻に炎が流れ、ゼラムルが巨大な火柱に包まれる。

 カイラはシトリーとの地獄の特訓で反射的に大気を掴める迄になっていたのだ。



「グオォォォォォォ……」


「ヴァルヴェール! 俺達もやるぞ!」


「心得ました!」



 苦しそうに呻くゼラムル。

 これを逃す手はないとばかりにシリルが猛り、ヴァルヴェールが応じる。

 シリルの剣にヴァルヴェールが巻き付き高速回転を始めた。

 ヴァルヴェールの姿が変化し、剣には白い輪っかがいくつも出来ている。



「行けシリル!」


「うおぉぉぉぉぉ!」



 カイラはシリルの動きに合わせて風を起こし、その風を利用してシリルは高く跳躍する。

 そして火柱を打ち払ったゼラムルの頭上からヴァルヴェールを降り下ろした。

 剣を受け止めたゼラムルの腕からはゴリゴリと削れるような音が鳴り響く。

 ヴァルヴェールが変化した白輪の回転がいかに凄いかが見て取れる。

 耐えるゼラムルの腕を弾き飛ばし、白輪纏う剣がゼラムルの胸部に届いた。

 白く巻く水流がゼラムルの胴体を駆け抜ける。



「グ……オォォ……」



 ゼラムルの肩口から腰まで抉られたような跡が刻まれた。

 黒い竜の溢す声は痛々しく、シリルの放った攻撃が確実に効いている事が分かる。



「グオォォォォォォ!!」



 ダメージを負った事で怒ったか、ゼラムルは大気を揺るがす程の咆哮を放つ。

 魔力が高まり、辺りを暴風が蹂躙する。

 飛ばされる木々。俺達の周囲にはもはや林など無くなっていた。

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