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百七話  我が家への想い溢れ

 俺は現在、工業都市グロータスの西居住区にて潜伏中である。

 一部廃墟同然になっている住宅街の路地裏で、アガレスを携え息を殺して身を潜めているのだ。



「マトイはやられたか……。くそ! まだ怪我も治りきってないのになんでこんな事に……」



 このような状況で、俺が強い焦燥感を覚えているのは訳がある。

 リヴィアータ戦役と呼ばれる人と魔神との争いが終わり……

 戦後の混乱と情報整理が落ち着くまでという事で、俺達はすでに二週間近くグロータスの街に滞在していた。


 ゼラムル教団は幹部の消滅と共に解体。

 信者である人間達も皆、自分達がエサにされるために集められた事を知ると何も考えられないかのように放心していたらしい。


 何故そんな簡単に済んだのかは単純な話。

 今回の戦争はゼラムル教団の信者達をも結集させての総力戦であったのだ。

 世界の覇権を握るため、信者達は惜しげもなく『使われた』。

 戦力、魔神化の実験、そして食料。

 つまりゼラムル教団の人間自体が殆ど残っていなかったのだ。


 凄惨な状況だったとはいえ、街にも活気が戻りつつある。

 進攻に対し即座に防衛戦を張れた事で建物の被害等は居住区に集中しており、商人達もすでに働き始めていた。


 俺もこの二週間、完治していない身体の痛みに耐えながら……

 ハミルとデートのやり直しでお揃いの液体砂時計を買ったり……

 マトイと食べ歩きツアーをしたり……

 イリスパパを懐柔しようとするフォルテの邪魔をしたりで大忙しだった。

 そんな楽しい日々を送っていたのだが……



「来たぞ! 準備は良いかタマモ!」


「もちのろんじゃ!」



 路地裏から大通りを見ていた俺の掛け声で、奥の暗がりに隠れていたタマモ姫が姿を現す。

 直後、通りから俺とタマモを視認したハバキが声を荒げて怒鳴り散らして来た。



「見付けたぞ! いい加減に観念しろ!」


「ふん! 捕まってたまるものか! お主らの好きにはならんぞ!」



 叫びながら刀を構えるハバキに先陣を切って突貫するタマモ。

 タマモの振るう扇子がハバキの刀と幾度となくぶつかり合う。

 ちなみにこの扇子、やはり鉄で出来ているらしくとても丈夫でとても重い。

 姫さん自体も太古の神の血を濃く継いでるとかで身体能力はとても高いようだ。



「このバカ力が……。さっぱり意味が分からんぞ! 何故暴れているのだ! 何が気に食わない! 言ってみろ!」


「知れたことよ! 護衛付きの散歩などもう嫌じゃ! よってわらわは、己の自由を力づくで手に入れる事にした!」



 憤慨するハバキに当たり前のように抗議するタマモ。

 そうなのだ……。戦いが終わり、数日が経過した辺りから……

 もうどこに出掛けるにも外出許可申請を要求された上に護衛を付けられた。

 でなければ俺達は帝国ホテルから一歩もお外に出られないというのだ。

 こんな面倒な生活では正直息が詰まって仕方ない。

 これは、俺達の自由を勝ち取る為の聖戦なのである!


 扇子と刀が激突し、ハバキとタマモが体勢を崩す。

 そこに追い付いた俺がハバキのひかがみに回し蹴りを叩き込み、ハバキは足を投げ出されて仰向けに転倒した。



「そうだそうだ! そもそもなんで俺やタマモだけ行動が制限されているんだ! 不公平だぞ!」


「お、お主らが秒速で迷子になるからだろう! すでに退魔神官の娘、グレイビアの王子、金色の竜は捕縛したぞ! 大人しくお縄につけ!」



 俺の主張に倒れながら頭だけを起こしたハバキが反論してくる。

 正論がやや耳に痛いが……、うっさいハバキは二人掛かりなら割りとどうとでもなるようだ。

 やはり主君に本気で切り掛かる訳ないしな。

 問題はハミル、フォルテ、マトイが捕まったという事だ。

 フォルテはともかく、ハミルやマトイの相手はハバキには無理だろう。

 敵勢力にラグナートやザガン、シトリーが参加していると見てまず間違いない。

 奴等がこんなイベント見逃すとは思えないし。


 俺とタマモは起き上がろうとするハバキを尻目に、すでに荒れ果てた居住区の道路を駆けてハバキを引き離していった。

 そしてやはりと言うべきか……

 その直線上には仁王立ちする男、ラグナートが待ち構えている。

 だが俺達は、ラグナートに向かって怯えず怯まず突き進んでいく。



「面白い余興だが……。ちょいとおいたが過ぎるなフレム……。アドラメレクをやった手腕、見せてもらうぞ!」



 そう言いながらも少し楽しそうな笑みを浮かべ、剣を抜き放つラグナート。

 こいつはセリオスと俺がアドラメレクを討伐したと聞いたとたん、スゲースゲーと目を輝かせていたからな……

 俺達と戦いたそうに最近ずっとウズウズしてたのは知っていた。

 走りながら俺はアガレスに手を掛け、ラグナートは俺達に向かい一歩踏み出す。


 互いの戦意がぶつかるその瞬間、突然頭まで地中に埋まるラグナート。

 これは無論俺の用意した落とし穴の一つだ。

 俺はアガレスを使い、あらかじめ落とし穴を作って隠れていたのである。

 一、二時間も隠れていたのだ。臆病な俺が何もしない訳がないだろう。

 気当たりを囮に落とし穴に誘い込む。

 これが俺の戦い方だ。俺に時間を与えるのが悪い。

 意外と単純なラグナートはこんな簡単な罠でもあっさり掛かってくれる。

 俺達は埋まっているラグナートを飛び越し、振り返る事もせず全速力で走り去った。



「ほほほ! 振り切ったぞ! ざまぁみやれハバキのやつめ!」


「よーし! もっかい隠れてマトイ達を救出。そんでこの国ともおさらば……んおあ!?」



 タマモと俺は笑いながら駆けていたのだが、突然網のようなもので吊り上げられ、二人仲良く密着して宙に浮いてしまう。

 下を向くと、建物の物陰に背を預けたセリオスが腕を組んで俺達に冷たい視線を向けている。



「投網だ。今朝使ったばかりの物を調達してきたからな。さぞ臭かろう……」



 冷やかな口調のセリオスさん。あちらも随分と手の込んだ罠を仕掛けていたようだ。

 セリオスはヌメっとした網の中でもがき苦しむ俺達を見て笑っていやがる。



「おいフレム! 生臭いぞこれ!」


「おのれセリオス! 地味な嫌がらせをぉ!」



 タマモと俺が臭いとヌメリで騒いでる中、さっき転ばせたハバキが俺達に視線を向けながらセリオスの元に近づいていく。

 その目は氷のように冷たい。凍えてしまいそうだ。



「主犯はうちのアホ姫だが……。フレム・アソルテが姫に拉致されたと聞いた段階で随分早く動いてくれたな……。この状況を予測していたのか?」


「巻き込まれてから主犯に成り代わるまでがフレムだ。フォルテ王子のように巻き込まれたまま終わる男ではない」



 主君に対して無礼千万言いたい放題のハバキに、これまた言いたい放題のセリオス。

 俺がフォルテを無理矢理共犯に仕立て上げた事まで看破しているとは……

 セリオス……、なんて恐ろしいヤツだ。

 だが左右の建物の間で宙吊りになっている俺に為す術はない。

 タマモは中々着痩せするようで、ゴッテゴテの分厚い衣装の下はマシュマロフルーツ盛り沢山のようだ。

 ふくよかな何かが色々当たって悪くない状況ではある。

 だがこの娘、宙吊りが楽しいのかケタケタ笑ってもう当てにならない。



「暇だよぉ! セリオス~。どっか遊び行こうよ~!」


「それも良いが……、先程調査班も帰還した。報告の後、最後の会議を済ませれば帰れるぞ」



 もうどうしようもないので泣き落としに入る俺。

 しかし、セリオスが言うにはもうすぐ帰れるようだ。

 もっと早く言って欲しかった……


 こってり叱られ、大量の罠の撤去作業をやらされる俺とタマモ。

 その後タマモはハバキに抱えられて撤収。

 俺はセリオスに首根っこを捕まれ、ザガン達の宿泊する宿に連れていかれた。

 そこでマトイから別動隊の詳細を聞いたのだが、やはりハミルはシトリー率いるハシルカに捕縛され、フォルテはイリスに怒られ籠絡したらしい。



「ごめんね……。私も抵抗したんだけど、ザガンが凄く手強くって……」


「口元の生クリームがなけりゃ信じたよ。ケーキとの奮戦は楽しかったか? ん? 俺の分はないのか?」



 最後まで奮戦したと言うマトイ。口の周りに生クリームをベットリと付け、その表情は幸せそのもの。

 此度の聖戦は負け戦、なのでもはや謝罪などどうでも良かったが、俺の分のスイーツが存在しないのが不服である。


 程なくして、俺達アーセルム組はセリオスの言い付けで宿の一室に集められた。

 といっても俺とアガレス、ザガンにシトリー、ラグナート、マトイだけだ。

 イリスは父親の監視下にいるので帰りも別になる。

 チノレとリノレはレイルハーティア教団庇護の元、今日も元気にお散歩と言う名目で街を練り歩き、現神として拝まれに行っているようだ。

 エトワールはロザリーを連れだって優雅にショッピングなのだそう。


 そしてまもなく帝国ホテルで会議が始まるらしいのだが、その前にセリオスが配布された資料を俺達に公開すると言い出した。

 その資料の内容は主にラグナート達の遠征先での惨状についてらしい。



「まずはベルゼーブ国境の町だが、調査隊によれば突然発生した地盤沈下が深刻な影響を及ぼしているようだ。岩盤は抉れ、整備もままならんらしい……。そう、まるで巨大なミミズでも通ったかのような……」


「さて、わたくしはお洗濯の途中だったので……、この辺りで失礼いたしますわね……」



 セリオスがベルゼーブ国境の被害状況を語り出したとたん、シトリーが目を泳がせ足早に部屋から立ち去ってしまった。

 これは十中八九シトリーの仕業だろう。



「続いて西の辺境では急激に大地が荒れ、山々が消し飛び、気候などにも影響を与えているらしい」


「そうだ、宿の食事は飽きたろう? 昼は我が作ろうではないか……。そういう訳で我は退席するぞ」


「おっとぉ。私も用事思い出したぁ……。味見役も必要だよね?」



 口元を引きつらせたセリオスの報告を聞き、ザガンとマトイがなに食わぬ顔で部屋から出ていく。

 土地を荒らし、山を消し飛ばしたのはこいつらだろうな。

 何やらかしてんの? 南の樹海に向かったんじゃなかったっけ?

 というかセリオスのヤツ予想してたよね? これただの確認だな。



「これは別の話になるが、リヴィアータ城に関してだ……。何故かこの二週間で建て直されているのだが……。内装は複雑化され、妙におどろおどろしいオブジェなどが立ち並ぶ非常に独創的な造りに変わっていると報告を受けた……」


「おお、苦労したんだぞ! 特に置物に関しては地下に置いてあった物などを流用してだな……」



 更に鼻筋までピクピクと引きつらせ始めたセリオスの報告に、アガレスは意気揚々と答えていった。

 修復途中で投げ出したのが気持ち悪いとかで勝手に直してたらしいのだが……

 城の内装なんぞ知るわけないので、アガレス好みに作り替えてしまったようなのだ。



「全員揃って暴れ過ぎだ……。状況が人知を逸している……、知らぬ存ぜぬを突き通すにも限度があるのだぞ……」


「待てよセリオス。ゼファーのヤツもベルゼーブの国境で大爆発起こしたし、城もメチャクチャにしたらしいじゃねぇか。アズデウス側も強くは出れないはずだぜ!」



 頭を抱えるセリオスにラグナートが悪い笑顔で横槍を入れた。

 どうやらごまかすよりも共犯者を増やそうという目論見らしい。

 こういう考え方を俺は幼少期にラグナートから教わったんだなぁ……



「確かに一理ある。では居住区の建物を笑いながら倒壊させていった者の雇い主として、グレイビア王国も巻き込もうか……」


「はは……。そう……だなぁ……。あ、そうだ~。洗濯物まだあったわ~。お~い、シトリー! 俺の羽織もついでに……」



 セリオスは怖い顔でラグナートを睨み付けたが、ラグナートは空笑いを作りながら椅子から立ち上がり、適当に理由を付けて出ていった。

 そう言えばさっきの荒地はラグナートが暴れた跡と聞いたな。

 結局部屋にはセリオスと俺の二人だけが残り、空虚な沈黙が続いた。

 アガレス? もう寝てるから数には入れない。



「だがまぁ……、六か国の協力により、死傷者自体は最小限に抑えられた事に違いないのだ……。大きな問題にはならんとは思うが……」


「最小限……か。そりゃそうだよな……」



 セリオスはごまかした言い方をしてはいるが、犠牲者はゼロじゃない。

 この国に来て俺が最初に争った奴らだって元人間だしな。

 俺が錯乱した時だってそう、セリオスは『殆どの兵士に息がある』と言った。

 全員生きているとは言ってないのだ。

 特に今回ゼラムル教団に使われていた信者達は全滅と言っていい程だったらしい。

 被害者数十人で済んでいる訳はないだろう。



「おまえが気に病む事ではない。……話は大体把握した。ここまでにしよう」



 少し気分が沈んでしまった俺を気にしてか、セリオスは確認作業を終わらせる。

 俺は暇なので、そのまま帝国ホテルの臨時会議室に向かうというセリオスに付いて行ったのだが……

 セリオスは何を思ったのかホテルに到着した直後、怪我人でもあるし、会議には参加しなくて良いから帰り支度でもしておけと追い返されてしまった。

 俺はハミルやシトリーの治療のお陰でもう割りと元気なんだけどな。

 むしろ元気過ぎて反逆したんだけどな……


 仕方ないので帝国ホテルのロビーに遊びに行くと、ハシルカ一同がテーブルを囲んで何やらお通夜のような雰囲気になっていた。

 シリル、ハミル、ルーアはソファーに腰掛けて項垂れ、カイラは椅子に座って不機嫌そうだ。

 床に伏せるワーズも元気がなく、テーブルに座るユガケなんか放心している。

 ガードランスは椅子に腰掛けて両手を膝に乗せててなんか可愛いが、表情が読めないので分からん。

 俺は様子が気になり、そのテーブルに近付き彼らに声を掛けることにした。



「どうした? 元気ないぞ少年達!」


「あ、おにーさん……」



 俺の呼び掛けに一際意気消沈しているハミルが反応する。

 話を聞くとシリルがパーティー解散を提案してきたと言うのだ。

 先程までカイラがシリルの胸ぐらに掴み掛かり、かなり険悪な雰囲気だったらしい。



「この一件で俺は自分の力の無さを痛感した……。今のままじゃ駄目なんだ。だから俺は、ゼファーさんの元で修行しようと思う……」


「ですからぁ! 私はブューケさんとは相性が悪いんですってぇ……。さっきちょっとボコボコにされたからってめげちゃダメですよ! シリルは強い子! 次はあんなにケチョンケチョンにはなりませんて! 次は私もメッタメタにされないように頑張りますので!」



 真剣な眼差しで語るシリルを励ますように、シリルの周囲を回りながら烈火の如く喋りまくるヴァルヴェール。

 どうやらさっきの聖戦にて、シトリー以外はハミルにボコボコのケチョンケチョンでメッタメタにやられたようだ。

 しかし修行だったらラグナートに付けてもらえば良いのに……

 と思ったが魔王ゼファーを名指しするくらいなのだ。何かしらの理由があるのだろう。



「違う……。それだけじゃないんだ……。いや、それも凄いショックだったけど……」



 シリルは腰にある剣の柄頭に手を起きつつ、宙に浮くヴァルヴェールを見つめる。

 口調も弱く涙目であるが、その瞳の奥には覚悟の光が見て取れた。



「解散っても少しの間シリルが抜けるだけなんだろう?」


「いや、ワーズにユガケも抜けるのだ……」



 なんとかこの暗い空気を変えようとする俺に、ルーアが更に重苦しい言い方で返してくる。

 ワーズはシリルと同様の理由、力不足を補う目的でゼファーの元に身を寄せるのだとか。



「チノレ殿が破壊竜を追い払った時から、己の不甲斐なさは感じていたのだ……。はっきり言って、我が一番役に立っていない……。ユガケに関しては個人の意思ではなくてだな……」


「その件はわらわから伝えようかの!」



 大分前から考えていたと口にするワーズ。

 皆がその悲観的な意見を否定する間もなく、タマモが俺の肩口からひょっこり顔を出して話に入り込んできた。



「なんでタマモがこんな所に? 今会議中じゃなかったっけ?」


「つまらんから抜け出して来たのじゃ! より正確に言えばコウメイのヤツに追い出された! ここで大人しく待っていろとな」



 俺は肩に顔を乗せるタマモに問い掛けたが……

 タマモは会議からは追い出されたとふんぞり返りながら笑いだした。

 嬉々として協力した俺が言うのもなんだが、この娘は監視付きで幽閉しといた方が良いと思うぞ。

 じっとしてる訳ないだろうに……



「大人しくしてるの苦手そうだしね……。ところでコウメイって誰だっけ?」


「ウチの家老じゃ。我が国の代表として主らの前に出たのは偽物じゃがな。ゼラムル教団の食糧庫に捕まっていたようじゃぞ?」



 俺が聞き覚えあるような名前を思い出そうとしているとタマモが教えてくれた。

 あれか? ハバキとミコトちゃんの側に居た偏屈そうな爺さんか……

 え? 偽物? うそマジ? じゃあの意地悪なじいさん誰だよ……。やだ怖い。


 お化けでも見たように戦々恐々としている俺に、タマモがテーブルに座っていたユガケの頭を掴んで突き出してくる。

 全てを諦めたような虚ろな目、ぷらんぷらんと胴体を揺らす姿はもはやただの人形である。



「話を戻そうか。このユガケじゃが……。なんべんも説明するのは億劫なのでかいつまむとじゃな……。自分の力を制御出来ておらんのじゃ。そこの娘が側にいるお陰で安定していたようじゃが……。それではいつまでたっても成長せん。八百万やおよろずの精霊ひしめく我が国にて、わらわが直々に鍛えてやろうと言う事なのじゃ!」



 タマモの話は難しいが、辛うじて理解は出来た。

 まずユガケは小動物から派生した霊体が精霊に進化した存在。

 だが本来年若い小動物が精霊に変わる事など有り得ないとも聞いている。

 つまり今まではハミルが側にいる事で活躍出来ていたが、ユガケ単体での能力使用は困難という話であろう。



「ハミュウェル様~! 必ず、必ずやこの性悪女の試練を乗り越え、成長してお守りに上がります~!」


「うん……。うん……。寂しくなるけど……。待ってるからね!」



 虚ろな表情だったユガケの目に生気が戻り、性悪女の手から逃れてハミルと再開を約束して熱い包容を交わす。

 一応タマモによる善意の協力のはずだが、えらい言われようである。



「俺達もそんなに長くはならないさ……。必ず……また皆で集まろう!」



 シリルの掛け声でテーブルを囲むハシルカ一同は視線を重ね合い、大きく頷いた。

 眩しくて良いねぇ。青春物語って感じで。

 そんな若い子達の友情を外野から眺めていた俺に、タマモがそっと耳打ちしてくる。



「時にフレム。ハミュウェルという娘……。とてつもなく数奇な運命を背負っておるやもしれんぞ……。これで少しでも役に立てば良いがの……。お主も良く見ておいてやれよ」


「ん? どうした急に? 何故俺に言うのだ?」



 いかんせんふざけた表情しか見せなかったタマモ。

 それが真剣に語りだした事に俺は違和感を覚えてしまう。

 ハミルがデタラメなのは今に始まった事ではないし、第一俺が何の役に立つと言うのか……

 タマモは胸元に輝く鏡を手に取りながら話を続けた。



「お主の愛人じゃろう? あの時わらわとフォルテにのみ見えたあの娘の特異性。ひょっとしたら、フィルセリアの法王辺りが何か隠しているのやもしれんのぅ……」



 目を伏せ、指を口元に持って来て考え込む姿だけを見るととても美人に見えるタマモ。

 どこから突っ込んで良いか分からないが、また不穏な事を言う。

 ハミルならどんな危難が降り注ごうと、全部まとめて粉砕しそうな気はする。

 それでも砂時計一つで一喜一憂する素直な子だ。

 あの時がどの時か知らないが、一応気に止めて置くべきだろうな。

 俺はそう心に留め、ニタニタして応答を待つタマモをそっと視界の外に追いやった。

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