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百話  カオスブレード

 偉そうな椅子が鎮座する豪華な広い部屋は、すでに床も壁もボロボロだ。

 ここが日々ゴルギアートがふんぞり返る玉座の間なのだろうが、何で俺はこんな所で危ない目に遭っているのか。



「時にセリオス。ゴルギアート達はどこだ? 無事なんだろうな」


「おそらく、としか言えんが……。信じるしかあるまい。しかしこの状況で他者の心配とはな……。心強いぞフレムよ」



 俺は会議を行っていたはずなのに他の連中が居ない事が気になっていた。

 一瞬この大きな蛇に飲まれたのかと焦りを感じたが、セリオスの言い回しだと多分はぐれたのだろう。

 この非常時に迷子とは、まったく情けない連中である。



「よく見たらザガンの顔の方が怖いしな。所詮は先兵、大樹の魔神や破壊竜に比べたらねぇ……。おっきなヴァルヴェールにしか見えないや」


「ふむ……。先程ガデスの名が出たのは気になるが……。まずは悟られる前に、思い違いをしている間にこの場を片付けるのが先決か……」



 ははんと笑い余裕を見せる俺に何故か不思議そうなセリオス。

 何やらブツブツと思案していたようだが、考えはまとまったようだ。

 本気のセリオスが居るなら、見た目おっきな黒い大蛇程度に怖じける俺ではない。



「破壊竜をそいつが? くだらんハッタリだな。あの場にはラグナートが居たのだ。ゼラムルが消されたとて不思議はない。そんな事より……、想定より早く幻糸傀儡を破ってくれたな。もはやお前にこの手は通じんか……。だが、今戦場に来たそいつは……、果たして私と張り合えるかな!」



 黒蛇さんはセリオスの話を信じておらず、あまり俺を警戒していないようだ。

 俺が一安心したのも束の間。

 黒蛇の身体が一気に収縮し、黒い着物姿の若者へと転じた。

 その若い男は笑みを浮かべ、左手をこちらにかざす。

 すると俺達の目の前に魔法陣が現れ光を帯びる。



「すぐに済む。お前はこいつの相手をしていろ。《ラピスゴーレム》!」



 若い男が言葉を紡ぐと、魔法陣から二メートル程の石人形が精製されセリオスに向かい拳を振るう。

 咄嗟にセリオスは距離を取り、若い男は手にした刀で俺に襲い掛かる。

 見た目や型から見て、ハバキと同じくジュホン帝国式の剣術。

 ハバキ以上の速度、達人と呼べる程の技を持って脇構えから放たれた斬撃。

 それを俺はクリムゾンシアーで何とか受け止める。



「ほう、足掻くな……。だが時間が惜しい。お前には即座に死んでもらう」


「変身した!? このにーちゃん発言がいちいち怖いぞ!」



 怖い事を言いながら笑う変身野郎の猛攻を、俺は慌てなからも全てギリギリで受け流していく。

 後退りしながら辿々しく防いでいた俺を見て、変身野郎は徐々にその表情から笑みを消していった。



「貴様……。何故敵意や攻撃性がないのだ? 戦う気がないのか?」


「いやいや、全力で戦ってるじゃん!? 何言ってんのこの人!?」



 黒いにーちゃんが訝しげな表情で訳の分からない事を言い始めるが、俺は初手から全力なのである。

 確かに変身したり魔術使われたりで動揺はしているけども。

 だが何故か相手も動揺しているようだ。太刀筋も一回しか見てないがハバキのものと酷似している。

 捌き受けるのも慣れてきた。これなら、なんとか押し切れそうだ!



「な……に……。追い付いて来ている? いや、これ……は……」


「そっちこそ、油断し過ぎじゃないのか!」



 攻めていたはずの黒いにーちゃんは、いつの間にか攻防が入れ替わった事により困惑した様子を見せる。

 相手を逆に追い込んだ事で俺は調子に乗り、今度はこっちから挑発を投げ掛けた。

 俺は勢いのまま黒いにーちゃんの胸元を大きく切り裂く。

 傷口に目を向けた黒いにーちゃんはそれ以上の攻勢には出ず大きく後退した。

 横目で見ると、セリオスに差し向けられた石人形もすでに砂になっている。

 当然だな。あんな玩具でセリオスを止められる訳がないのだ。



「制御呪印を削られたなら、機能停止するのみでそうはなるまい。起点となるコアを的確に貫いたとしか思えぬ。手を抜いていたとはなセリオスよ……。しかしそれは問題ではない。こいつは何者だ……。私の技を……真似た上で越えてきた。しかも、全く行動が読めん!」


「一度見せた技はフレムには通じんよ。何故理解しようとしなかった……。ラグナート殿が自ら、クリムゾンシアーを与えた男だぞ?」



 黒いにーちゃんは砂と化した石人形に着目するも、すぐに話題を俺に移す。

 その驚く姿が楽しいのか、なぜかセリオスはドヤ顔で自慢し始めた。

 自身の話をされるのは凄く恥ずかしい。身内の賛辞がこんなに恥ずかしいとはな……

 そんな事よりキミ達こっちよく見て?

 息も絶え絶えな俺がいるよ? 過剰評価よくない。

 なんだかんだで肩とかかすって痛いんだぜ?



「精神波動も読み取れぬ。こいつがお前の切り札か……。理解したよ。まずはこいつを殺さねば話が進まんという事にな!」


「いや、たまたまですよ? ほら、一度見たハバキくんのね? 回って攻撃するのに似てたからね? とりあえずね、落ち着こうかおまえら」



 黒いお兄さんは怖い事を言いながらまたも姿を変えていく。

 俺がやや強い口調で嗜めるも聞いてもらえない。

 今度は二本角の生えた三メートル程の半裸巨人だ。

 これが噂に聞く鬼いさんというヤツだろう。

 それはともかく、俺の話を聞いてくれ。



「そう、ジュホンの剣術は円運動を機転としている流派が多いようだ。さすがはフレム、我が切り札よ」


「あんたはちょっと黙ってなさい!」



 セリオスはどんどん俺を焚き付けて来る。さすがに声を荒げてしまったが、俺を囮にでもする気か?

 そうこう言っているうちに半裸のマッチョが拳を引き、俺に凄い勢いで殴り掛かって来た。



「私が居る事を忘れるな!」



 セリオスが一声し、俺と鬼いさんの間に割り込み剣を振るう。

 だが鬼いさんはその剣を、事も無げに片手で掴んでしまった。



「お前にしては悪手だな。決着を急いだか?」


「それはどうかな?」



 鬼いさんは即座にもう片方の拳を握り、反撃に転じようとする。

 が、セリオスは鬼いさんの言葉に薄く笑って返し、上半身を右側にずらした。

 そう、良く分かっているのだセリオスは。


 一歩踏み込んだ俺が、クリムゾンシアーをセリオスの持つグランフォウルの刀身に叩き付ける。

 その瞬間グランフォウルが鬼いさんの指を切り飛ばし、そのまま鬼いさんの胸に深く傷跡を残した。



「ぐぬぅ! おのれ!」



 怯んだ鬼いさんの隙を突き、俺とセリオスは同時に剣を斬り上げる。

 太ももから肩まで大きく二本の切り口を刻み付けた後、鬼いさんの咆哮と共に俺達は距離を取った。



「セリオス。こいつ妙だぞ。手応えはあったのに……」


「気付いたか。そうだ、先程からアドラメレクを構成する魔力の絶対量が減っておらん。確実に削っているにもかかわらず……だ」



 俺とセリオスは間違いなく、このアドラメレクという魔神の魔力を削り取り消失させた。

 なのにその身は即座に修復され、補填されるように感じる魔力にも変化がない。

 その特異性に頭を悩ませていると突如、アドラメレクの口元に魔法陣が浮かび上がる。

 その中心に光が集約され、小さな球体が輝度を高めた。

 そしてそれは……、明らかに俺を狙ってるぞおい!



「やっば!」



 危機を察した俺は即座に頭から横っ飛びを決めた。

 俺の横を通り過ぎた閃光は音もなく壁を貫き、半開きの鉄の扉に大きな穴が穿たれる。

 まずいぞ、放たれてからじゃ絶対避けられないヤツだ。



「危機感知も並みではないな。よく避けられたものよ」



 怖い鬼いさん……。もとい、アドラメレクは誉めてくれたようだがギリギリである。

 そう何度も避けられるもんじゃない。

 俺は片手を床に付いて腰が抜けそうになっていた。

 防衛機能に乏しいクリムゾンシアーでどう対抗するかと悩んでいたが……



「フレム! あれは私が防ぐ!」


「……来るな!」



 駆け寄ろうとするセリオスを制止し、立ち上がった俺はクリムゾンシアーを背後の床に刺した。

 そして丸腰のまま右手を開いてアドラメレクに向ける。

 もちろん諦めたわけではない。自分で言うのもなんだが、これほど自信に溢れている時も珍しい。



「クリムゾンシアーを手放し、人間ごときが……。生身で防げると思っているのか? それとも、その胸元にある魔道具に何か特殊な力でもあると?」



 アドラメレクは少し警戒を見せるが、俺の胸元に隠れたネックレス、魔力回路も大した魔力を保有してはいない。

 多少の緩衝材にはなりえるが、どう考えても防ぎようがないのだ。

 それを看破したらしく、再び口元に光を集め始めた。

 先程よりも一回り大きな光球が俺に狙いを定める。



「来い!」


「望み通り……、死ねぇ!」



 手の平を突き出し呼び掛ける俺に向かい、アドラメレクの閃光が放たれた。

 それは突如俺の眼前に現れた結界で遮られる。

 結界は呆気なく弾けたが、光球は散り散りに俺を避けるように背後に流れていった。



「おはよう。寝坊だぞ」


「うむ、起きたら誰も居ないから慌てたぞ」



 俺は軽い口調で挨拶をし、目の前に浮く黒い剣を手に取る。

 同じく軽く応えてくれた魔剣で軽く素振りをした。

 今更言うまでもないな……。帝国ホテルで爆睡していたアガレスである。

 さっき床に手を付いた際、アガレスの気配が真下まで来ている事に気付いたのだ。

 どうやら一人取り残された事に気付き、俺の気配を追って来てくれたようだな。



「なんだ……、それは……。空間が……歪曲しただと?」


「それって言うな失礼な。魔剣アガレス、俺の相棒だ!」



 アドラメレクはアガレスの超性能を見て呆気に取られているようだ。

 なので俺は自信満々に啖呵を切った。やはりしっくり来る。こうでなくてはな。

 俺が何もしなくても、アガレスならきっと何とかしてくれる。

 これなら多少余裕を見せても大丈夫そうだ。

 俺はこの安心感を共有しようとセリオスに視線を移したのだが、セリオスはなんだか伏し目がちに悲しんでいるようであった。

 なんとなく察しは付いたが……



「俺の相棒であるアガレス。そして、俺の親友であるセリオスがいる限り、俺達の勝利は揺るがない!」


「……ふふ、その通りだフレム。見せてやろう、我等の力を!」



 魔剣を目の前で水平にかざした俺の芝居がかった大袈裟発言を受け、思った通りセリオスはしたり顔で瞬時に復活してくれた。

 面倒な彼氏彼女かコイツは……



「アガレス? アーセルムに現れたという、かつての我が配下の名を語る三魔神の一体か……。忌々しい名だ……。だがそうも言ってられんな。結界らしきものを破った際、光球が空間を避けるように移動した。その剣は空間そのものに干渉しているようだな。私の知る限り、そんな異常能力を持つ神器や魔導器は存在しない」



 同名の魔神を知ってるような口振りのアドラメレク。

 こんな奴の配下なんて完全に他魔神であるが、アガレスがそんな能力を持ってたなんて驚きだ。

 これはいよいよ負ける要素が無くなってきたな。


 しかし何を思ったのかアドラメレクは自らの身体に手を突き入れ、取り出した黒い杖を天高く放り投げた。

 黒い杖を中心に天井が吹き飛び、俺とセリオスの視界に大空が広がる。

 そこに巨大かつ複雑な魔法陣が敷かれ、その中心に光が収束していく。



「なんだあれ!? やばくない!? 眩しいぞ!」


「なんという魔力……。何をするつもりだ!」


「特殊な媒介を用いた魔術、『閃光を纏う者』の力を模した一撃よ。天使指令が使えなくなるのは痛いがやむを得ん。その剣は危険過ぎる……」



 俺とセリオスはその力の強大さを理解し恐れを口にする。

 アドラメレクの言う『閃光を纏う者』とは、確かリリスのさんの言っていた第二級天使の一角。

 考えるまでもなく、四級天使兵器の主砲を越える威力があるはずだ。



「交渉だ。術式が完成すればこの都市に住む全ての人間を一瞬で撃ち殺せる。その三本の剣を捨てて降伏しろ。そうすれば少なくとも、お前達の命だけは保証しておいてやる」



 とんでもない事を言い出したアドラメレク。交渉という名の脅迫である。

 それが事実だとして、つまりは俺達以外の命は保証しないという事だな。

 さすがに飲めないだろうそれ。こうなれば仕方ない……



「アガレス、アレをやるぞ!」


「なに!? アレはまだ試作段階だろう! 危険過ぎる!」



 俺は意味深に作戦を提示し、アガレスを逆手に持って床に突き刺した。

 アガレスの警告を振り切り、その準備に取り掛かる。



「今やらずに……いつやるんだ! うおぉぉぉぉ! 『オウガシフト』!」



 俺の咆哮と共に、砕けた周囲の床が塵となって俺の足元から身体中を覆い、漆黒の鎧が形成される。

 全身を余すことなく覆い尽くす鎧。肩口辺りから背後に瘴気が吹き出し、さながらマントのようになびいていた。



「フ、フレム……。その姿は……」



 言い淀むセリオスも興奮しているようだな。

 それはそうだろう。俺は今、とてつもなくカッコ良いのだ。

 何せ俺成分は微塵も外に洩れていない。完全フルメタルな黒騎士なのだからな!



「愚かな……、抗うか!」



 アドラメレクが口元から放った光球を、これでもかというほどの瘴気を撒き散らした結界で受け止め、剣で払ってかき消してやった。

 そして再度剣を床に突き刺し、柄頭の上に両手を添える。

 うん、カッコ良い。俺はなんてカッコ良いんだ……

 変身ポーズから掛け声まで、何度も練習したかいがあったというものである。

 アガレスの放った瘴気が晴れ、マントをなびかせながら現れた黒騎士を睨み付けるアドラメレク。



「おのれ……、おのれぇ! させぬ……、させぬぞぉ!」



 両手を突き出したアドラメレクは狂ったように、その前に現れた魔法陣から光の矢を黒騎士に向かって絶え間なく放つ。

 黒騎士は微動だにせず、前方に配置した結界で光の矢を防いでいる。

 が、結界は徐々に軋み、ヒビが入り始めていた。



「フレム!? どうしたというのだ! 何か策があったのではないのか!? このままでは……」



 セリオスは顔を腕で防護し、衝撃による余波の風圧に耐えている。

 防戦一方の黒騎士を見つめるセリオスは、続いてアドラメレクに視線を移すと眉を潜め数秒間停止した。



「フレムよ……。奴の魔力は想定以上だ……。この消耗戦、分が悪いぞ!」



 視線を黒騎士に戻したセリオスの言葉を聞き、口角を上げるアドラメレク。

 どうやら俺の作戦に気付いたようだな。



「空に配置した魔術式、それを維持出来ぬ程の魔力消費を狙っていたのだろうが、生憎余力は十分にある。無謀な賭けだったな! これで、とどめだぁぁ!」



 作戦を看破したと言いたげなアドラメレクは、一際大きな光りの矢を放つ。

 その矢は結界を貫通し、黒騎士の腹部を丸ごと削り取った。



「フレムーーー!」


「ハハハハ! やったぞ! 人間風情が調子に乗るから……」



 叫ぶセリオス、笑うアドラメレクを尻目に……

 刺さっていたアガレスが地面に倒れ、渇いた音を立てて転がる黒騎士の体。

 その内部は空洞だ。



「なんだと!? 奴は、あのふざけた男はどこだ!」



 見るからに困惑するアドラメレク。確かに俺は鎧を纏ったはずである。

 中身がないなど想定しているはずがない。



「クリムゾンシアーが……消えているだと!?」



 ここでアドラメレクは、黒騎士の背後にあったはずの紅剣が消えている事に気付いたようだ。

 即座に上空を見上げるアドラメレク。

 不自然に配置された石階段の先、上空にある巨大な光の球体に剣を突き入れていた俺と、アドラメレクの視線がぶつかる。



「ありゃ、バレた?」


「き……さま……。ふ……ざけ……おって……。あの鎧はなんのために!」



 楽しかったが、作戦がバレたので呑気に見学はしてられない。

 激怒寸前のアドラメレクが動く前に、俺は突き入れたクリムゾンシアーから生命波動を噴出させ、魔法陣ごと球体を内部から豪快に吹き飛ばした。

 粉々になった黒い杖の残骸が瘴気を撒きながら消え落ちていく。

 アガレスが床から抜けた事で不安定になった階段も崩れ始めた。

 その階段から飛び降り、俺は膝を折って着地する。



「あんな重いもん着て……、動けるかぁぁぁぁ!」



 俺は屈んだ状態から叫びながらアドラメレクに突進し、腕に豪快な一太刀を入れる。

 そして足早にセリオスの元へと逃げて帰った。



「ぷぁ~、怖かった~」


「笑いを堪えるのに苦労したぞ。笑顔で手を振るんじゃない。しかしよく思い付いたな」



 冷や汗を拭う俺にセリオスは腕を組みながらぼやきかける。

 ごめんなセリオス。あまりにも下にいたおっさんが楽しそうだからつい……



「いや~、アイツがロザリーを助けたのは俺だと勘違いしてたからさ……。この剣で魔術式自体をなんとか出来るんじゃないかなって……」



 つまりは生命波動を操って魔力そのものを消し飛ばすやり方だな。

 まあ、今回は精密操作なんか関係なく内側から吹き飛ばしただけだが。



「だからアガレスに頼んで瘴気に隠れて抜け出して、階段もこさえてもらったんだが……。ドキドキしたな、やるんじゃなかった怖かった……」


「ここまで……、ここまでコケにされたのは初めてだ……。もはや容赦はせん……」



 俺の奇策にアドラメレクは相当お怒りのご様子だ。

 プルプル震えながらなにやらブツブツと低く呟いている。

 その呟きに呼応するように床まで盛大に揺れ始めた。



「アガレス! こんな時に寝るな!」


「起きてるぞ! 失敬な!」


「この地響きは城だ! アドラメレクめ! リヴィアータ城を崩壊させるつもりか!?」



 いきなり地鳴りがするからアガレスが寝たのかと思ったら違うらしい。

 セリオスの考えでは、アドラメレクがこの城を崩そうとしているようだ。



「推察通りだ。セリオス、生きていればお前にはヴァンパイアシードを与えてやる。生きていれば……な」



 何故かアドラメレクはセリオスに固執しているみたいだな。

 吸血鬼セリオスとかどんな最強存在だ? とか言ってる場合じゃない。

 このままでは城内に残ってるかもしれないエトワール達が危ない。

 そして当然俺も死ぬ。



「くそっ! アガレス! 頼む!」


「任せろ!」



 俺は転がっているアガレスを拾い上げ、非常に嫌々ながら床に突き刺した。

 無論この城に干渉して崩落を止めてもらうためだ。

 狙い通り揺れも地鳴りもすぐに収まったが、これではアガレスの助けが借りられない。

 俺の自信と余裕はここまでである。



「止めただと……。次から次へと……、なんなのだお前達は!」


「う~む……、城内にこいつの瘴気が充満していて修復しづらいな……」



 あらゆる手段に対策を取られ、苛立つように文句を言うおっさんはシカトだ。

 アガレスの愚痴を聞いた俺とセリオスは顔を見合わせ、共に大きく頷いた。



「よし、その瘴気、全部ここに集めてくれ!」


「お安いご用だ」



 俺の言葉に応えたアガレスにより、アドラメレクが根のように逃がしていた瘴気は玉座の間へと収束された。

 膨大な瘴気が床から滲み出し、アドラメレクと一体化していく。

 ようするに今まで戦っていたアドラメレクは、やられても良いだけの魔力を具現化させた人形のようなものだったのだろう。



「ようやく本体が姿を現した……、と言ったところだな……」


「待ちたまえ。なんだこの魔力は……」



 してやったりの表情を浮かべるセリオスだが、俺にそんな余裕はなかった。

 魔力ってこう、心のモヤモヤが肌にピリピリってくる感じだと最近分かってきたのだが……

 ありゃヤバい。さっきの数倍のモヤピリじゃないかね?

 姿は変わらないけど明らかに別物だぞ……

 何かがおかしい。俺はひょっとして……、何かとんでもないのと戦わされてるんじゃなかろうか……

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