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15話 神狼戦闘団
第一次南方諸国戦争終結から数週間後
サウス王国に新たな騎士団が誕生した。
それはサウナ王国一の英傑アーミラ・ニケ・サウス第一王女の新たな直属の騎士団の誕生である。
最初の頃は反発も多数あったが、一年が経った現在はその声は(表向きは)聞こえなくなった。
この一年の間に数多の武功を立てた神狼騎士団(元人狼傭兵団)は、サウス王国の代表的な騎士団の一つに数えられるまでになった。
更に活躍はそれだけに留まらず、開発面でも大きな貢献をした。
魔砲を大幅に改修して、何とC級の魔道騎士には通用する様になった。
魔道騎士には等級がありS〜Dまであり、C級は騎士団の大半の者が乗っている機体である。
これにより、サウス王国の優位性はグンッと上がり戦いを優位に進めた。
そう、南方諸国は対帝国に手を取り合ってはいたが、いなくなれば前と同じように南方諸国同士で争いが再発したのである。
僅か一年の間でサウス王国は、近隣諸国2カ国を併呑して領土を広げた。
この間に帝国は手を出してくる事は無く、静観を決めている。
まあ、諜報員などは紛れ込んでいるだろうが軍事的には事を起こす事が出来ないのであろう。
何せ未だに帝国vs王国の戦争は終結するどころか、拡大して全面戦争に突入しているのだから。
なのでこの間にサウス王国は力を付ける事にしたのである。
王国に近い南方諸国の国々へは王国から、同盟の打診などもあったようである。
国力の差では帝国は圧倒的に王国を上回っているが、その分広大な領土を持つ帝国は守るべき場所が多く、あまり王国に多くのリソースを割けないのである。
現に北方にある国々が最近対帝国に動き出そうとしている。と正反対の場所に位置する南方諸国にまで、そんな噂が流れてくるしまつである。
帝国は圧倒的な武力を背景に、周辺諸国を併呑して行った。
その過程で憎しみも生まれたのである。
帝国はその憎しみなどに対処するよりも、領土の拡張を第一に考えて行動した為に、それらを鑑みなかった。
だが、それも帝国が健全な場合は良かったが、帝国が苦境に立たされた場合は反旗を翻すだろう。
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レンがサウス王国で成し遂げた中でも、特にこの国に貢献したのは新たな移動手段と、新たな魔道騎士の製造方法である。
これまでの魔道騎士の製造方法は主に二つであり、二つとも多額の予算を掛けるのは変わりないが、二つのうち一つは運によるところが大きい。
それは古代遺跡からの発掘である。
なので見つかる可能性は低く、見つかったとしても性能の低い魔道騎士の場合が多いが、中には現在の技術では到底作る事が出来ないS級の魔道騎士が、発掘される事も100年前後である。
もう一つの方法は、野生のゴーレムを倒してその素材で作り出す人工のゴーレムが魔道騎士の素体である。
人工のゴーレムに外骨格やコックピットを備え付けていき、出来上がるのが魔道騎士である。
そしてレンが新たに作った魔道騎士は、ゴーレムを必要としない新たな製造方法で、必要な素材は魔獣である。
勿論魔獣の種類によって出来上がる魔道騎士の性能は変わるが、これまではただ単に人類にとって邪魔者以外の何物でもなく、あまつさえ魔道騎士に損害を与えるだけだった魔獣が、魔道騎士には転換出来るとなれば話は変わる。
これまでも魔獣から取れる素材で、薬の材料や防具などの材料にはなっていたが、殆どが棄てるしか無いものばかりであったが、これからは違う。
殆ど素材を余らせず使い切れるのである。
これによりサウス王国の財政負担は軽減され、尚且つ魔道騎士の所有機数も大幅に増大し、新たに騎士団が生まれたり規模を増設出来た。
そしてもう一つが新たな移動手段の確立である。
これまでの移動手段は馬型のゴーレムが引く馬車と普通の馬などであった。
それに変わる新たな移動手段としてレンは魔道車を開発した。
これにより兵員輸送や兵糧などの兵站がだいぶ楽になり、容易に遠征が出来る土台が出来上がる。
まだそれほど数は無いので今は一部の部隊だけにしか行き渡って居ないが、今後は量産体制も整い数は増えていき全軍に配備される予定だ。
だが、今しばらくはゴーレム馬車を運用するだろう。いや、例え魔動車が一般的になったとしても規模は小さくなるがゴーレム馬車も運用されるだろう。
コストの面から言えばゴーレム馬車の方が安いからだ。
積載量や走行速度の面では魔動車が上回るだろうが、積載量にしてもゴーレム馬の数を増やせば良いだけである。
それに鉱山などではまだまだ需要はあるだろう。
狭い坑道内は魔動車には不向きであるからだ。
更に密かに弓や連弩に変わる新たな遠距離兵器として魔銃の開発にも着手している。
因みに空中戦艦などはまだ披露して居なく、探求者の塔にとっくに返している。
軍事以外にも農業関連にも手を加えている。
此方は軍事程では無く、軽く手を加えただけである。
例えばこの世界の作物を育てる時に肥料という概念がなかったのである。
これには驚いたが元々オリジンは肥沃な大地であった為か、これまで特に問題視はされていなかったが、今までの収穫量などを見てみると年々過少傾向にある事が判明した。
なので肥料と言う概念を教えてそれ以外にも、ローテーションさせて大地を休ませる方法や収穫などに便利な道具類を作成した。
これにより従来の数倍の収穫量が見込める様になり、戦時にも関わらず前よりも贅沢な食事が送れる様になりレンの評価は高まっていった。
■
-オリジール砦-
神狼騎士団の王都近郊の砦
レンはこの一年の間に武功やそれ以外の功績も積み重ねて、今では子爵の位と領地を所有している。
最初のうちは領地は要らなかったのだが、好きにして良いと言われたので、趣味の工房を大規模に作り暇な時は領地の工房に篭って作業に明け暮れた。
領地の経営は優秀な部下に任せて(レンのサインが必要な物はちゃんとしている)悠々自適な生活を送れている。
王都に来た時は王都近郊にあった古い砦を改築して、神狼戦闘団の駐屯地兼レンの工房として活用している。
レンが工房で好きな物を作っていると、部下の一人がやって来た。
「……ちょ……!」
「だ…………う!」
「団長!!」
呼ばれて振り返ると、呆れた顔をした部下の一人が立って居た。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃ!ありませんよ!何回呼ばせる気ですか?相変わらず物作りに入ると熱中して、周りが見えなくなる癖やめた方が良いですよ?」
「わかった。気をつけるとするよ。で?態々説教しに来たのでは無いのだろう?」
レンがそう言うと「そうでした」と部下の男は言い用件を伝える。
「王城よりディアドコス戦闘団長閣下に召喚状が来ました」
「なるほど……了解した。すぐに向かうと伝えてくれ」
「はっ!了解しました!」
敬礼して去って行く。
レンは道具類を片付けた後、作業ツナギ姿から礼服に着替える。
(それにしても王城からの呼び出しか)
レンとアーミラが交わした契約は遵守されており、レンの率いる神狼戦闘団(人狼傭兵団だと外聞が悪いとの事で人狼から神狼へと改名された。
元々人狼はレンが付けたのでは無く、自然と二つ名としてレン達の傭兵団に付けられた異名だ。
由来はレンの機体の頭部が狼に似ている事と、所属する傭兵団のエンブレムが偶々狼であったことからだ。
サウス王国側は狼から変えるのは流石に反発を招くと思い、サウス王国の神柱の一柱に数えられる神狼と変えてくれないか?と打診して来た。
サウス王国側としては大分譲歩した提案であった。何せ自分達の祈る神々の一柱の名を冠する騎士団をそれも外様に与えるのであるからだ。
レンは別に拘りは特になかったので(古参のメンバーはなかったが新入りなどは狼に拘った)神狼に改名した。
そして発足したのがサウス王国でも最精鋭となる神狼騎士団である。
神狼騎士団は他の騎士団と違い、独自に兵士を保有する騎士団である。
なのでいつしか騎士団では無く、戦闘団と呼ばれる新たな組織体系に変わって居た。
何せ普通のこの世界の一般常識に当てはめた騎士団の構成は、魔道騎士を操る操騎士ー整備士だけである。
まあ、中には独自の斥候部隊を持つ騎士団も居るが基本的には操騎士と整備士のみである。
だが、レン率いる神狼戦闘団は操騎士と整備士の他にも、歩兵部隊ー騎兵部隊ー兵糧部隊ー偵察部隊ー諜報部隊ー軍略隊ー魔砲兵部隊と多岐に渡る。
勿論歩兵や魔砲兵、兵糧部隊は馬車での移動では無く、新たに開発された魔動車に乗る機械化部隊である。
そして、武器も魔銃を一部の部隊には割り当てている。
軍略隊は主に神狼戦闘団の戦闘プランや必要な物資の輸送などを請け負う部隊である。
なので他の騎士団よりも圧倒的に規模が大きい組織である。
騎士団と軍隊を混ぜた様な構成である。
レンからしてみれば、兵科の違いぐらいの認識であり、一々別組織に分かれているのは非常に非効率極まり無い。と思っている。
一々動かすのに上が仲介しなければならず、それに対して書類を作成して提出ー受理と無駄なプロセスが多いと思ったのである。
なのでレンにしてはそれを至極簡単にしただけだが、他の者から見た場合は違って見える様である。
まあ、そこら辺は色々伝統など面倒なしがらみもありそうなので、レンとしてはそこにメスを切り込むつもりは無い。
ただ自分の身の回りの安全性を高める事に尽力した結果だ。
「到着しました」と運転手の声が聞こえて考え事を中断して、意識を向けると魔動車は王城の城門前に到着していた。
魔動車から降りるとそのまま城門に向かう。
魔動車は運転手が専用の駐車場に停めに向かう。
門番に用件を伝えると、話が伝わっていたのかすぐに中に通された。
王城からの呼び出しは珍しくは無いが、主な理由は勲章や感状などの前もっての相談などが、主な理由である。
今回は特段何かした覚えが無いので疑問に思ったが、行けばわかるかと思っていた。
そして案内されたのは重要な話し合いをする会議室である。
此処では国家戦略を話し合ったりもする為、非常に重要度の高い場所であり、主に敵国に対しての侵攻案や防衛案などを話し合う時に使う場所である。
気を引き締めて中に入ると、其処には普段から厳しい顔を更に険しくした軍将校や、騎士団長にこの国の国王や宰相に各大臣や官僚が揃い踏みであった。
(はぁ〜。これはかなりの厄介ごとだな。断る事は出来るがそれもまた、面倒な事を引き起こすだろうな。ん?そう言えばアーミラ様が居ないな?)
憂鬱な気持ちになるが、覚悟を決めてレンは自分の席に座る。