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最近は寒い日が続きますね。
皆様も体調管理には気をつけてください。
第14話 勧誘
報酬を受け取り、後は撤収するだけとなった人狼傭兵団に声が掛かった。
「待ってくれないか?」
後ろを振り返ると其処には、姫騎士ことアーミラ・ニケ・サウスとその部下の戦乙女騎士団員がいた。
「これはアーミラ王女殿下」素早く片膝をつき頭を下げる。
「そこまでかたくならなくても良い。立ちたまえ」
アーミラに促されてレンは立ち上がる。
「それで如何様でしょうか?既に報酬も頂いておりますし、契約は満了した筈ですが?」
レンは言外に“ちゃんと仕事はしたよ?報酬も貰ったしさっさと帰りたいんだけど。何か不満でもあるの?”と意思表示した。
「ああ、それはわかっている。特に不満などは無いよ。私が言いたいのは良ければ我が国に仕えて見ないか?いや……少し違うな。私に仕えて見ないか?」
こう言った勧誘は有名になってから増えたな。
だが、何処も此方を軽蔑している感じがしたな。
地位もただの下級騎士であったしな。
返事が無いことに不安を覚えたのかアーミラは言葉を付け足す。
「君達傭兵団の団員には騎士の位を勿論授ける事を約束する。それに団長のレン・ディアドコス殿には騎士団長になって貰う。爵位はそうだな……男爵が適当だろう。それ以上の地位には我が国に貢献して貰わなければ難しいな」
(ほう。今までの何処の国の勧誘よりも条件が良いな。それにアーミラ王女には俺たちを蔑む感情は感じられないな。いつかは何処かで根を下ろさなければならないと考えていた事だしな。流石にあの辺境伯のいた王国は嫌だったしな。ここらで落ち着くのもありか?)
「大変有難い申し出であります。少しばかり団員と相談してもよろしいでしょうか?」
「ああ、勿論だとも」
好感触を感じたのかアーミラは笑顔で了承してくれる。
「では、暫し御免」
一礼してから団員達の元へ行き、全団員を集める。
こうやって全団員が集められる事は稀なので、困惑気味な者もいる。
そこへレンと人狼傭兵団の幹部がやって来ると敬礼する。
人狼傭兵団は他の傭兵団よりも、いや他国の正規軍の中にいる精鋭部隊並みに規律が取れた部隊である。
入団後は徹底的に走らせたりして、体力の向上に励まされる。無論そこでふるいにかけるのである。
勿論体力に自信が無くても知力に自信があれば、知識面のテストを受けさせられてそれに合格すれば、見事団員として迎えられる。
後は何か特殊な技能などを持っている場合も考慮される。
普通の軍に入るよりも厳しく、操騎士にもなると難易度は最も高くなる。
普通の騎士団よりも余程厳しく甘い気持ちで試験を受けたら後悔するだろう。
「皆良く集まってくれた。これから話すことは今後の我々人狼傭兵団の行く末に関わることだ。なので全員で話し合って決めたいと思う。話の結果団を抜けたとしても文句は言わん。これまでの働きを考慮して退団金を見舞うのを約束しよう」
そこまで話してから一旦団員を見回す。
皆真剣に話を聞きいっている。
普段はおちゃらけた態度の者もだ。
「先程雇い主であったサウス王国のアーミラ王女殿下からお声掛け下さった」そこまで言うと、何人かの団員の顔に理解の色が浮かぶ。
だが、前にも勧誘があったがその時はこのように全団員を集めてでは無く、幹部達だけで話し合ったと記憶していた。
それもその筈で、前の時は此方を都合のいい使い捨ての駒にしようする。その様な思惑が透けて見えていたからだ。
そしてレンは先程アーミラ王女から伝えられた言葉を一言一句間違えずに言う。
団員達は思案顔になり、入ったばかりなどの新入り勢は瞳を輝かせている。
ある程度時間を設けてから「では、多数決で決めたいと思う。この箱の中に賛成か反対かを紙に記入して入れてくれ。出来ればその理由も書いてあると嬉しく思う。今から1時間後に回収するのでそれまでに入れといてくれ」そう言って箱を置いて行く。
その後アーミラの元へと戻り、1時間後に決を出す。と伝える。
アーミラは鷹揚に頷き。わかったとだけ言い天幕に居る。と伝えて来た。
周りを見回すと、幾つかの傭兵団は帰って行き、幾つかの傭兵団はそのまま雇われてこの地に残り砦の建設の警備に当たったりする。
隣接する国々が人を雇い、他の国は資材などの物資などを支援する事で話が纏まった様である。
1時間投票の結果を待つ間に、幾つかの国からお声が掛かったが丁重に断りの返事をした。
幸い通りのわかる使者であり揉めずに引いてくれた。
前に酷い使者もいたな。と思い出す。身分を笠に着て何を勘違いしたのか、俺たちを自分の所有物の様な扱いをした酷い貴族が居た者だ。
勿論そんな貴族は後日十分に日数が経ってから、残念ながら病死してしまったものだ。
特に大国の貴族ほどその傾向は強かったな。
南方諸国以外でも度々依頼を受けたからな。中には詐欺紛いの依頼もあったが、事前の調査で何とか避けて通れたからな。
前みたいに味方に危うく、殺されそうになるのは勘弁だからな。
■
一時間後。
箱を回収して賛成と反対の枚数を数える。
どうやら全員がちゃんと投票してくれたようだ。
その結果賛成多数で勧誘を受けることになった。
もう一度全団員を集める。
「皆の投票の結果。賛成多数でこの誘いを受けることになった。まだ納得出来て居ない者もいるだろう。その結果この傭兵団を去っても恨むことは無い。俺からは以上だ」
それだけ言い。後のことは幹部の者達に任せてレンはアーミラ王女の元へと向かう。
アーミラの天幕の前にいる兵士に用件を伝える。すると話は通っていたのか、すぐに中に通される。
天幕の中はまるで部屋の様であり、家具類も高価な物が置かれて居た。
天幕の中にはアーミラ王女とその侍女達と、戦乙女の騎士が数名居た。
「来たか。では、早速答えを聞かせてくれるか?」
余程楽しみにして居たのか、アーミラの口元には笑みが浮かんでいる。
「アーミラ王女殿下の誘いをお受けします」
「おお!そうか!「ただし」」とアーミラが椅子から前のめりに身を乗り出したところで、声を掛ける。
「うん?なんだ?」
「条件を付けさせて頂きたい」
レンがそう告げると、戦乙女騎士が「無礼であろう!」と激昂する。
それをアーミラは制して続けろ、と手でジェスチャーする。
「我々はサウナ王国所属になるでしょうが、厳密にはアーミラ王女殿下直属扱いにして頂きたい。我々が認めたのはあくまでも現時点ではアーミラ王女殿下のみです。そして貴女が我々の主人に相応しくない。と判断した場合は去らせて貰います」
そこまで言い切ると戦乙女騎士の一人が、腰の剣に手をかける。
「よさぬか!」とアーミラが一喝すると、騎士は「しかし殿下!この者らは殿下をーー」
「お前達の気持ちは嬉しく思う。だが面白いではないか。そんな事を言ってのけたのは此奴らが初めてだ」そう言いアーミラは嬉しそうに笑う。
その光景に毒気を抜かれたのか騎士達は剣から手を離す。
「ならば逆にお前達が私に相応しくない。と思えばいつでも切り捨てるぞ?」
「構いません」
「よかろう。その条件を飲もう。他にはあるか?」
「ええ、私達専用の工房を建てて頂きたい」
「ほう。面白そうだな。良いだろう」
その後細かく契約の内容を詰めて行く。
「では、これで契約は完了だな」
「ええ、これからはよろしくお願いします。アーミラ王女殿下」
「アーミラで良い」
「わかりましたアーミラ様」
こうして人狼傭兵団はアーミラ直属の部隊になった。
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後世の歴史家の一節にこう書かれて居た。
アーミラ・ニケ・サウスはこの瞬間、南方諸国の半ばを制したと言えるだろう。
その評価は決して誇張では無いと、後年に明らかになる。
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