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第10話 三年後
この世界オリジンに転生してから、既に11年の歳月が流れた。
最初の8年はクルーガーとエメラルダの元で修行して、それからすぐにマルシャワと出会った。
エラーイオ一門の探求者の塔の周りに広がる森を抜けた先の、比較的大きな国である王国で研究者をしており、研究機関のナンバー2であった。
マルシャワとは傭兵契約を交わして、王都までの護衛を請け負った。
途中立ち寄った辺境都市で、彼らの要請を受けてトリプルホーンライノの討伐に参加した。
結果は散々であった。
討伐部隊は壊滅し騎士団長も戦死したからである。
そしてこの失態の責任を俺たちに押し付けたのである。
マルシャワのお陰で捕らえられるよりも先に脱出して南方諸国に逃げ込んだ。
それから3年の月日が経った。
俺は南方諸国で傭兵活動をする事にした。
魔道騎士の数も増やして総勢30機程の大所帯である。
一傭兵団にしては多過ぎるくらいであり、俺たちの他にこれ程の数の魔道騎士が所属する傭兵団は、片手で数えられる程しか存在しない。
何せ南方諸国の一国あたりの魔道騎士保有数は、だいたい100〜150機と言われている。
そして一つの騎士団の魔道騎士の数は、20機ほどであるのでレン率いる傭兵団の数の多さが分かることだろう。
俺の愛機の頭部は狼を連想させる作りになって居り、更には傭兵団の紋章もそのまま狼にしたので、いつしか人狼傭兵団と呼ばれる様になった。
それ以外の要因にもレンは、王国から脱出した後念の為に顔を隠す為に狼に似た兜を被っていたのである。
気が付けばいつも被っているようになった。
その後は数々の戦を転戦しながら、南方諸国で名声を高めた。
そんな折にある一報が入った。
俺たちに責任を押し付けた辺境伯が遂に失脚したのである。
そして三年前の出来事も、マルシャワの証言もあり俺たちの無実は証明され、更に辺境伯の立場を悪くした。
辺境伯はお家取り潰しの処罰を与えられたのである。
マルシャワから届いた手紙を読んでいると「団長!司令部のお歴々が及びですよ!」と部下の一人が呼びに来た。
レンはアンドロイドの部下以外にも、部下を持つ様になった。
そして今では後方支援要員も含めて500名規模の傭兵団になった。
彼らには側近の殆どがアンドロイドである事は知らせていない。
多分知ることは無いだろう。
「わかった。すぐに行く」
手紙をしまい上着を羽織り天幕を出る。
今現在は南方諸国のある国に雇われている。
そして現在その国と隣国が戦争状態であり、こちらは劣勢を強いられている。
その理由が、敵国は大陸有数の規模の大国であり、この大陸の西の大部分を占める帝国の属国であるからだ。
本国からの支援を受けて、この国に侵攻して来たのである。
今までは南方諸国は小国の国々の集まりであり、小競り合いばかり起こっていたが、それでも小康状態を保っていた。
だが昨年から帝国が南方諸国にその触手を伸ばしてきたのである。
南方諸国と帝国の間には中規模の国があったのだが、昨年の秋頃に併呑されてそのままの勢いで、南方諸国の西端の国々を支配下に収めたのである。
そしてそのまま帝国軍が侵攻してくるかと思いきや、支配した属国にその後の侵攻は任せてしまったのである。
それと言うのも、マルシャワの所属する王国との緊張状態が高まったからである。
帝国の本来の予定では、南方諸国を平らげてから、王国を料理しようと考えていたのであるが、帝国貴族の一人が王国の商人を殺してしまったのである。
それだけならまだマシだったのだが、その殺された商人はある貴族の庶子であったのである。
庶子とは言えど、一族の者が殺されたとあって王国の貴族はその帝国の貴族に報復を行ったのである。
それにより二国間の仲が険悪になり、いつ戦争になってもおかしくなくなったのである。
帝国貴族は皇帝により処断された。
何せ帝国の国家戦略を破綻させられたのであるから当然である。
一方の王国貴族だが、悪い事に王国での位の高い貴族らしく大きな派閥の長であった。
そして派閥の力を使い、対帝国に舵を切らせたのである。
もともと帝国は先の皇帝の時代から拡張路線へと変更した。
先代皇帝は権力を中央に治める事に成功し、絶対的な権力を握った。
王国はいつか、帝国が攻めて来る事は分かっていたが保守派が多く、帝国に内通している者も居り対帝国へと意識は向かなかった。
だが、ここに来て急展開を迎えている。
国境には数多くの魔道騎士や兵士が派遣されて、更に砦の改築・増築がなされている。
南方諸国は帝国の目が王国に向いている隙に、手を組み南方から帝国を追い出すために一大決戦を仕掛けるつもりだ。
先ずは帝国の支配下に収まった、帝国側の南方諸国の国々を打ち破り、その勢いで帝国軍の南方諸国への橋頭堡となっている要塞を攻略して、完全に帝国軍を南方から叩き出す算段である。
数多くの南方諸国の騎士団と雇われた傭兵がこの地に結集している。
■
「さて、では雇い主の元へと行くか」
部下を伴い雇い主の天幕の元へと向かう。
周りを見回すと、数多くの兵士や傭兵が集まっている。
これから始まるのは南方諸国始まって以来の大戦である。
もともと手を取り合わず、争っていた国々が外から来た脅威を前に初めて手を取り合う、歴史的な場面に今居るのである。
だが、心配事は山積みである。
先ずもともと争って来た国々の連合体なので、連携の心配が第一に挙げられる。
それ以外にも、このように大規模な部隊で戦う事は無いので補給の問題もある。
不安要素は挙げればキリがないほどある。
一番の問題は誰が指揮をするかだ。
南方諸国には突出して大きな国は無く、だいたい同じ規模で同じぐらいの国力の国々の集まりである。
なので今まで争いが終わらなかったとも言える。
だが近年力をつけて来た国がある。
今回レン達人狼傭兵団を雇ったサウス王国である。
そしてサウス王国から派遣されて来た騎士団を率いるのが、現在南方諸国一の操騎士(魔道騎士乗りのこと)と言われている騎士である。
しかもその操騎士はなんとサウス王国の第一王女である。
通称【姫騎士】と呼ばれている。
彼女が全軍の指揮の有力候補ではあるが、まだ年若い事もあり本決まりではない。
だが、そろそろ決めなければならないだろう。
天幕に近付くと駐機状態の魔道騎士の姿が見える。
姫騎士が乗る機体のフォルムは、他の機体よりも細く丸みを帯びて居り、女性らしさがある。
タセットの部位が他の機体よりも長く、まるでスカートの様にも見える。
天幕の前にいる兵士に呼ばれた事を言うと、“少し待て”と言い兵士が天幕の方へと向かった。
暫くすると許可が下りたので中へと入る。
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