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山賊リーグへようこそ  作者: 十七夜
5:仲間たち
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家族2

「パパもママも、サッカーをする翔くんを応援してきたけど、それはプロをめざす翔くんが誇らしいからとか、そんなことじゃなくてね。翔くんがいつも、明るく元気にボールを追いかけているのがうれしかったからよ。サッカーが大好き、って翔くんが笑っていたからだった」


はっ、と翔は母親の顔を見た。

そのことばが過去形なことに気づいたからだ。


「だけどママ、最近の翔くんがどんな顔をしてサッカーしているのか知らなかった。見に来て欲しくないはず、とか。たのしいはず、プロになりたいはずって、勝手に信じ込んでいたの。見ていたのは、高校生だったときのお兄ちゃんや、中学生のころの翔くんだけだった」


ごめんね、ともういちど囁かれる。

何を謝っていたのか、ようやく分かった。

こうして、練習について来た理由わけも。


きっと両親は、翔がサッカーをやめて鬼ノ山リーグに行くと言っても、叱ったり、押しとどめたりはしないにちがいない。

だとしたら、やめると口にしてしまえば、それはもう決定だ。

本当に後悔しないでいられるか、仙人でもない翔にかんたんに出せる答えではなかった。

ただ、それでも今、ひとつだけ確かなことがある。


「ママ──俺、ボールを蹴るのが好きだよ」


そう、と母親の横顔にほほえみが浮かんだ。


「うん。何より好き。ずっとやっていたい」


たとえば、七十七才だというオジジのように。

あの年になってもボールを蹴っていて、しかも、若い選手からすごいと尊敬されるような存在でいられたら、最高にかっこいいじゃん、とおもう。


「それなら、お兄ちゃんのがんばりも無駄にならなくて済むかな……」

「兄ちゃんの、なに?」

「ふふ。ナイショ。たのしみね?」


何のことだか、翔にはさっぱり分からない。

追及の視線を向けても、母親がそれ以上おしえてくれることはなかった。


その日の練習メニューは、行ってみると、近隣の大学チームとの練習試合に変更になっていた。

プロを輩出するような有名大学ではないが、前日の試合のスタメンを除いたメンバーでのぞむため、ヴェミリオンU-18が有利とも言い切れない、そんな相手だ。

学校名を聞いても気づかなかったが、翔はいよいよ試合開始という段になって、相手のベンチに兄の真一がいることに気がついた。

それも、ママが見に来た理由かな、とおもう。


「兄ちゃん、ママは?」


試合後、練習自体が解散になったあとで、翔は白鳩教育大学蹴球部、と背中に名前が入ったジャージすがたの兄に歩み寄った。

チームメイトは帰ってしまったようで、兄だけがぽつんとひとりで練習場の外に立っている。

おそらくは、翔を待っているのだ。



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