表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山賊リーグへようこそ  作者: 十七夜
4:居場所
62/79

山賊リーグ3

「泣いてる。……かわいそうだよ。ねえ?」


学ランのそでを引かれても、猿渡は無言のまま、視線さえ向けることはない。

司はむっと眉間にしわを寄せた。


「僕、行くよ。行って、今週はここじゃなくてみんな河原に居るってこと、おしえて──」

「よけいなことするな、司」


猿渡が腕を掴む。

そのあまりの力に、よけいに司は眉をしかめた。


「望くんは、彼の友だちでも何でもないんでしょう? どうして、あなたの言うことを僕が聞かなくちゃいけないの?」

「おまえだって友だちじゃねーだろ」

「友だち……だよ」


司を、見開いた瞳が見下ろす。


「おまえ、バカとは話すだけ時間の無駄、が口癖だったんじゃねーのか」

「バカも極めるとカワイイって気づいたんだよ。女の子だったら、僕がお嫁にもらって養ってあげたいくらい。ねえ、あと十年もしたら、同性婚は日本でも解禁されてるよね?」

「……バカが伝染ったの、まちがいだろう」


猿渡がやれやれと首を振ると、そのすきに司が手をふり払った。


「僕、翔くんといっしょにプレーするのが好きだよ。彼を仲間に誘う理由は、それだけで十分だよね? 僕が彼を誘えば、もう誰も、彼を拒絶することはできない──でしょう?」


鬼ノ山リーグには、亀村中学の他にも河原沿いなど三つの活動場所があって、週ごとにそれらを渡り歩く。

本来、そういうことは、リーグに誘った人間からおそわるのだ。

仮に、翔が先週の時点でどこかのチームに正式に入っていたなら、何も知らされず、ここでひとりぼっちで泣くことなど決してなかっただろう。


「よせ、司。あいつはダメだ」

「ヴェミリオンの下部組織の選手だから? ……知ってたよ、そんなのはじめっから」


くす、と司は思い出し笑いをした。


「翔くん、所属チームの名前は言わなかったけど。隣の県だとか、チームメイトはみんな火花を散らしてるとか、学校では別世界あつかいされてるとか、ぺらぺら話してるんだもん。プロをめざしていて、あの実力──分からない方がバカだよね?」

「知ってたなら、どうして追い返さない!」


司は肩をすくめてみせる。


「だって。鬼ノ山のやまは、山賊のさんじゃない。──協会から、選手たからを奪ってくる……だから、山賊リーグっていうんでしょう?」

「おまえにはここでやる理由があるんだろうが、あいつにはない。いいから、他人に構ってないで、おまえはさっさと河原に行って自分のやるべきことをやってろ」

「今のままじゃプロになっても先がないって、あなたが彼に言ったんでしょう? 理由ならあるし──第一、失敗したあとじゃなく、プロになる前にここに来た彼はすばらしく賢明だよね。なのに、あなたは彼を追放した。なんの権利があって、そんなことをするの?」


無言のまま翔のすがたを眺めていた猿渡は、やがて、見ろと司にあごをしゃくった。


「ほら、あいつは帰って行く。今まで、ここに来ては去って行ったやつらとおなじだ。挫折を知らない者同士、一見、おまえたちは近いようだけど、おまえの根っこにあるものは俺たちと変わらない。……ただ、それが気に入らねーなら、おまえがあっち側に行ったっていいんだぞ」

「…………行けないよ。僕はまだ」


猿渡は、うつむいた司の肩をぐっと抱いた。


「おまえのことなら、俺も、健さんも、桃さんも、ちゃんと鍛えてやるって。な?」

「望くんなんか、きらい──」

「あのな。言っとくけど、あいつを追放したのは俺じゃなく、オジジだぞ」


ふん、と司は子どもっぽくそっぽを向く。


「望くんにはどんな理由があるのか知らないけど。僕は、いつまでもこっち側じゃないよ。十年後には、翔くんとおなじところに行って、いっしょにサッカーをしてみせるからね!」


司の髪を掻き回した猿渡の顔には、さみしげな苦笑が浮かんでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ