山賊リーグ1
二日目の練習では、またぞろボールを使わないフィジカルトレーニングか、とおもわせておいて、三十分ほどしたころ、ついに待ちに待ったボールが登場した。
が、始まったのはいわゆる、戦術パターンの練習、と呼ばれるものだった。
味方ボールになったら、ここにパスを出し、こんなふうにつないで、誰がシュートを撃つと、あらかじめチームで攻撃時の流れを決めておき、イメージの共有を図るというものだ。
U-15ではまったくやらなかった練習だが、U-18では試合に出るメンバーを中心に頻繁に行われる。
翔もよくそれに加わるが、決まったことをやるだけであまり好きな練習ではなかった。
それでも、U-18ではフォワードの位置に入ってシュートを撃てば良かったのでまだいい。
が、トップチームの練習では、翔はなぜか右サイドに配置され、フォワードに向かってクロスボールを上げる役目を担わされた。
翔だったら、その位置でボールを受ければ、ゴールに向かってドリブルを開始する。
どうしてもクロスを上げろというなら、やはりドリブルでゴールライン際まで突破してから、マイナスのボールと呼ばれる、ななめ後方へのグラウンダーのクロスボールを選択するだろう。
いずれにしても、翔の選択肢としては、まずドリブル、そしてシュート、いよいよ困ったときのみ、パスがあるにすぎない。
なのに、はじめからパスをしろ、それもフォワードのところへ正確に、と言われるのでは、翔にはストレスの上に失敗が重なるばかりで……
しかもプロである大人たちの視線は厳しさを増していく、まさに悪循環でしかなかった。
ドリブルだったらやれるのに、というおもいが、次第に、パスができない劣等感に埋もれて、自分でも見つけられなくなっていく。
パスしか要らないなら、翔のスキルも、アイデンティティも、必要ないということだ。
ここには、俺なんか必要じゃないんだ──
午後の授業に出たあと、翔は張りつめたきもちのまま、亀村に向かった。
おだやかな空気と、あたたかな人柄でいっぱいの場所に行けば、この息苦しさからはきっと開放されるはず……そうおもう。
自分が自分として扱われ、受け入れられ、認めてもらえる場所でおもいきり息をしないと、もう、一日だってがんばることはできない。




