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山賊リーグへようこそ  作者: 十七夜
1:出会い
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球技大会6

どうしてキーパーをやめたのか、それも疑問にはちがいないが、どうしてキーパーをやっていたのかからして分からないのだから、考えたって無駄だ。

時間とともに、キーパーのサワタリも非常にやっかいな存在だったけれど、マンマークされるよりははるかにマシだった、ということだけは分かってきた。

F組のメンバーは、ボールを持つと翔にパスをあつめてくる。

そばにいて、そのボールを奪ったりクリアをするだけで、F組の攻撃のスイッチは入らなくなってしまう。

ならばと、翔を避けてパスをまわしたところで、チャンスらしいチャンスにはつながらない。

もちろん、翔だってマークを外してパスを受ける術ぐらい心得ていたし、ファールも辞さない気合いで止めにくるふだんの相手に比べれば、ボールをキープすることもたやすかった。

しかし、彼をドリブルで抜くことが、どうしてもできないのだ。

理由なら分かっている。

十一人制コートの半分ほどの広さに八人ずつではそもそも空いたスペースがせまく、スニーカーでは繊細なボールコントロールもできないため、得意のフェイントがほとんど使いものになってくれない。

翔の良さは完全に封じられている、と言っても良かった。

しかし、まわりの期待は翔が負けることなど許さない。

勝たなければ、とあせるほど相手からのプレッシャーを強く感じ、消極的なプレーを選択してしまい、苦しまぎれに出したパスを相手に奪われては自己嫌悪に陥る……そのくり返しだった。


どうしよう。どうしよう。どうしよう。

打開策を授けてくれる指導者は、いない。

パスを受けに来てくれる味方も、いない。

どうしたらいい? 

どうしたら、抜ける?

答えの出ない問いをくり返すあいだも、翔の視線の先にいるサワタリは、あいからわずやる気があるのかないのか判然としない無表情で、翔のフェイントに惑わされないことだけを考えているようだった。

サッカーが好きなのか、楽しんでプレーしているのかどうかも、分からない。


何なんだ、こいつ──

こんな球技大会の試合でも、五分も眺めていればサッカー経験者とそうでないものの区別はつく。

経験者が、どのていどのレベルなのか、現役かそうでないかも、翔には見極められる……つもりだ。

小学校まででやめたという数人はまさにそういう動きをしていて、翔をおどろかせるプレーは何ひとつない。

なのに、出足の早いクリア、ロングフィード、ドリブル、フリーキック、そしてポジションの変更と、マンマーク。

サワタリだけが、ことごとく、翔をおどろかせずにはいなかった。

しかも悔しいのは、翔の方は彼をすこしもおどろかせてはいないという、事実。

翔よりも、選手として格が上だというのか。

いいや、そんなはずはない。

ぜったいに、有り得ない!


あとどのくらい時間はあるのだろう。

このまま、一矢むくいることもできず、プロを目指す自分が、校内の球技大会ごときで敗北を喫してしまうのか。それでいいのか。

いいわけねーじゃん、こんちくしょーっ!

翔はおもいっきりボールを蹴り上げた。

残り少ない時間で、前線にロングボールを放り込んでパワープレーというのはサッカーでは常套手段といっていい。

が、もちろん翔のそれは、味方のヘディングを期待したものではなかった。

ドリブルでもグラウンダーのパスでも抜けないことにしびれを切らした、ただのヤケクソ──それだけだ。

けれどその選択は、初めて、サワタリをおどろかせたらしかった。

とっさに振り返り、ボールの行方を見届けた彼は、右のポストを逸れてゴールラインを割ったと分かったとたん、チッ、と舌打ちをしてみせる。

シュート一本撃たれただけで、それかよ。

むっ、とした翔の耳に、へたくそ、というつぶやきがとどいた。

つづけて、試合終了の笛が無情にひびく。


負けた──

あんなに応援してもらったのに。

チャンスらしいチャンスも作れず、無得点のまま。

うつむいたのも一瞬で、翔はすぐさま離れて行こうとする赤いビブスの背を引っ掴んだ。

整った容貌が振り返り、翔を見下ろす。


「おまえ、いったいどこのどいつなんだ!」

「……一のB、サワタリノゾミ」


そっけない返答から新たに分かったことといえば、彼の下の名前だけ。

それが、姫田翔と猿渡望──ふたりの出会い、そして初対決だった。



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