球技大会5
タッチラインの外に出た翔は、キーパーグローブをはめたチームメイトの名を呼んだ。
がんばれと言われても彼にできることはそう多くないはずだが、ピッチの外に出されてしまった翔に今できることは、他のクラスメートのように声援を送ることだけだった。
せめてピッチの中にいれば、壁の位置をアドバイスするくらいのことはできたのに。
B組の応援が、サワタリ、決めろ、と口々に叫んでいる。
やる気があるのかないのか分からなかった例のイケメン顔には、わずかな微笑が浮かんでいた。
彼は、サワタリというらしい。
ほとんど助走らしい助走をとらず、サワタリはやや上体をななめに反らせ、右足を振り上げた。
キーパーは素人と踏んでの、コース重視のキックだ。
山なりに弧を描いたボールは五人が並んだ壁の頭上をらくらくと越え、ゴールのクロスバーにガッと当たる。
もっと速いボールであれば跳ね返ったのかもしれないが、ほぼ真下に落ちたボールは、ころころと地面を転がり、ゴールのサイドネットに当たって止まった。
かがんだキーパーがボールに触れるよりも早く、審判の高らかな笛がゴールインを宣告する。
B組に先制されたばかりか、前半の残り時間をプレーすることも許されない──
それでも、翔はうつむかず、後半こそミスも失敗も得点もすべてを取り返してやろうと、ゴール前で暇そうに佇んでいるサワタリのすがたをにらみつけた。
彼を躱して得点するイメージを、考えられるかぎりいくつもいくつも思い浮かべる。
いちばんいいのは、自分がキーパーを引き付けておいて、味方にパスすることだ。
ゴールから引っぱり出されたキーパーの手は、どうあがこうとシュートには届かない。
前半いいように止めてくれた借りは、意表を突けるダイレクトパスで返してやる。
前半が終わり、十分間のハーフタイムのあいだに翔はそうチームメイトにも伝えた。
が、せっかく考えた作戦が、キーパーグローブをはめながら左エンドのゴールへと向かう相手キーパーを見たとたん、無に帰す。
え? 何で?
サワタリじゃないじゃん!
あぜんとした翔だったが、すぐに、キーパーが交代したことを素直によろこんだ。
相手がサワタリでないのなら、自分でシュートを撃つことも可能になるはず、そうおもう。
B組のキックオフで後半が始まって、十秒と経たないうちに、翔は自分にマンツーマンでのマークがついていることを自覚した。
ちらちらと視界に入って離れない相手の顔を忌ま忌ましくにらんだ翔は、仰天してしまう。
「サワタリ! 何で!」
半袖の体操服すがたになっているが、指さす翔を見返しているのは、まぎれもなく、何度もシュートチャンスを潰してくれたあの憎きイケメンキーパーだった。