ライバル5
「ち、が、う! このやろうがいい年こいて独身だからだよ。まさか男のケツを追いかけつづけてるヘンタイだとはおもわねーだろ?」
「でも、いっしょに車で帰るって、ちょっとドライブデートっぽいよね?」
「いっつもふたりじゃねーんだよ。乗っけてやる代わりに金取るんだからデートじゃねえ」
翔はおもわず足を止めた。
「そうか。じゃあ、俺もお金払わないと」
「バカ、高校生が何言ってんだ。司に頼まれたし、金取る気なんかさらさらねーよ」
「だけど、電車に乗ればお金払うんだし、その分くらいなら、ちゃんとあるよ──」
新聞包みを抱えたまま、どうにかカバンの外ポケットを漁ってICカードケースを取りだしてみせた翔を見て、健太と怜司は沈黙した。
「……かわいいな」
「高校生だぞこいつ? かわいいで済むか。ただのアホじゃねーか!」
「あ。そうか。カードの中のお金って、機械相手に払うことしかできないんだ。どうしよ?」
カードと健太、それから健太のものらしい車を順に見た翔の背に怜司が触れる。
「どうしてもっていうなら、コンビニでコーヒーでも買って渡したら? そしたらきっと、家の前まで乗せて行ってくれるよ、彼」
「どのみち、家まで送るつもりなんだよ」
車の鍵を開けた健太に乗れ、と促されたのは助手席だった。
暗がりでよくは分からないが、黒っぽい、車高が低めのごつい車だ。
定期券があるからふつうの電車に乗れる駅まででいいと翔は申し出たが、それだと怜司よりも先に降ろすことになると、あえなく健太に却下された。
県庁付近なら通り道だというから、健太の家はもっと遠いのだろう。
「ねえ。猿渡も、誰かがここに誘ったの?」
「望か? あいつはなー」
そう言ったきり、運転中の健太はことばを切る。
顔を見れば、笑いをかみ殺していた。
「あいつは中一の夏に、東京から親の実家に引っ越してきたらしいんだけど……そのころは反抗期か、えらくグレてやがってだな」
「グレてた? ……あー」
ぽんと手を打つ。
翔の頭に、グレる、イコール非行、イコール援助交際、という図式が成立した。
マンガの世界では、ケンカ、かつあげ、暴走族なんてものも描かれているが、現実にあるとは翔には到底おもえない。
ところが、吹きだしながら健太が語ったグレ方は、翔の予想とは大きく外れていた。
「悪いことになー、あいつは農家から小玉のスイカを盗んで、食うならまだしも、蹴って、近所の壁や雨戸にぶつけてまわってたんだと。で、大人にとっ捕まって、そんなに蹴りたいならこのひとの元でやれってオジジのところに連れて来られたらしいな。今のあいつの、すましたツラからは考えられねーだろ?」
翔は、ぶんぶんとうなずいた。
「へえ。スイカで壁越えをするほど、プレスキックに対してこだわりがあるのか。あいつに蹴らせてやってれば良かったのにな」
こちらも初耳だったらしい怜司が、小さく笑う。
ハンドルを持ったまま、健太が後部座席をじろ、とにらんだ。




