ライバル3
「もちろん、彼の誘いを断わって、うちに来るのでも構わないから」
「クソ怜司、横からしれっと口説くな」
「そっちこそ、口説くつもりなら、ことばは選んだ方がいい。だろう、司くん?」
司は、ノーコメント、と返してそっぽを向いた。
その後、列車の時間があるからと翔に告げて、あわただしく帰って行く。
「司! ママに、お弁当おいしかったって、お礼言っといて」
手を振って司と別れたあと、校舎の外に出たところで、健太がおじさんに新聞紙に包まれたほうれんそうを花束よろしく渡された。
少し行くと、おばさんにも何か渡されている。
振り返れば、怜司も片手に梨を持っていた。
「食べる? あげるよ」
梨を差し出されて、翔がどう返事をしようかと考えたときだった。
「いた! 翔ちゃん、これやる。チームのみんなから。助っ人ありがとうのきもちだ」
駆けてきた牧野から、翔は新聞紙にくるまれた赤ん坊サイズの包みを渡される。
中身はよく分からないがずしりと重い。
それが、きもちの重さのようにおもえて、翔の頬は自然とほころんだ。
「ありがと! でも、点が取れたのは、半分以上、おにーさんのパスのおかげだよ」
翔が包みごと手を振ると、ころん、と何かが地面にこぼれ落ちた。
怜司が拾い上げる。
「ぎんなんだな。知ってる? 彼は、二年間だけ、プロのチームにいたらしいよ」
翔は目を見開き、牧野の背中を見た。
2部リーグだけどね、と怜司がつけ加える。
「だからあのひと、あんなにどんピシャのパスが出せるのかー」
「それはどうだろう。……ちなみに、君をキリキリ鍛えてやる、とか豪語していた男も、十年くらいプロをやっていたね。犬飼っていうと、俺たちの世代でサッカーをやっていたやつは大抵知ってるよ。昔、椿工が選手権で準優勝したときの10番だから、彼」
怜司は、ちらり、と健太を横目で見て、新聞包みの中に拾ったぎんなんを押し込む。
選手権とは、冬に行われる高校サッカーの全国大会のことだ。
が、翔は県の代表が準優勝したことがあるなんてまるで知らなかった。
椿工の名前は翔も知っているが、強豪だという認識はない。
「椿工のチームメイトなの?」
「俺? まさか。でも、国体の県代表でいっしょになったことはあるよ。彼の方は、おぼえていやしないけどね」
「え。ひどいね。写真か何かないの?」
「いいんだ。相手の眼中にないくらいが、よけいに男は燃えるものだろう?」
いたずらっぽい微笑に、翔はあえて返事をしなかったが、猿渡を追ってきた自分の心理には、それと似たものがあるようにおもう。
自分を相手にしない彼の態度こそが、翔の足をここに運ばせたといっても過言ではないのだから。
足といえば、今現在、猿渡の脚には幼女がしっかと絡みついていた。
腕には、貢がれた何種類もの野菜を抱えている。
もてるにもほどがあるだろう、と翔は半分あきれた。
相手が幼女では、さすがに翔もうらやましいとはおもわない。