ライバル2
「てめ、未成年相手にとっ捕まるようなことしてやがんのか!」
「望と? いや。俺はおまえにしか興味ない」
ふわりとほほえんだ怜司のことばに、翔はあっけにとられた。
冗談だろうか、と健太の顔を仰げば、なぜかがばりと抱きしめられる。
「こいつもいっしょの車に乗って帰るけどな、おまえに指いっぽん触れさせねーから安心しろ、少年。ヘンタイなのはまちがいないが、実害はねーから、今のところ」
ヘンタイ呼ばわりされても、怜司はおだやかな笑みをたたえたままで、抗議もしない。
「ふたりでいっしょに車で帰るんだったの? 俺、もしかして邪魔者……スか?」
「いや。君がいれば、彼も口をきいてくれるだろうし。むしろ助かる」
「うーん。……俺も猿渡だったら、このひとといっしょのチームに入ろうっておもうかも」
「なんでだ! ケンカ売ってんのか。俺とやる方が、おもしろいに決まってんだろっ」
「そうだろうけど。何か、力になってあげたい気になるというか。な、なるよな、司?」
「ちょっと、僕に振るのはやめて。僕が生まれるずっと前からつづくふたりの因縁に、望くんみたいに巻き込まれたくないから」
一歩退いた司の首根っこに、健太が腕をまわす。
「言うなー、司。つか、翔だっけ。このやろうの力になれるほどの腕前なのか?」
「翔くん、今日、桃さんにハイタッチを求められてたよ。将来は、プロになるそうだし」
司と健太が何やら意味ありげな視線を交わしたことに、翔も気がついた。
「ほーお。桃ちゃんが認めたなら、相当やるんだな。望に真っ先に目をつけたのも、元はといえばあの子だったし」
ちら、と健太が視線をやった方を見て、翔はぎょっ、と目を見張る。
猿渡が、例の美少女と並んで、親しげに談笑していたのだ。
しかも、司が言っていたとおり、ドラマに出てきてもおかしくないイケメンと美少女で、お似合いのカップルにしか見えない。
ふたりは恋人同士なのだろうか。
いいなあ、と翔はおもった。
彼女の、なかなかに好戦的な性格を知っていても、やっぱりおもう。
「ならよ、翔。うちに入るか? 俺が、アホも治るくらい、キリキリ鍛えてやるぜ?」
「う…………ううううう」
うん、と答えたいのを翔はどうにかおもいとどまった。
実は、緑チームの5番の男性──牧野も、翔のことを熱心に誘ってくれたが、もちろん了承はしなかったし、できるはずもない。
翔にはれっきとした所属チームがあるのだ。
そこは、入団するにはトレセンよりはるかに倍率の高いテストがあって、第2種ではもっともプロに近いとされる特別な場所である。
自ら、そこを去ろうとするバカはいない。
翔だって、そこまでバカではなかった。
「即答できないのなら、保留ってことにしといたらいいじゃないか」
はっ、と顔を上げた翔に、怜司がほほえむ。