中学生:司3
「あのさぁ。あなた、高校生だよね? 線路を走るっていうけど、枕木ってものがあるの、分かってる? つまり、足元はでこぼこ。しかも、線路沿いに明かりなんてないよ? まっ暗で足元も見えないのに、すいすい走れるつもりでいるの? 五〇〇メートルと行かない内に、足を捻挫してリタイアするのがオチだよ、賭けてもいい」
さすがに翔もことばを失ったが、少年の口はなおも容赦がなかった。
「二〇キロもないはずだから、朝まで歩けば着くだろうけど。のろのろと時速二、三キロで歩いて、八時間くらいか。それだと、寝ぼけているところを前から来た始発にはねられるかどうかの瀬戸際だね。悪いことは言わないから、やめておきなよ」
「やめておきます……」
うなだれて返した翔に、くすっ、とやさしい微笑が向けられた。
「とりあえず、名前を訊いてもいい? 僕は司、羽鳥司。あと、持ってたら、携帯電話、貸してくれる?」
すぐさま、翔はポケットから携帯電話を取りだした。
パカリと開いてから差し出す。
「俺、姫田翔」
ふうん、と応じながらおそらくは自宅の番号を押している少年の腕を、アッ、と声を上げて翔は引っぱった。
「どうしたの?」
「あの、俺の名前、内緒にしてくれる?」
「うちの親に?」
「いや、親……パパやママにはべつに構わないけど、その、他の──」
具体的に言えば、猿渡に。
しかし、その名を自分から口に出すのはためらわれた。
「もしかして、望くんに、ってこと?」
ハッ、と顔を上げた翔に、少年の指が向く。
「その制服って、望くんと同じ、兎ヶ丘でしょう。跡をつけてきたって、望くんのだね」
駅に向かう道すがら、学ランを着ていたのだった。
翔はおず、とうなずきを返す。
「そうか。まあ、秘密にして欲しいきもちは分かるけど。いくら望くんのことが好きでも、ストーカーするのは良くないよ」
翔は、司の両腕をがっし、と掴んだ。
「ちがう! 全然、ちがーう! 俺があいつの跡をつけてきたのは、球技大会で──」
かくかくしかじか、と初対決のことから再戦後の捨てぜりふまでを話して聞かせているうちに、例の最終列車が来てしまった。
話したといっても、自分もサッカーをやっている、程度のことで、プロの下部組織に所属していながら猿渡に負けた、とまではさすがの翔も言い出せない。