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山賊リーグへようこそ  作者: 十七夜
2:亀村にて
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臨時コーチ1

「そういえば。今のうちにこのお椀を──あのぅ、おじさん、これってどこに……」


男性を振り返りながら一歩踏み出した足に、何やら固いものがぶつかる。

見れば、なぜか白くて太い、立派な大根だった。

一拍遅れて、抱えた少年のすがたが目に飛び込んでくる。

少年というより、幼児と言うべきかもしれない。


「あ、ごめん」


翔の腰ほどの高さから、つぶらな眸がまっすぐに見上げてきた。

すこしして、ちょこんと首をかしげる。


「おねえちゃん?」

「お、に、い、ちゃ、ん!」


声を大にして主張した翔に、少年はにこっ、とほほえみ、大根を手に突撃してきた。


「おにいちゃん、ボール蹴るのおしえて!」

「え、パスのこと? いいけど、俺さ、ドリブルの方が得意なんだけど」


少年はこくんとうなずき、なぜだか大根を翔の腹に押しつける。


「ドリブル、おしえて!」

「ちょっと待って。これを返して来てから」

「それは、俺が返して来てやろう」


ひょい、と翔の手からお椀、他一式が取り上げられた。

手が空いたとたん、ほとんど無理やり大根を持たされてしまう。

まあ、子供が持っているには重いのかもしれないが。


「この大根、ナニ?」


問うた翔に、踵を返しかけた男性がふふっ、と笑ってみせる。


「コーチ料というやつだよ。もらっておけ」

「ええっ、俺がコーチ? えへへ、俺、コーチするのなんて初めて。なあなあ、どこでやるの? その前に、名前は? 名前!」


ハーフタイムとはいえ、このグラウンドではまずいだろうと首を巡らせた翔の手の先を、こじんまりとした手がきゅう、と掴む。


「ぼく、イサム。勇気りんりんのゆう!」

「へえ。勇気の勇、かっこいいな。俺はショウ。俺の名前も、勝利の勝とかだったらかっこいいのになぁ。で、イサム、いくつ?」


引っぱる勇に着いて行きながら、翔はるんるんと手をゆすって訊いた。

大根を突っ込んだスポーツバッグが、肩にずっしりと重い。


「六才。一年生!」

「マジか。親と来たの? 俺、誘拐してるように見えたりしないよな?」


どう見ても翔の方が手を引かれているのだが、きょろきょろと翔はあたりを見まわした。

勇は、校舎の横を抜け、裏門をくぐって坂を下る。

はっきり言って、足元はまったく見えない。

もしも落とし穴があれば、問答無用で真っ逆さまだ。

翔は、物怖じせずに歩く勇のことを密かに尊敬した。

勇気の勇の字は伊達ではないんだな、とおもわずにいられない。



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