追跡第2弾3
キョロ、とあたりを見まわした翔は、ごろごろとカートを引いてくるおばちゃんとおもいきり目が合った。
母親よりは祖母の年代に近いかもしれない。
カートの中身をのぞけば、なぜかじゃがいもがごろごろしている。
「それ、どうするの?」
「今日は蒸かすわよ。いっぱい走って、お腹すかせておいでね!」
ぱしん、と背中を叩かれた翔は、首をかしげた。
口ぶりからすると、ここでサッカーをしている人間に食べさせるつもりらしい。
他にも、野菜がつまったケースを抱えて校舎の方へ向かうおじさんなど、サッカーをしに来たとはおもえない年配の村人たちが、つぎつぎと校門から入ってくる。
校庭だけで、ざっと百人近いひとがいるだろうか。
田舎の草サッカーチームが練習しにあつまっているだけ、とは到底おもえない。
プロリーグ1部に所属するヴェミリオンのトップチームでさえ、練習見学に訪れるファンの数はもっと少なかったはずだ。
見れば、グラウンドを照らしだす明かりは、校庭に面した校舎の三階から向けられている二機の投光器によるものだった。
校舎の一階には明かりが灯り、二階の窓際にはいくつも顔が並んでいる。
彼らが手にしているのは缶ビールだろうか。
グラウンドに目を向ければ、ボールを蹴っているひとびとの服装はてんでバラバラ。
足元も、翔が見てスパイクだと分かるものは少数で、多くがスニーカーに見える。
しかも、よく見れば、肌の色や顔の濃さなど、人種までさまざまだ。
青年、ということが唯一の共通点におもえるくらい、統一感というものがない。
いったい、どういうチームなのか。
そもそもこの場にいるのが一チームなのか二チームなのかさえ、翔には見当もつかなかった。
猿渡のすがたも今のところ見えないが、他に高校生がいるふうでもない。
社会人チーム?
まあ、ふつーに考えたら、高校生なら高校のチームでやるもんな。
サッカー協会では、社会人チームなどとくに年齢制限のないカテゴリーを第1種、十八才以下のいわゆる高校生チームを第2種、中学生年代は第3種、小学生以下なら第4種と、年齢による区分を設けてある。
もちろん、高校生でプロデビューをはたした先輩が翔のチームにもいるように、第1種のチームに高校生が入って試合に出ようと、べつに問題はない。
要は、大人に混ざれるだけの実力があるかどうか、ってことだよなー。むむむ。
翔は腕を組み、猿渡のすがたを頭に描いた。
一八〇センチ近い彼の身長なら、体格で大人相手にハンデがあるともおもえない。
グラウンドの中には、一〇〇キロ近くあるのでは、とおもうようなドッカリとした体型も見受けられたが、まともにぶつかることなくスピードで勝負すればかんたんに躱してしまえるだろう。
七時になろうかというころ、ピーピーとつづけざまに笛が鳴った。
始まるぞ、とあちこちで声が上がる。
翔も、よく分からないまま、ピッチを囲むギャラリーに加わった。