追跡1
月曜日は、ヴェミリオンU-18では基本的に休養日とされている。
言い換えれば自主練習日であり、翔は毎週、スーパースターたちのドリブルやフェイントのテクニックを身につけたり、それらを磨くことに費やしていた。
が、今日は高校生になってはじめて、練習場には行かないと決めている。
放課後が近づくほどに動悸が大きくなり、緊張がいや増したのは、練習をさぼる罪悪感からなのか、それともこれからしようとしていることがイケナイコトだからか。
それでも、一日くらい練習を休もうとも明らかにしておかなければならないことがある。
このまま同じ練習を、同じようにつづけているだけでは、プロになれてもその先はないと言われた以上、その真偽はたしかめておくべきだ。
猿渡のことばが、心ある忠告なのか、ただの負け惜しみなのか……現時点では、翔にはまったく判断がつかないのだから。
もしかしたら、猿渡は本気で勝とうとはしてなかったのかもしれない──
ふつふつと胸に不快を湧き立たせるその疑惑をきっちり否定するためには、猿渡の全力がいかなるものかを知る必要がある。
サッカーを始めて、十二年。
三つ上の兄と同じことをしたがり、同じことができるようになるまであきらめず、同じことができると信じて疑わなかった翔は、どこへ行っても、誰に会っても、サッカーに関して称賛以外のことばをかけられた記憶はない。
翔のドリブルが同年代で通用しなかったことはかつてなく、このまま前向きにがんばっていればぜったいプロになれる、と元プロ選手であるコーチたちも口をそろえた。
翔より足が速い選手、パスが上手い選手、ボールを飛ばせる選手、ヘディングが強い選手、守備力が高い選手、判断が早い選手──見習うべき要素を持っているライバルたちにだってたくさん出会ってきたが、自分には自分の武器があり、自分が負けているなどとは翔は一度もおもわなかった。
試合に負けることもあったけれど、そのたびにべつのフェイントをおぼえ、個人の力を伸ばして成長してきたのだ。
それがまちがっているなんて、言われたことはない。
言われるおぼえも、ない!
でも、もしも……もしもどこかに、翔の知らない『強さ』の秘訣があって、それを猿渡が知っているのだとしたら?
猿渡は、サッカーはやめたと言ったけれど、翔はそれは嘘だと直感的におもった。
理由はない。
けれど、とっくの昔にやめたと言われて納得がいかなかったのは事実だ。
ならば、猿渡は今もどこかでかならずボールを蹴っているはず。
そこに、翔の知らない『強さ』があるのか、否か──どうしても知りたい。
知らなければ、とても、いつもの場所でいつもの練習などしてられない。
片道一時間以上かかるクラブチームでの練習に遅れないため、翔はいつも終業のチャイムが鳴るなり学校を飛び出していく。
一本でも電車に乗り遅れてしまうともう、練習開始時刻に間に合わなくなってしまうからだ。
だから、放課後の廊下を走らずに歩くのは、翔にとって実にはじめての経験だった。
体育館の換気窓から、こっそり部活動の練習をのぞき見る、なんてことも。
第二体育館でのバスケットボール部の練習の中には、たしかに猿渡のすがたがあった。
人数は全部で十人ほどと、お世辞にも活動が盛んな部とは言い難いものがある。
兎ヶ丘学園の運動部は押し並べてそんな調子で、県大会に出場できるのもいくつかの女子部に限られていた。