リベンジマッチ1
「──てなわけで。練習したし、今度はぜぇったい負けないから、もう一回やって!」
球技大会からちょうど一週間になる、金曜日の昼休み。
B組の小柄なサッカー経験者を捕まえて伝言を頼んだとおり、サッカー部の部室前へとやって来た猿渡に向かって、翔はビッシ、と人差し指を突きつけた。
と、ぺしん、と翔の頭が叩かれる。
「アホかー。練習したとか言うんじゃねー」
翔は後頭部を撫でながら、背後に立つ薮を振り返った。
「なんで。ちゃんとやったじゃん。っス」
「もうぜったい勝てませんヨ、と言われて勝負受けてやろうとおもうやつがいるかー?」
「あ。そっか。……いや、練習っていってもあくまでサッカー部レベル? だけどね?」
エリートこのヤロウ、と薮が低くつぶやく。
猿渡は、聞こえているのかいないのか判然としないほどの、リアクションのなさだ。
翔は近寄り、彼の学ランをむんずと両手で掴む。
「なあなあ、勝負してよ、勝負!」
「…………それが、わざわざ伝言して、もしかして告白、とか妙なウワサを巻き起こしてまでひとを呼びだしてくれた用件なのか?」
翔のうしろで誰かがぷっ、と吹き出した。
薮の他、周囲には十人近いサッカー部員がいて、ことの成り行きを見守っている。
「さっすがイケメンくん。男に呼びだされても告白とか言われるんだなー、カワイソ」
「いや、遠目に見たらそれっぽいかも。ほら、キスを迫るの図、みたいじゃん?」
翔はすぐ斜め上にある顔をたっぷり三拍は見つめてから、パッと手を離した。
「ちょっ、その誤解は嫌じゃね? おまえも嫌だよな? な、な? だったらさ、グラウンド行こう。堂々とサッカーで対決すれば、俺が何の用で呼びだしたのか分かるだろ」
「サッカー? 十一人制でやろうってのか」
「は? なわけないじゃん。五対五ぐらいなら、今いる人数で何とかなるけど……俺は三対三でも一対一でも、何でもいい。目的は、目の前のおまえをブチ抜くことだけだし」
翔に向かって、猿渡は呆れのこもったため息をついた。
そのまなざしには、相変わらずやる気というものが感じられない。
「だったら一対一でやるぞ。そんな勝負に巻き添えで負ける人間なんか増やすことない」
「それでいいよ。ただし、負けるのはおまえの方だけどな!」
胸を張って指を差す翔にさっさと背を向けて、猿渡はグラウンドへと歩き出した。
「なあなあ。何であいつ、あんなにノリが悪いわけ? ふつう、なんだとー、ってかんじに盛り上がるもんじゃないの……ッスか?」
当然のように後を追うべく動いたサッカー部員たちの中から、翔は薮を引き止める。
「おまえって、ノーミソ小学生のままか」
「むむむっ」
「それより、ほんとに一対一でいいのか? サポート、まったくなしだぞ」
「うん。何人いたって俺がやることは変わらないし。それに、サッカー部のひとたちはみんな俺の味方っていうか。一瞬でも、敵側につかれるのはなんかやだ! っス」