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山賊リーグへようこそ  作者: 十七夜
1:出会い
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球技大会1

「ヒ、メ、ダ! ヒ、メ、ダ!」


午前九時を数分後に控え、サッカーコートが二面とられたグラウンドでは、クラスメートらによる応援コールが湧き起こっていた。


私立兎ヶ丘学園では、毎年九月最後の金曜日に、一、二年生によるクラス対抗の球技大会が催される。

生徒による投票で、今年は、女子の種目はバスケット、男女混合は卓球、そして男子はサッカーという結果に決まった。

過去二年にわたってサッカーは女子の種目に採用されており、今年の投票でもなかなかの接戦だったらしい。

男子は、サッカー。この種目決定に、一年F組の姫田しょうぐらい歓喜した生徒はおそらく居なかっただろう。

球技大会には、その種目の部活動に所属する生徒は試合への出場は認められず、審判を担当させられる、という決まりがあった。

ゆえに、現役のサッカー競技者でありながら試合に出場できるのは、翔のみなのだ。

しかも、ただの競技者ではない。

毎年県大会の地区予選で敗退してしまうサッカー部とちがって、夏には全国大会にも出場した、サッカープロリーグ1部に所属するクラブチームの下部組織ヴェミリオンU-アンダー18にて、十五才ながらレギュラー入りするほどの実力の持ち主である。

翔の存在によって、一年F組は種目決定直後から優勝候補の筆頭と目されていた。

サッカー部員が出場できない以上、こと個人技に関しては翔の一人勝ちに決まっている。

それでも翔の出場を許可するな、という声がごく小さいままに立ち消えとなったのは、近い将来プロになるであろう選手と対戦できるものならしておきたい、というミーハー意見の方が大勢を占めたからだった。

通常、男女混合種目の方が希望者が多いのに、今年は男子単独種目のサッカーに人気があつまり、かつ事前練習が盛況で、昼休みのグラウンドは鳥かごと呼ばれるパスまわしの光景で埋めつくされていたのも、似たような理由からだろう。


土のグラウンドで、スニーカーを履いた翔は、ふだんとはちがうボールの感触を確かめつつ、ひとりウォーミングアップをしていた。

乾いた土の上では、思いの外ボールが軽く感じる。

芝のピッチとおなじ感覚でボールを蹴れば伸びすぎてしまい、スパイクのないシューズではボールを追おうにも、いまいちスピードが出ない。

得意のドリブルは、あんまり生かせないかも。

そう懸念した翔は、土に水を撒いてくれたらいいのに、とおもった。

小雨がぱらりと降ってくれてもいいが、あいにくと空は高く、さわやかな秋晴れが広がっている。

あたりを見まわしていた翔は、ふと、相手のゴールキーパーに目を止めた。

キーパーグローブをはめた腕を胸の前で組んだ長身は、ゴールポストを背に、ふんぞり返って見える。

やる気があるのかないのか分からない、どこか不遜な表情をしていた。

男らしい容貌はどこをとっても「ずるい」くらいしか文句のつけようがないほど整っているいわゆるイケメンなので、本日の主役とばかりに声援を受ける翔の存在が、女子の人気を奪われたようで憎らしいのかもしれない、とおもう。


一回戦で翔のクラスと対戦するのは、おなじ一年のB組らしい。

体操服はみんな白の半袖でいっしょなため、B組は赤のビブスをつけて色分けしている。

キーパーだけはどちらのチームも紺の長袖ジャージを着ており、B組のキーパーである彼はその上からビブスを身につけていた。

ちなみに、審判をつとめるサッカー部員は、なぜか胸に『USAGI』の文字が入ったピンク色のユニフォームすがたである。

差別化を図るにはたしかに一目瞭然だが、翔には俺たちも試合に出たいのに、という無言のアピールのようにおもえてならなかった。



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