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切なさの温度計  作者: 桃苺子
1/1

*.°01

***






桜が咲いていた。



それを眺める君の長い睫毛が、影を落とした。





桜が綺麗だな


いや、でも


でも…

















目を覚ました。



本当にふと、目を開けた

そんな不思議な目覚めだった




「……」




何だろう、この靄は

鮮明な周りの景色に、脳がついていけない


ゆっくりと起き上がり、いつもの私の部屋を見渡した



何故か途方もなく胸が痛くなる

窓から見えた青空にホッとした時だった。



「んーっ」



「……」


同じベッドに勝手に入り込み

大きく伸びをする人の気配に、もう驚く事もなくなった。


家族じゃないのに

恋人でもなかったのに



隣を見ると、翔がすやすやと寝息を立てていた。


その無防備な寝顔に頬が緩む。



その高い鼻をつんと突っついてみた。

起きてよの意味と、起きないで、の意味を込めて…。




「…ん…桜?」


にゃむにゃむなんて漫画みたいな効果音を出しながら、翔が目を覚ました。


「おはよう、桜」


「おはよう…」



何故だろう?

毎日繰り返していた挨拶が、不思議と懐かしいと感じた。




「桜、元気?」


「へ?」


「元気?」


急に変なことを聞く翔

いや翔が少し変わっているのはいつもの事だ


昨日も、一昨日も、1年前も、10年前も




「んー元気ー」


「おー」


ふたりしてベッドで手足をバタバタとさせて、笑う。



何故開けっ放しにしておいたのか



横の窓から春風が部屋に入り、カーテンがふわりと舞った。











「春かぁ」


「春だねぇ」


なんて

緩すぎる会話を、これまた緩くベッドの上で繰り広げる。



「今年も、きっと桜綺麗なんだろうな」


「見に行きますかー」


ふたりで過ごす、もう何回か

いや何十回目かの春…



「…見に行こうね…」


急に、つんと鼻が痛くなると同時に、じわりじわりと浮かぶ涙は


私の思考とは関係なく

勝手に落ち、枕を濡らした。



「何?どうした?」


それを見逃さず、翔は私を覗き込んだ


「あくびですよ」


「あくびかい」


「そー」



本当に。

嘘はついてない

だって、悲しくなんてないのだ。


全くどうなっているんだ私の涙腺は。



「桜、おなかすいた」


翔の間抜けな発言に苦笑いをする。


「自分でつくりなさいよ」


「嫌だ。桜がつくって」


「私お腹すいてないもん」


「仕方ないな」


「あ、つくるならついでに私のも」


「結局、俺かよ」


ブツブツと文句を言いながら起き上がる翔の服の裾を掴み、彼が喜ぶだろう私のとびっきりの笑顔を見せた。


「翔の料理、美味しいじゃん」


「…ずる」



ふふ

操りやすいですね、彼は。

もうお手のもんですよ


「生姜焼きにしよっと」


「…朝からですか」


「朝じゃないよ、」


そう言って翔は、寝室の端にある時計を指差した。



時間は午前11時半を記していた。



.



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