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8.この世界について情報を探る(1)

一回で説明回を終わらせようとしたんですけど書き終わらなかったデス

 櫂を漕ぐぎいぎいとした音と水音が響く中、小舟は進む。


「そして肝心の、救世主さまが魔王と間違われた理由は――」

「尋常じゃないほどの魔力量、ですね? 今までの会話からいくと、今の俺が持つ魔力量はすぐさま救世主に――呪いを受けている人たちにとっては魔王に感じると」

「ええ、確かにそれもあるのですが。もう一つ、見た目での特徴がありまして……」

「……もしかして、この黒髪と黒い瞳ですか?」

「え、あ、はい。その通りです」


 櫂を漕ぐのを再開していたギムが、若干言いづらそうだったセリフを代弁すると、彼はあっさりそれを認めた。俺がよく読んでいたラノベやネット小説のネタにも、この黒髪と黒い瞳は、やたらとそう(・・)なっていることが多い。召喚や転生してくるのが日本人ばかりという設定は、もはや定番だ。おそらく作者が海外の人間をキャラクターに組み込もうとした時にでる、設定としての齟齬を嫌うからだろうと――俺ならそう思う。

 だが俺の瞳は真っ黒というよりはブラウンがかっていたはずなのだが。


「そんなに珍しいのですか?」

「いえ、この世界にも黒髪や黒い瞳の人間はいます。ただその多くが召喚に応じて降臨された勇者や救世主さまのようなお方の子孫です。大陸を超え、海を超えた遙か東の国にはその方々が集まって出来た国もあるという話を小耳に挟んだことはありますが、おとぎ話のたぐいと言われており真偽の程は定かではありません」


 なるほど、相対的な評価として召喚された黒髪&黒い瞳の人間はそういう存在だと思われるのか。


「そして召喚される異世界の方の多くは、自分を『ニホンジン』だと名乗ります。彼らは驚くほど素直に状況を飲み込み、対処にあたって頂けると伝え聞いております。おそらく神との対峙の末、お言葉を授かってこの地に降臨されるためだと教会では考えられております」


 俺は黙って何度か頷き、あぐらをかき、腕を組んで目を閉じ、次の質問を考える。

 勇者、もしくは救世主、そして魔王。

 魔王と勘違いされた『日本人』の末路。

 そして俺も、ともすれば同じ末路を辿っていたのだ。想像に、ぶるりと身が震える。


 呪い。人々の差別を拡大するように意識を操り、そして勇者と魔王の認識を逆転させる呪いか。


「呪いを解く手立てはあるの、でしょうか?」


 敬語を忘れそうになったのをなんとかごまかしながら俺は再び尋ねる。


「今のところはありません……先に申し上げたとおり、打開する力を持った方々は召喚と同時に始末されてしまうことが多いためです。世界的に見ても、今や呪いに対抗できている国が圧倒的に少ないのも拍車をかけており、それを発見する国力も低下しているのが現状です。――同じ理由で、我々自身が異界から勇者様や救世主様を喚び出す召喚術を使うのも難しいのです」

「ですからジンノ様は今や本当に希少な存在なのです。どうか我らに力をお貸しください。それと私達に敬語は不要です」

「あ、ありがとうございます。力を貸すのはやぶさかではないのですが……肝心のその方法が思いつきません」


 頭を下げるリゼに、俺も頭を下げ返す。今の俺が凄いステータスのパラメータを持っていたとしても、それを振るうための方法がなければ意味がない。


「それは我らの国に到着してから考えましょう。今はまずこの国を脱するのが先決ですから」


 敬語は不要ですよ、と念を押され、俺は苦笑交じりに「わかった」と返事を返した。代わりに俺に対してもへりくだった敬語をやめてもらうように頼む。どうにもむず痒くてしかたがないのだが、二人は渋った。結局ギムが簡単な敬語で話すことに、リゼは敬語をやめることで折り合いがついた。ギムはかなり頭が堅いようだ。


 しばしの沈黙を経て、小舟が岸についた。どこまで離れたのかわからないが霧は薄くなっており、近くの木に二頭の馬で引く馬車――というか幌付きの台車? が止めてあった。これからはこの馬車に乗り換えて進むらしい。



 道の舗装が芳しくない道を、ガタガタと揺れる馬車が進む。

 ステータスのめちゃくちゃな補正のおかげか、俺は元の世界で乗り物酔いがひどい方だったのだがまったく吐き気も頭痛も湧いてこない。さらに、まともなクッションもない(一応寝るときに使う布を敷いてはいるのだが)簡易な馬車の中で尻も痛めることはなかった。


 俺は日が傾きかかった、のどかな平野が連なる景色を眺めながら、現状でこの世界を救うために出来ることを考えていた。

 ステータスは何の問題もない。有り余るほどの力を手に入れたのは、脱出するために走ってみたり、跳んでみたり、着地した時に怪我一つなかったり、今も何の苦もなく揺れる馬車の中で過ごせていることからも感じられた。あれ? おそらく訓練を積んでいるとは言え、同じように行動したり過ごしているリゼって凄いヤツなんじゃないか?

 そのリゼは今、俺と反対側の縁に背中を預け、俯いてすぅすぅと寝息を立てている。この後の野宿で火の番をすることになっているのだ。休める時に休むのは重要だろう。

 といっても、いざとなればリゼはすぐさま戦闘に移れるらしい。馬車に乗ってから暇だった俺はギムから彼と、彼女に関する話を聞いていた。


 曰く、この救出作戦は神のお告げを受けて即座に発令されたものらしく、迅速な行動が求められたために、自分と彼女、そして粗末な移動手段しか確保できなかった。

 だが彼女は所属する教会内では屈指の実力者らしく、特に潜入任務などにその能力の真価を発揮するらしい。

 話を聞いていくとどんどん彼女のイメージが忍者――女性だからくノ一にしか見えなくなっていった。先に見た身体能力は更に、壁走りすら出来るらしい。どんだけだよ。

 弊害として、口調がサバサバと、いやむしろ殺伐として感じられるところもあるが、少女のようなあどけない瞳を向けられると――あれ? そういえば彼女は何歳なのだろうか。


 元いた世界とは違って、この世界には人間以外にも様々な知性を持った存在がいるらしいのは、先の会話からわかっていることだ。だが俺はその存在たちに対する知識をかけらも持っていない。彼女たちの種族が、見た目通りの年齢なのかもわからないのだ。今はギムや、起きればリゼからも話を聞くことが出来るだろうが、その話に含まれる情報だって物によっては完全という保証はないだろう。情報とは、多種多様な媒体、存在から入手し、精査することでその存在価値を上げるのだから。

 と、そこまで考えていた時、履いていたスラックスのポケットに入りっぱなしのそれが、馬車の揺れでポケットごとズレて床を叩いた。

 スマホ。

 神の、祝福を受けたスマホだ。


この次の項目(たぶん10話か11話)で序章が終わるので、一旦話数を整理して再投稿するかもしれません。よろしくお願いします

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