4.異世界に喚び出されて、そして
めっちゃ遅くなりました。申し訳ない
勇者というものに対する憧れは確かにあった。
小さな頃に見たヨーロッパの児童文学に、小さな子どもが悪いドラゴンを退治し、改心したドラゴンに乗って不思議な世界を旅する話があったのを覚えている。その後に触れた小説もファンタジーと言えば勇者と呼べるような存在が、活躍するものが多かった気がする。
そんな物語に惹き込まれ、ワクワクしながらページをめくったものだ。
その中には悪い魔王や悪魔に騙されて、囚われてしまう話もあった。
その勇者はどうやってそこから脱出したのだっただろう。
……よく思い返せば、ご都合主義的な展開ばかりだった。
パーティの仲間が救いに来たり、
その国の王子や王女が救いに来たり、
奇跡が起こって囚われの身から開放されたり。
だが今の俺に、それは期待出来ないだろう。なにせ召喚されたばかりで知り合いもいない。
神の奇跡は、おそらく負荷が大きくてルール違反になる可能性がある。
そもそも奇跡なんて干渉が出来るなら俺を送り込まなくてもいいはずだから。
拘束が解除されないまま、俺は横たわった芋虫のごとく、冷たい床の上に放置されていた。
この拘束は非常に強力で、若返った肉体の精一杯の力でもどうにもならなかった。体感で小一時間も全力を出し、俺はヘトヘトになってもう動けずにいた。
冷たい床が、火照った体を冷やして心地よく感じてしまうのが忌々しい。
思考だけははっきりしているのが、更に忌々しかった。
俺はこのまま処刑の時を待つしか無いのだろうか。ご都合主義な展開も奇跡も期待できないとすれば、自分の力でどうにかしなければならないが、俺にはそんな力は――
そこで、気づく。今一度、自分のステータスを確認してみる。
転移中でも確認できなかったステータスの一番下、俺はそれを見つけた。
<ユニークスキル:『未完成』>
口から漏れることのない乾いた笑いが、喉を鳴らす。
いくら物語を紡ごうとも完成に至らないのは、このスキルのせいだったのか。それとも、こんなスキルを手に入れてしまうほど、俺はどうしようもなかったのだろうか。
しかもこのスキルは常時発動型スキルのようで、つまるところ、このスキルが発動したところで今の状況に変化はないということなのだ。
ああ――。
結局俺は、何も残せないまま死んでいくのか。
そんな思いがここに来て去来する。震災を辛くも生き延び、家族を失って、それでもなんとか生き続けながら、書いては詰まり、書いては筆を折っていた。
無念だ。そうとしか言いようがない。
不意に目元に冷たさを感じた。それが自分が流した涙が、光の帯に吸い込まれて滲んだものだとすぐには分からなかった。
そしてその夜は更けていった。
遅くなった上に短くて更に申し訳ない。元々3話の中に入る予定だった部分ですのでご了承ください。
ここで区切らないと次の話への繋がりが雑になりそうだったので