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こんな夢を観た

こんな夢を観た「昆虫工場」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/08/16

 創業がいつなのかもわからない、それはそれは古いデパートの地下深く、わたしは先月からアルバイトに来ていた。

「むぅにぃ君、『ミイデラゴミムシ』のモールドを、ちょっと取ってきてもらえる?」南山班長がわたしに頼む。

「はい」わたしは、別室へ取りに行く。

 奥の壁が見えないほど広い部屋は、背の高い棚で埋めつくされていた。大きさもさまざまな、樹脂製の型が置かれている。

 わたしは、「ゴミムシ」のラベルを探し回り、ようやく「ホソクビゴミムシ科」の棚で、「ミイデラゴミムシ」のモールドを見つけることができた。

「あった、あった」表面のホコリをふうっと吹き払う。ヘッピリムシの形をしたレリーフが確かに見てとれる。

 何を隠そう、実はここ、昆虫工場なのだ。


 工房に戻ると、南山班長にモールドを渡す。

「持ってきました」

「ああ、ご苦労さん」班長は、モールドを受け取ると、さっそく作業台に取り付け、ヘラで粘土を盛っていった。

「こんな虫なんか作って、どうするんですか?」わたしは聞く。「臭いし、灯りに飛んできてうるさいだけじゃないですか」

 班長は、ぶ厚い丸メガネ越しにわたしを見つめ返す。

「ボクらが必要かどうかは、どうだっていいんだ。今月の出荷までに、あと278,761匹生産しなくちゃならない。それだけさ」

「はあ……」わたしは生返事をした。

 世界中の昆虫がここで作られる。コレクターの憧れモルフォチョウも、政治家の大好きなタマムシも、そして台所でお馴染みのあの黒い連中さえも。

 きれいな昆虫だけ増やして、害虫は後回し、などというのはできない相談だった。


「そうだ、『カブトムシ』の増産が必要だったな。小林君の所へ行って、手伝ってきてくれるかい?」

「わかりました」わたしは一番奥の、パーティションで区切られた作業場へと向かう。

 パーティションの中では、10人ほどの職人が「カブトムシ」をせっせとこしらえていた。その中心の席で、あれこれと指示を飛ばしているのが小林先輩だ。

「小林さん、班長から言われて来ました。手伝いをしてくれって」そう声を掛ける。

「お、そうかっ」ぽっちゃりとした丸顔で、とてもこの道60年の熟練工とは思えない。「むぅにぃ、お前は虫作りはまだだったよな? どうだい、今日は一つ、『カブトムシ』に挑戦してみるか?」

「えっ、いいんですかっ?」わたしは思わず叫んだ。

「うん、いいよ。毎年、余分に作るんだ。何匹か失敗したところで、かまいやしない」


 空いている席に座って、手取り足取り、教えられる。

「いいか、盛り付ける粘土は多めにしとくんだ。乾くと、量が減っちまうからな」

「はい、あ……はみ出しちゃった」慌てて、ヘラですくい取る。今度はえぐりすぎてしまった。「うーん、難しい。それに、すぐ気泡が入っちゃう」

「ははは。初めからうまくはいかんさ。躊躇してちゃだめだ。詰める時は、一気にやってしまう。細かい所は、全体の形を整えたからだ」

「ええ、わかりました」 わたしは、先輩のアドバイスに従って、作業を続ける。根が凝り性なのか、つい夢中になってしまう。


 なんとか出来上がったものの、ツノはいびつだし、前翅はあちこちが凹んでしまっている。

「こんなんじゃ、世の中に出せませんよね」わたしはしょげながら言った。

「いや、十分、十分。カブトムシが、どれも型で押したように同じだったら困るじゃないか。それくらいでちょうどいいんだ」

 実際、「型で押して」作ったんだけれど。でも、ちょっとだけ自信を取り戻した。

「腕が上がったら、そのうち『新種』を作らせてやるぞ」と小林先輩。

「ほんとですかっ?!」

 わたしは、俄然、やる気が出てきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魅せられますね、昆虫は意外と好きなんですよ。 あの昆虫たちがデパートの地下で作られていたとは。 新種も作れるとは素晴らしい。
2014/11/20 22:26 退会済み
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