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青薔薇万華鏡  作者: くれは
麗人百面相
4/6

ななついわい・参

ニエの少年と薔薇の女の邂逅から、1週間後―――


うだるような暑さの中

山奥の集落を目指して軍用車両が1台、山道を進んでいく。


軍の誇る最新鋭の車両が何とも喉かな山道を進んでいく様はいささか不釣合いなものがある。


「しかしまあ、このような車でうらぶれた田舎の集落を訪れるとは。

住民達が驚くのではないでしょうか……時花ときか様」

後部座席で、軍服をきっちりと着込んだ青年が額を滴る汗をハンカチで拭いながら、問いかける。

夏の暑さに加えて、彼が苦しんでいる原因は他にもあった。

これぞ正しい着衣の手本とばかりに、この暑さにも関わらず、全部が全部きっちりとボタンは締められ、ジャケットもベストも、手袋すら外さずにいるのだ。

そんな恐ろしく模範的な着こなしに対して、何故か一石を投じんとばかりに

髪型は長く腰まで伸びた黒髪を後ろでひとつに縛っている。

本人の美意識には実に適ったスタイルらしいのだがこれがまた、この季節には大変暑苦しい。

悲しいかな、このたっぷりと蓄えられた黒檀のような黒髪のせいで、お門違いの努力も虚しく、

彼を模範的男子としてのいでたちから逸脱させてしまっているのだった。

自慢の眼鏡も湯気で真っ白に曇っている。

彼は暑さに息も絶え絶え、今にも意識を失いそうだった。


この男、壇ノだんのうら(みつる)は、融通が利かない。


隣席する男装の麗人は、壇ノ浦とは対照的に涼しげな顔で答えた。

「ああ、この車両ですか……その必要があるというだけです。もしもという事もありますから。

それよりも、壇ノ浦大佐。そんなに暑いなら一枚でも二枚でも脱げばいいでしょう?」

今にも溶けだしそうなほどにへたっている壇ノ浦に対して

立桐たちきり 時花ときかは汗の玉ひとつ、額に浮かべずに静かに座している。


「はあ……有事……そ、そうなのですか……脱ぐ…?いえ、男子たるものいかなる時も……身だしなみは……(貴女の前でなら尚の事……)」

大佐と呼ばれた男は、落ちかけていた眼鏡をなんとかかけ直すと

熱に浮かされた顔で時花を見返した。


「(暑いのは熱気のせいだけではない……)」

壇ノ浦は朦朧とした頭の中でそんな思いを巡らせていた。


「大佐?聞いていますか?…まったく貴方という人は。

どうにも人の話を聞かずにご自分の心の内に篭るクセがあるようだ。

……今回のご自分の責務を理解されているのですか?」

時花は呆れた様子で湯気の主に目をやり、少し考えこむと会話を続けた。


「ああ、それとも……」

彼女はいじわるそうな笑みを浮かべると壇ノ浦の顔を覗き込む。

「貴方も前線から小娘のお守に回されたことを苦々しく思っているクチですか」


ハッとして壇ノ浦は反論する。

「そんなことは断じてありません!!わ、私の任務は

集落の主とあなたの会合に同席し、あなたを護衛する事です!

決して、あわよくばこの辺りの名物のまんじうやら団子を……あれこれするつもりは」


しどろもどろになる壇ノ浦を見て、時花はプッと噴出した。

「権力欲よりも饅頭ですか……大いに結構!帰りに土産に饅頭をしこたま買いましょう!

それと、東京へ戻ったら…そうですね、資生堂へアイスクリイムでも食べに行きましょうか」

(もっとも、生きて帰れたら、の話ですが)


「はは……わたし……は……千疋屋の方が、好きですねえ」

熱に浮かされきった壇ノ浦には最後の呟きは聞こえていなかったようだ。

先ほどまでの冷やかな面持ちとは打って変わって

屈託の無い笑顔を見せる時花に、壇ノ浦はただただ魅せられていた。

何に例えようか、初めて会ったときから感じているこの感覚を。


また、あの言葉が彼の頭の中を駆け巡った。


「(暑いのは熱気のせいだけではない……)」


遠のく意識の中、瞼のうらに浮かぶのは彼自身の後姿。

これは……丁度1週間前、立桐邸の門前に立つ自分の背中だ。


そうだ、あの日貴女と出会った瞬間から

私の心は熱に浮かされている――


壇ノ浦は幾日か過去の己を思い描きながら、意識を失った。


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