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青薔薇万華鏡  作者: くれは
麗人百面相
3/6

ななついわい・弐

翌朝、村の広場に呼び出された僕は村人に囲まれていた。

村をあげての祭事だ、恐らく村に住むものは全員ここに集まっているのだろう。

輪の中心には僕、村長、傍らには母。


「今年のニエは、タエんとこの坊だあ。」

村長は集まった村人に呼びかける。

村人たちは、母の名前を聞くなりざわついた。


(7年前の事件の女かあ……)


(トオル様さ騙して……逃げたくせに……)


(あいつが村さ来なければ……)


祝いがこんなに殺伐としているものか。


僕はこいつらの為に、神に祝詞をあげるわけじゃない。

ただただ、母の為に。それだけだ。


「これが成功したら、かあさんはもう、かなしくないんだよね」

「え、ええ…」


歯切れ悪く返す母を押しのけ、村長が割って入ってくる。

「んああ、勿論だども!お前が社に行って、ヌシ様へお供えをする、そして7日の間お世話をする。

そんだけの事じゃ。そしたら、おまえも、母ちゃんもおらたちの仲間と認めてやる」


別にこいつらに認めてもらいたいとか、そんな事は無いのだけれど。

それでも、母への冷遇がなくなり、平穏に暮らせるならばどう思われようと構わない。


「ミサキ、ごめんね。ごめんね…」

「泣かないで母さん。どうしてあやまるの?僕、できるよ。だから泣かないで」


「ごめんね……私は……だわ……おねがい……を……■して」


「えっ……??かあさん、今なんて……」


その言葉の意味を聞き返す間もなく、母と僕は村人たちに引き離された。


母から告げられた言葉が、そして先日薔薇の女に告げられた言葉が脳裏をよぎる。

この儀式は一体なんなのか。

村の意図を、母の意図を問いただすべきなのだろうか。


しかし、僕は振り返るのが怖かった。


どちらにせよ、この階段を進むしか選択肢は無いのだから。

それならば、たとえどんな真実が隠されていたとしても

今の自分にできることはニエとして社へ進む、これしか無いのだ。


僕は、すうっと深呼吸をした。

胸元に忍ばせた、ハンカチーフからかすかに薔薇が香る。

それは、不思議な事に、遠い記憶を呼び起こす香りだった。


そして、更に不思議なのは、呼び起こされたその記憶は僕自身のものでないという事だ。


【幻視】とでも言うべきだろうか。

かつてここで起こったのであろう【事件】が眼前で繰り広げられている。


社の方から、若い男が、ゆらり、ゆらりと階段を降りてくる。

手には今しがた使われたばかりであろう、刀身の赤く煌く小刀をぶら下げて。

真っ白な着物は、夥しい量の血液がその地紋にそって吸い上げられている所為で

まるで赤い花が乱れ咲いているように、布地を華々しく染め上げていた。


するとそこへ、若い女が懐に飛び込んでいく。

凶行の痕に恐れる事もなく、愛情と慈しみをもって男をしかりつけている。


ああこれは、土地の記憶か、でなければ母の記憶だろう。

(ぐしゃぐしゃに泣き腫らした女の顔は、僕の良く知っているものだったからだ)


「かあさん……?」


僕の呼びかけに2人は気付く様子はない。

そして、2人は何か話しているがあちらの声も僕には届かない。


社から降りてきた血塗れの男。


ありし日の母。


親密な間柄と思われる2人。


きっとあの社には、母に、そして僕に関わる何かがある。

そう確信した途端、先ほどまで全身を支配していた恐怖感はすうっと消えてしまった。


僕は母をこれほどまでに苦しめるものの正体を知りたい。

そして、それが自身にとってどのような存在なのかを知りたい。


僕は、速やかに山頂にそびえる社へ歩みを進めた。

手にはあのハンカチーフを握り締めながら。



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