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狼狽える水の精霊編。

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 檸檬と亨は、熱いコーヒーを前に、休憩を取っていた。

 亨が檸檬に尋ねる。

「でも、本当に行って良いのかなぁ?」

 実は試験が終わった来週の週末、

二人は、桃と精霊達と一緒に光輝のところに泊まりに行くのだ。

「うん。って言うか、亨がいないと意味無いだろ?

これまでの経緯を全部亨に話すってことだったし。

それに俺も何回か食事には誘われて行ったことがあるけど、

理事長先生、お邪魔すると凄く嬉しそうなんだ、いつも。」

「…そうなのか?」

「うん。今、俺が試験勉強中だから桃の面倒を見てもらってるけど、

そうじゃない時は、びとーも香恋も毎晩みたいに理事長先生のところに行ってるよ。

桃が寝てから。」

「ふうん。」

「玲さんも料理が趣味だって言って、美味しい物いっぱい作ってくれるんだ。」

「玲さんって、もしかしてあの秘書の人も一緒に住んでんの?」

「うん。あと、今旅に出てるけど、いつもなら理事長先生の双子のお兄さんもいる。

だから、精霊達を入れると六人、か…。」

「六人?五人じゃないか?」

「いや、六人だよ。瑞輝さん、双子のお兄さんにも一人精霊が付いてるから。」

「…ほんとに、精霊率、半端ねぇな。」

 感心する亨に、檸檬は微笑んだ。

「まあね。」

 亨が躊躇うように檸檬を見た。

「…檸檬はさ、精霊と契約するの、不安じゃなかったのか?」

「うん。まあ、少しは、ね。だけど、桃の時と違って自分で考える時間が持てたから。

自分で考えて出した結論だから、今のところは後悔してないよ。」

「そうか…。」

亨は安心したように微笑んだ。そこで檸檬は、思い出したように言った。

「あっ。桃と契約してるびとーと、

俺と契約してる香恋は、ちゃんと紹介しておいた方が良いよな?

ちょっと桃の部屋、覗いてみよっか?」

「うん。」


二人が桃の部屋に行くと、びとーが居心地悪そうに座っていた。

「あれ?何でびとー、女性陣の抱き枕になってんの?」

「…俺が聞きたい。」

苦虫を噛み潰したような表情で、炎の精は言った。

「寝てる桃って、起きてる時以上に重くない?大丈夫?」

「身動きできねぇから、正直、辛くなってきた。」

「やっぱり。」

檸檬はちょっと笑った。

「実はね、びとーと香恋には、亨のこと、ちゃんと紹介しておこうと思って。」

 檸檬が言うと、びとーは頷いて、亨に目を向けた。

「俺はびとー。属性は炎だ。」

「檸檬と仲良くさせてもらってます、日下部 亨です。

一人っ子なんで、桃ちゃんのことも、妹のように可愛く思ってます。宜しくお願いします。」

 礼儀正しい亨に、びとーは少し笑った。

「学校での檸檬は、どんな感じだ?」

「勉強ができて、運動もできて、なのにクールで凛々しいもんだから、

女の子にモテちゃってます。」

 そう言う亨の笑顔は屈託がない。

「そうだろうな。なら亨は?」

 びとーが問い掛けると、今度は檸檬がニヤッと笑って答える。

「勉強もできるし、スポーツも万能、それでいて童顔で可愛いから、

女の子に人気があるよ。」

「じゃあ、二人でいると目立つだろう?」

 二人は同時に頷いた。

「やっぱりな。」

 三人で話していたせいか、香恋が身動きする。少し目をこすった後、潤んだ瞳を上げた。身体をピッタリと密着させている相手とかなりの至近距離で見つめ合うこと、約五秒。

瞳を見開いて、パパパッと後ろへ逃げた。小動物のようである。

「…あっ、…や、な…。」

 何が言いたいのか、もはや意味不明だ。

「おはよう。お嬢さん。」

 びとーが人の悪い笑みを浮かべて言った。

見つめ合ったエメラルドグリーンの潤んだ瞳を美しいと思ったことなど、

全く顔には出さない。

「よく眠れたか?」

「なっ、何見てんのよっ?!」

「寝顔。」

 あっさり言うびとーに、香恋は手が付けられない程狼狽した。

そんな様子を見て、びとーはわざとらしく首を傾げる。

「…大体、俺が見ようとした訳じゃなく、お前が見せたんだろうが。」

 そしてニヤリと笑った。

「瞳を閉じて、俺の方を見上げるから、キスのおねだりかと思ったぜ。」

 明らかに、感情を大きく揺さぶられたことに対する報復である。

 だが、寝起きで冷静になり切れていない香恋は、目を白黒させ、

頬を真っ赤に染めて叫んだ。

「そっ。」

「そ?」

「そんな訳、ある筈ないでしょーっ!」

 苦笑しながら、檸檬が割って入った。

「…びとー。もうそれくらいにしてあげて?香恋が可哀想だよ。」

 混乱していた香恋も、檸檬と亨にやっと気が付いた。

「…檸檬。亨くんも…。」

 檸檬はちょっと頷いてみせる。

「亨のこと、ちゃんと紹介しておこうと思って。」

 香恋は檸檬に頷き返して、亨に微笑もうとするが、

まだ混乱が治まらずに泣き笑いのような、儚い表情になる。小さく呟いた。

「水の…、香恋よ…。」

「…少し俺につつかれたからって、そんな顔すんなよ。亨が困るだろう?」

 呆れたような表情になるびとーに、亨が首を振った。

「いいえ。多分、女性にとっては、寝顔を見られるっていうのは、

大変なことなんじゃないでしょうか?普通は家族か恋人にしか見せない顔ですし。」

「…優しいのね、亨くん。」

 少し香恋の表情が緩む。逆にびとーの方は困り顔だ。

「そんなもんなのか?」

「そんなもん、だと思います。」

 今度は檸檬が底意地の悪そうな笑みを浮かべる。

「と、いうことで。びとー、責任取った方が良いんじゃない?」

「責任って言われても、なぁ…。」

 びとーにしてみれば、自分が行動を起こしたことによる結果ではないのに、

どんな責任が自分にあるのか、理解できない。

 だが、檸檬にとってはびとーも大事だが、

この場は自分の使い魔である香恋の方に味方してあげたいと思ったのだ。

からかわれているのを見ていたせいでもあるだろう。少々強引に話を進める。

「そうだね…。香恋のお願いを三つ、聞くっていうのはどう?」

「何で三つも聞く必要があるんだ?」

 炎の精に問われて檸檬はニヤッと笑った。

「寝顔を見てしまった刑だろう、身体をくっつけてしまった刑だろう、

それから最後に心無く香恋をからかった刑。」

 勝手に寝顔を見せられて、身体を密着させられて、

思いっきり狼狽させられた炎の精から見ると、かなり非情である。

「…何か、俺がすっごく損しているような気がするんだが。」

「当たり前だろう?香恋の主人である俺がジャッジしてんだから。」

「…贔屓してると、あからさまに言ってるね、檸檬。」

 呆れるような亨に、檸檬は天真爛漫な笑顔を向けた。

「うん。当然だろ?」

「ふふっ。」

 得意気な檸檬と困り顔のびとーを見比べて、香恋は吹き出した。



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