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<5>

亨の打ち明け話編。長いです。

<5>


「…檸檬。ちょっと良いか?」

 桃を連れて学校を出ると、躊躇いがちに亨が口を開いた。

「何?」

「久し振りに、桃ちゃんに会ったけど…、何か…、精霊率、高くない?桃ちゃんの周り…。」

 檸檬は一瞬、親友が何を言ったのか、掴めなかった。

一拍遅れて、その意味するところに気が付く。

「とっ、亨?!」

躊躇いを隠しもしないまま、亨は続けた。

「…桃ちゃんがひとり連れてるから、檸檬には言っても大丈夫だよな。

実は俺、小さい頃から視えるんだ、精霊とか妖精とか…。」

 思いもよらない親友の告白に、いつもはクールな檸檬も口を開けて硬直している。

その様子を横目で見ながら、不安そうに亨は続けた。

「これまで、誰かに話しても信じてもらえなくって、頭がおかしいみたいに言われるから、あんまり打ち明けたこと無かったんだけど…。」

 亨は瞳を伏せた。

「檸檬にだけは知っていてもらいたいって思う反面、

檸檬にまで異常だって思われるのも怖くて、なかなか切り出せなくて…。」

 そういえば、檸檬も香恋と契約したものの、香恋には桃に付いていてもらっていた為、自分が連れている姿を亨に見せたことは無い。

「そうだったのか…。凄いな。」

 笑顔で言った後、檸檬は桃の手を取り、亨に向き直った。

「亨。悪いけど、もう一回理事長先生のところに行って良いか?」

 亨は素直に頷いた。

「理事長先生!」

 一度は帰った筈の檸檬が血相を変えて飛び込んできた為、光輝も玲も驚く。

「どうしたんだい?檸檬くん。」

「すみません!でも…。」

 檸檬が亨に促すような眼差しを向けると、亨は頷いて口を開いた。

「桃ちゃんの肩に女性がひとり、俺には透視の能力は無いんで確実ではありませんが、

理事長先生と秘書の方の胸のポケット、微かに気配を感じるので多分ひとりずつ、

そして事務局にいる凄い綺麗な男の人も。」

 亨は真っ直ぐ光輝を見た。

「精霊、ですよね?」

「「えっ?!」」

 驚く光輝や玲にも、実は、仕事中のびとー以外の精霊達の姿は見えていない。

ただ各々、自分の胸に一人隠れていることをなんとなく感じるだけだ。

「…実は俺、視えるんです。子供の頃から…。」

「亨くん。檸檬くんも、座って。」

 光輝が言い、玲が内線でびとーを呼び出す。

それから玲は冷たい麦茶を人数分、用意した。

小さくなって桃の肩に座っていた香恋も、大きさはそのまま、見える姿になる。

テーブルの上に降り立った。

水の精に倣って、土の精霊、雷の精霊も、小さい姿のまま現れ、テーブルの上に座る。

「改めて確認するけれど。」

 びとーも現れて、光輝の横に座る。

その膝に桃を座らせるのを確認して、光輝は切り出した。

「亨くんには見えるんだよね、精霊が。」

「…はい。」

「そして、人間の姿になっている精霊も見分けることができる。」

 亨は堅い表情のまま、頷いた。

「その通りです。」

「まぁ、桃ちゃんにも見えているようですから、

他に見える方がいても不思議ではありませんが。」

 玲が言うと、光輝は嬉しそうに微笑んだ。

男の亨でも惚れ惚れするような笑顔だった。

「でも、その内の一人が檸檬くんの親友で、しかもこんな良い子だっていうのが嬉しいな。運命の不思議を感じてしまうよ。」

 檸檬以外にも笑顔で受け入れてくれる相手がいたことに、亨は喜びを隠しきれない。

頬を紅潮させて話し出した。

「俺、小さい頃から、幽霊は見えなかったけど、精霊や妖精の姿は見えていて…。」

 みんな頷きながら聞いている。

「でも、それを言うと、両親にさえも信じてもらえないばかりか異常だと思われて…。

だから、親友の檸檬にも何回打ち明けようと思ったか判りませんが、

その度に檸檬にまで疑われたらって、異常者のように思われたらって考えると、

怖くて怖くてずっと言い出せなかったんです…。」

「不安になって当たり前だね。…でも多分、檸檬くんなら大丈夫だったよ。

桃ちゃんにびとーが付いた時も、驚いたのは一瞬で、

その後は、普通の人間から見ると異常とも言えるこの状況に、

しっかり順応していたからね、僕達以上に。」

と光輝が言うと、亨が驚いて声を上げた。

「えっ?!桃ちゃんと契約した精霊がいるんですかっ?!

ただ、桃ちゃんを慕って側にいる訳じゃなくてっ?!」

 確かにダウン症である桃と精霊が契約しているなんて話は、常軌を逸している。

「じゃあ、さっき肩に乗っていた女性は…。」

「いえ、彼女ではありません。今、桃ちゃんがぴったりくっついているでしょう?」

 玲が言うと、亨は桃を抱っこしているびとーに視線を移した。

炎の精は微かに頷いて見せる。

「じゃあ、桃ちゃんの為に、人間に化けてまで仕事までしてるんですかっ?」

「いや。これは成り行きなんだが…。」

 だが、亨は瞳を輝かせた。

「そうだったのか~。凄いな~。」

「…で、亨くん。今君は、誰か精霊と契約しているのかい?」

 亨は首を振った。

「いえ。俺は見ることはできますけど、

契約っていうのは、これまで一度もしたこと無いんです。」

「…そうなのか。」

 頷いた光輝は、真剣な瞳で亨を真っ直ぐ見た。

「亨くんにお願いがあるんだ。」

「お願い、ですか?」

「うん。」

 光輝だけでなく、その場にいた、桃以外の全員が真剣な顔で見つめてくるので、

亨は緊張で顔を強張らせた。

「何でしょう、か…?」

「桃ちゃんの為に、協力してもらえないかい?」

 亨は光輝の言葉を反芻する。

「桃ちゃんの、為に…?」

「うん。その力を桃ちゃんの為に使ってほしい。」

 亨は顔を上げた。

「桃ちゃんは俺にとっても可愛い妹です。俺にできることなら、言って下さい。」

 亨のこの思い切りの良さは、確かに檸檬と似通ったところがあると、

好意的に感じる大人達だ。

「桃ちゃんが精霊と契約してしまった以上、

それに絡むトラブルも出てこないとは限らない。

だからもし、悪意を持って桃ちゃんに近付く精霊を見掛けたら、

檸檬くんや僕達に教えて欲しいんだ。」

「要するにセンサーの役割をすれば良いってことですね。」

 頭脳のキレも良く、余計な説明を必要としない亨に、

更に大人達は顔には出さずに感心した。

こういう少年は檸檬くらいかと思っていたが、

類は友を呼ぶというのを目の当たりにした気分だ。

「判りました。…いつも桃ちゃんと一緒にいられる訳じゃないけど、

俺にできる範囲で頑張ります。」

「ありがとう。」

 みんなの笑顔を向けられて、亨は益々嬉しくなる。

これまで忌み嫌っていたこの能力を認め、必要としてくれる相手がいるのだ。

そしてその中には、自分が大切に思っている親友の檸檬もいる。

「ありがとうって言いたいのは、俺の方です。これから宜しくお願いします。」

 亨は朗らかに笑った。




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