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学校は夏休みに入った。今日から檸檬と亨は桃を連れて塔にお泊まりに行く。
楽しみにしていた桃は勿論ゴキゲンだが、檸檬も亨も気持ちの上では桃と大差なかった。
塔に着くと、子供達は学校の体育館へと走っていく。
何か身体を使った遊びをするらしい。
「…檸檬くんは元気だね。若いからかな…。」
光輝は苦笑した。同じ目に遭っている彼は、未だに身体が本調子とは言い難い。
更に言えば、夜毎悪夢に魘されてもいる。
だが、光輝の言葉に無言で頷く壮や香恋も同じようなものなのだろう。
玲が飲み物を用意し、それぞれの前に好みのものが置かれていく。
一息つきながら、香恋は瑞輝に言った。
「瑞輝。今回のことでトレジャーハンターを辞めるなんて言わないでしょうね?」
瑞輝は瞳を伏せて頷いた。
「…辞める。」
香恋の頬に朱が差した。
「だから瑞輝はガキンチョだって言うの!
トレジャーハンターとしてのプライドがあるなら、
こんなことくらいで落ち込んでいてどうするの?!」
「…誰が犠牲になってもおかしくなかったんだぜ?」
「それをみんなで上手く回避できたじゃない!
今後も、どんな代物が現れても、みんながいれば大丈夫だって、
どうしてそんな風に考えられないの?」
「目の前でみんなが苦しんでいたのを見て、どうしてそんな都合の良い解釈ができる?」
「瑞輝一人にだけ都合の良い解釈じゃないからよ!
…これがみんなにとっても、一番都合の良い解釈なの。
力を合わせて、瑞輝をバックアップできるってことが…。」
香恋の言葉に、その場にいた全員が頷いた。
「その通りだ。」
炎の精が口を開く。
「瑞輝はトレジャーハンティングに関しては、全て自分一人でこなそうとするが、
みんなお前の力になりたいと思っているんだぜ?」
光輝も微笑む。
「そうだよ。瑞輝はもっと僕達を信じて、頼ってくれても良いんだ。」
「そうでなくては、私達も寂しいです。」
玲にまで言われて、瑞輝は俯いたまま、瞳を彷徨わせた。
「だが…。」
「いつまでも自分を一人だと思うのは、かえって傲慢だ。
誰もが、周りに心を砕いてくれる相手がいてくれることで、
自分自身を成り立たせているのだから。」
壮が口を挟むと、もう口答えは赦されない雰囲気になる。
だがそれさえも嬉しくて、瑞輝の口元に笑みが浮かんだ。
「…判った。じゃあ、これからもお願いします!ってことで。」
「よし!」
壮があまりにも重々しく頷く為、みんなは笑いを堪えるのに必死だ。
そこで相棒の風雅がみんなに尋ねた。
「呪いの解けたダイヤモンドはどうします?」
「…瑞輝が持っていれば良いじゃない。」
香恋が当たり前のように言うが、瑞輝は反論した。
「浄化したのは香恋とびとーだ。どちらかが持っていれば良いんじゃないのか?」
だが正直、二人とも一番欲しいものを手に入れた為、ダイヤモンドに全く執着は無い。
「元々、瑞輝の獲物だったしな。」
「そうよ。瑞輝が持っていれば良いの。」
玲が口を挟んだ。
「大きさも輝きも最高級ですからね。
下手に流通させると、また人々の欲望に汚染されかねません。
瑞輝さんが持っていて、どなたか意中の方が見つかった時に、
その方にプレゼントなさったらいかがです?」
悩んでいたらしい瑞輝は、ようやく顔を上げた。
「考えるのが面倒だ。とりあえず塔に置いておく。
いつでも、この中の誰でも、必要に応じて使うなり売り捌くなりすれば良いや。」
トレジャーハンターらしくない、全く欲の無い選択だが、
瑞輝らしい、とその場にいた全員が思った。




