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色々視点が変わります。読みにくいかもしれませんが、ご容赦下さい。
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その頃、檸檬も悪夢に蝕まれ、苦しんでいた。暑いのか寒いのかも判らない。
凄く辛い。怖くて堪らない。
重い何かを心に押し付けられ、光も安らぎも手の届かないところに行ってしまっている。自分で自分を抱き締めるように、身体を小さく丸めた。
それでも震えが止まらないのが判る。
「…おにいちゃん…。」
桃の声が聞こえた気がした。
「桃!駄目だよ、側に来ちゃ!」
檸檬は必死に叫ぶが、その声は桃には届いていないようで、泣きそうな声が返ってくる。
「…おにいちゃん、だいじょうぶ?くるしいの?いたいの?
…ももがいるよ。ももがずっといっしょにいるから…ね。げんきになってね…。」
だが、桃の声が聞こえてから、明らかに檸檬を取り巻く空気が変わっていった。
暗く思い何かは段々薄く消えてゆき、
柔らかく温かい何かが自分を包んでくれる気がする。
檸檬にはそれが桃だと、桃の自分への思いが救いという形になって現れたのだと判った。
「…桃、大好きだよ…。」
囁くと、桃の涙声が返ってきた。
「…もももおにいちゃん、だいすきだよ。」
何故かとても安心して、檸檬は身体と心の力を抜いた。
苦しくて辛かった。何が起こっているのか思い出すこともできない。
それでも香恋は遠い遠い意識の中で、たった一人の男性を求めていた。
助けて欲しかった。でも助けてもらうことが赦されることなのかも覚えてはいなかった。ただただ優しかったアイスブルーの瞳が恋しかった。
ひたすらその輝きを求めて、手を伸ばした。
炎の力を体内のみで熾し、具現化しないよう抑え続けることは、
かなりの精神力を必要とした。それでもびとーは口付けを止めない。
水の精霊が色を取り戻していくのに反比例して、炎の精霊の色が失われてゆく。
もう一度部屋が明るくなる頃には、水の精霊の命の危険が回避されたと判る程に、
色が戻っていた。
「…。」
彼女が何かを言ったような気がして見つめると、微かにその指先が動くのが見えた。
炎の精霊は優しく掌を重ね、指を絡める。
「香恋。大丈夫だ。俺がここにいるから…。」
「…。」
何か答えたような気がしたが、まだ彼女は意識を失ったままだ。
びとーがまた唇を重ねた時、彼女の睫毛が震えたような気がした。
見つめると、微かに瞼が開いている。だが、またすぐに彼女は瞳を閉じた。
びとーは最後の力を振り絞って、僅かに残る呪いを浄化していった。
香恋は夢を見ていた。苦しい夢、辛い夢、痛みを伴う夢…。
もう止めて。助けて。誰かこの痛みを無くして…。
助けを求めて手を伸ばすと、誰かが指を絡めてきた。
そのアイスブルーの輝きが、紛れもないあの男性であることを示している。
抱き締められ、口付けを受けている感覚に、
夢だと判っていながら安心感が膨れ上がってくる。
夢でも良かった。とてもとても幸せな気持ちだった。
このままずっと彼の腕の中にいられたら、もう何も怖くないと思える程に…。




