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 夏休みが近くなってきた。檸檬には、楽しい夏休みの前に待っている敵がある。

そう、学期末試験だ。

「檸檬。週末泊まりに行って良い?解んねえとこ教えてもらいたくってさ。」

 試験を来週に控えたある日の帰り道。親友の日下部 亨が檸檬に言った。

檸檬は成績優秀だ。

だが、教えてもらいたい、と言っている亨も、成績が悪い訳ではない。

五教科総合の得点で、檸檬と十点以上引き離されたことが無いのだから。

つまり二人の通う中学校では、檸檬は勉強も女の子の人気でも不動の一位、

亨は不動の二位である。

これまでも、定期テストや全国模試のような大きな試験の前は、よく亨が泊まりに来て、一緒に勉強していた。

この二人が一緒に勉強するとなると、息抜きの時間も取るし、お喋りも挟むが、

本当に勉強する。

檸檬が不動の学年トップなのは実力だが、亨が二位なのは、檸檬のおかげでもあるだろう。檸檬に教えてもらうこの勉強会で、疑問を解消していることが大きいのだから。

「うん。良いよ。」

前髪をかき上げながら、檸檬はあっさり頷く。

「じゃあ、金曜日は学校の後、そのまま一緒に行っても良いか?」

 二泊二日コースである。

「うん。勿論。」

「ありがとう。じゃあ、また明日な。」

「じゃあな。」

 二人は別れて、それぞれ帰路についた。勿論、檸檬は桃のお迎えに向かう。

 普段精霊達は、家にいる時も外出中も、檸檬と桃にしか見えない姿でいる。

そして学校では、一人の人間として仕事をしている炎の精以外の精霊は、

使い魔関係者にしか見えない。

桃に関しては、精霊が姿を消していてもその姿を見えているらしいのは、

これまでのことから間違いないと言えるが、

両親も学校関係者にも、びとーが見える姿で現れた時を除けば、

これまで精霊に気付いた者はいない。

そういう檸檬も精霊の方で姿を消されてしまったら、全く見えなくなってしまう。

精霊と契約しているからといって、全ての精霊が見えるようになる訳ではないのだ。

だから、普通の少年である亨を家に連れて来ても何の問題も無いだろう。

 ただ一応念のため、金曜日のお迎えには亨も理事長室まで同行するということを光輝に話しておこうと思った。

理事長室の扉をノックする。

「こんにちは。」

 そう言って檸檬が扉を開けると、光輝と玲が笑顔で出迎えた。

「お帰り、檸檬くん。」

「お疲れさまでした。」

「はい。」

 檸檬が頷く。桃はまだ来ていない。

「あの、理事長先生。」

「うん?何だい?」

「俺、来週テストがあるんです。

それで週末、友達が泊まりに来て一緒に勉強することになって…。

だから金曜日のお迎えはそいつと一緒に来ます。」

 以前もテストの前に、檸檬が自分の友達と桃のお迎えに来たことがある。

その頃は使い魔騒動の前で、檸檬とその友達は児童玄関のところで桃を待っていたのを、光輝も見かけた覚えがあった。

「判ったよ。」

 笑顔で答える光輝もあっさりしたものだ。

「それで、どうだい?桃ちゃんとびとーと香恋は。」

 檸檬は少し微笑んだ。

「お父さんとお母さんと娘ですね、正に。」

 扉が開いて、不機嫌な声がした。

「檸檬!誰がお母さんよ!失礼ね!」

 水の精霊だ。桃の肩に乗っている。

確かにこの精霊の美しさを見ると、お母さんという表現は少し可哀想だ。

だが、桃を見つめる慈愛に満ちた瞳は母親と似通ったものがあると、檸檬は思っている。

「大体な、俺と香恋が夫婦ってどうよ?!」

 後ろから人間サイズの、見える姿での炎の精霊も入ってくる。

現在事務局長補佐として現実に働いている為、この姿なのだ。

「桃は娘でも良いぜ。可愛いしお利口だしな。

だが、このクソ女と、誰が好き好んで夫婦になるか!」

「それはこっちのセリフよ!」

「でも、びとーとかれん、こいびとどーしがいいよ!」

 ニッコリ笑顔で桃に言われたら、二人の精霊は返す言葉を失ってしまう。

悪気も下心も全く無いからだ。更にびとーにとっては主人でもある。

「なかよくしてね!」

 重ねて言われて困る二人に、檸檬や光輝は顔を見合わせて笑った。



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