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「…つ、つっかれた~…。」

 ばたん!と大きな音を立てて、雷の精が桃と手を繋いで入ってきた。

後ろには檸檬と亨もいる。

大人達は笑顔で迎えた。玲が口を開く。

「何か飲みますか?」

 子供達は何の遠慮もなく、床に次々に座り込んだ。

「玲さん!俺、抹茶ミルク!冷たいの!」

 叫んだ閃は桃に尋ねた。

「桃ちゃんは?」

「ミルクがいい!」

 閃はもう一度叫ぶ。

「桃ちゃんはミルク!」

「お二人はどうしますか?」

 玲が問い掛けると、檸檬が微笑み返した。

「じゃあ俺は、カフェ・モカのホットで。

で、玲さん。キャラメル系の飲み物のアイスって出来ますか?」

 玲は笑顔で頷く。

「はい。キャラメル・カプチーノで良ければ出来ますよ。」

「じゃあ、こいつはそれで。」

 檸檬が言うと、亨は頷いて玲に頭を下げた。

「お願いします。」

「…実はこいつ、キャラメル味が大好きなんですよ。しかもすっごい甘いヤツ。

だから飲むのは大抵キャラメル・マキアート、

もし他のものでも名前にキャラメルが付くヤツで。

その時の気温とかでアイスにしたりホットにしたりはしてますけど。」

 玲に正確に好みを教えておくと、ここに来た時にいつも考慮してもらえることを、

檸檬は知っている。

「そうなんですか。キャラメル・ティーもできますけど。どちらが良いですか?」

 玲に笑顔で言われて、亨は瞳を輝かせた。

「キャラメル・カプチーノとどっちが美味しいですか?」

「好みにもよりますね。基となる飲み物の性質上、

キャラメル・ティーはあっさり、スーッと飲める感じで、

カプチーノになると濃厚でコクが出る感じになります。

…今は動いた後で暑いでしょうから、

キャラメル・ティーのアイスの方が飲みやすいのではないでしょうか?」

「…うーん。でも、どっちも飲みたい…。」

 悩む亨に、玲はちょっと笑った。

「判りました。では、先にキャラメル・ティーを出しますね。その後にカプチーノの方を。逆にすると、多分キャラメル・ティーが味気なく感じると思いますから。

どちらもアイスで良いですか?」

「はい!」

「じゃあ、少し待っていてくださいね。」

「やった!ありがとうございます。」

 嬉しそうな亨に檸檬が言った。

「玲さんをコキ使うなよ。」

「だって、どっちも飲みたかったんだ。」

「贅沢者め!」

「…贅肉者って言われるより良いや。」

「そんなでろんでろんに甘いキャラメル系ばっかり飲んでいたら、

その道も遠くないな、絶対。」

「…そういう檸檬は、暑かろうが運動の後だろうが、

いっつもカフェ・モカのホットだよな。ワンパターンだ。冒険心が無いなんてジジくさい。」

「自分だってキャラメル系ばっかのクセに、よく考えてものを言えよ。

大体な、冷たい物は内臓を冷やすんだよ?」

 亨がわざとらしくため息をついて呟いた。

「…益々ジジくさい。」

「キャラメル坊やには言われたくないね。」

「…キャラメル坊や。って誰?!」

「お前に決まってるだろぉ!」

「モカジジイが偉そうに!」

 二人のやり取りに、大人達は必死に笑いを堪えている。

我慢できなくなった光輝の、くっくっという笑い声が漏れる。

掌で口を押さえたまま、言った。

「…こんな檸檬くんは、初めて見たよ…。」

 周りの大人達も、同様に笑いを堪えながら頷いている。

「いつもの檸檬は桃の良いお兄ちゃんか、冷静で頭の切れる少年だからな。」

「親友って良いものですね。」

 次々と大人達が言う中、水の精霊だけは少し寂しそうな顔になる。

「…檸檬も良いな。」

 香恋は瞳を伏せた。

 確かに香恋には、同じような年代の、同性の友達といえる相手がいない。

そういう相手は、この世界に召喚された時、遠い空間の向こうに置いてきてしまったし、ここに集まる精霊達も香恋を除いてみんな男で、同性の友達と言える相手はいない。

寂しいのは仕方のないことだった。

「…かれん。ももがいっつもいっしょにいるからね。」

 香恋の言葉の意味が判らなくても、桃には香恋の孤独を感じ、思いやる心があるのだ。心配そうでいて、とても優しい桃に、香恋は嬉しくなる。少し頬を紅潮させて言った。

「…ありがとう、桃ちゃん。」

 そして小声で付け加える。

「ホントに、なんて可愛いの…。」

 びとーがムッとする。

「何度も言うが、桃は俺の!お前の主人は檸檬!」

「あら。そんなこと言って良いの?今の一言で、みんなを敵に回したわよ?」

 確かに幾つかの視線が突き刺さる。

「桃ちゃんは、檸檬にとっては愛しい愛しい妹で、亨くんにとっては可愛い可愛い妹で、閃にとっては優しい優しい妹で、光輝にとっては大事な大事な生徒で…。」

 追い打ちを掛けるように続ける香恋を、びとーは両手を振って遮った。

「判った!もう良い!判ったから!」

「判れば良いんだよ。」

 香恋に代わって、檸檬が言う。

「大体、桃は生まれた時から俺のなんだからな。」

 そればっかりは事実なだけに、誰も反論も反発もできなかった。



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