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翌日、子供達は塔の中でかくれんぼをして遊んだ。
危険があってはいけない為、いわくのある品物を保管してある部屋は全て、
鍵を掛けてある。
塔というだけあって、長い螺旋階段を上ると、幾つもの階があり、
それぞれに幾つかの部屋がある。
鍵の掛けてある部屋を除いても、十分過ぎるほどの空間を有しているのだ。
子供達のかくれんぼにはうってつけだった。
桃には閃が付いていて、二人で一緒に隠れたり、
オニになってお兄ちゃん二人を捜しに行ったりしている。
塔に楽しそうな笑い声がこだましていた。
大人達は、遠くに子供達の歓声を聞きながら、リビングに集まっていた。
玲が飲み物の入ったマグカップを配っている。
ここには桃や檸檬の分を含む全員のマグカップがある。
模様や形、色が様々に違うマグカップは、実は玲が自分の給料で揃えたのだ。
今回亨が泊まりにきたことで、当然前もって亨の分も用意してあった。
が、残念ながら、子供達はかくれんぼに夢中で、今はコーヒータイムどころではない。
玲がそのマグカップを自ら選んで揃えたのには理由がある。
飲み物を用意するのも自分の仕事のひとつであると意識している彼は、
それぞれの好みに応じたものを出せるように、マグカップを変えているのである。
例えば光輝と瑞輝はエスプレッソをブラックのままで飲むが、
光輝は猫舌の為程々の熱さを好むし、瑞輝は熱々を好む。
壮はカフェ・マキアートのかなりぬるめを好むし、
びとーはカフェ・ロワイヤル、それも炎の精だけに火傷するような熱いものを好むのだ。これを難なく淹れられる玲は、賞賛に値するだろう。
だが、びとーの場合は炎の力に影響する為、一度にほんの少ししか飲めないのが、
難点といえば難点だ。
また、香恋はコーヒーよりも紅茶やハーブティーを好むし、
閃は抹茶ミルクが好きで熱いのも冷たいのも飲む。
風雅は熱々の中国茶を冷ましつつ飲むのが好きで、
玲自身は程良い熱さのカプチーノが良いと思う。
桃は基本的に常温もしくは冷たいほうじ茶かミルク。
檸檬の好みは光輝や玲と同じような熱さのカフェ・モカで、
砂糖は入れない派だが、ホイップクリームが浮かべてあると嬉しいらしい。
そして、亨の好みはこれから探るのだ。
飲み物を配り終えた玲が、光輝の向かい側に腰掛けて口を開いた。
「光輝さん。お願いがあるんですが…。」
光輝は顔を上げた。
「玲さんがお願いなんて珍しいね。うん、良いよ。」
内容を聞く前に承諾する光輝に、玲よりもびとーが驚いた。
「話を聞く前にOKしちまって良いのか?」
だが光輝は笑顔で頷いた。
「玲さんは無茶なことを言ったりしないから大丈夫だよ。」
「凄い信頼関係ね。」
水の精も驚いて言う。
玲は、少し嬉しそうな色を瞳に浮かばせて、口を開いた。
「ありがとうございます。…実はもうすぐ夏休みですよね。
できれば今回のように、桃ちゃんや檸檬くん、亨くんを何度かお泊まりさせていただいて、
閃と接する時間を持たせていただきたいのです。」
びとーは腕を組んだ。ソファの背もたれに寄り掛かる。
「…確かにあの三人は、閃に良い影響を与えている感じがするな。」
「ええ。昨日一日で、閃はとっても成長した気がしたわ。」
香恋も肯定する。玲は頷いて続けた。
「そうですね。それに、やはり子供は子供同士で遊ぶ経験をしないと、
どこか歪んでしまう気がするのです。
閃はこれまでそういう機会が少なかったので、
桃ちゃんや檸檬くん、亨くんと遊ぶことで
得られるものも学べることも多くある筈なのです。」
「その通りだよ。…だから良いよ、いつでも何回でも。」
笑顔の光輝である。
「ありがとうございます。」
玲も笑顔になる。
珍しく壮が口を挟んだ。
「…光輝に母君の宝に対するこだわりが無くなったのなら、
ついでに子供達に手伝ってもらって整理すればどうだ?」
自分が整理に巻き込まれたくないからだ、とそこにいる全員が思った。
が、妙案でもあるのは事実だ。
「そうだね。確かに何があるのかだけでも把握しておきたいね。
…でもその時は、みんなの力も借りなきゃいけなくなるかもしれないよ。
結構、いろいろあると思うから。」
「お任せ下さい。子供達と連携してやりましょう。」
「ありがとう。本当に玲さんは頼りになるね。」
「…いえ。そんなことは……。」
二人の会話をぼんやり聞いていた香恋が呟いた。
「…何だか良いわね、光輝と玲の関係って。」
「そう?瑞輝がいてもこんな感じだけど。」
香恋の言葉に、光輝が首を傾げると、玲も頷いた。
「そうですね。瑞輝さんがいる時でもあまり変わらないですね。」
だが、香恋は羨ましそうだ。
「…良いな。」
びとーが香恋の頭をくしゃっと撫でた。
「お前と檸檬も仲が良いじゃねぇか。二人して俺を嵌めやがって。」
びとーの言葉に、他の面々の顔に疑問が浮かぶ。
「嵌めたって?」
光輝が尋ねると、炎の精は若干顔を赤らめた。
「いや、ちょっと、香恋と檸檬に嵌められてな…。
香恋の言うことを三つ聞かなきゃならなくなっちまったんだ。」
「ふうん。」
光輝は眉をひそめたが、それ以上は突っ込まなかった。
香恋まで頬を染めて、瞳を泳がせていたからだ。
何となく微笑ましい雰囲気が感じられる。少し微笑んだ。
「なら香恋、よく考えて最高のお願いをしないとね。」
玲も微かに笑っている。
「びとーさんに言うことを聞いてもらえる機会なんて貴重ですからね。
とはいえ、檸檬くんの頭脳だと、これからも頻繁にある可能性もありますが。」
びとーはため息をついた。
「お願いだから、これ以上はやめてくれ。」
「だから。香恋がびとーの言うことを聞くんじゃなくて、
びとーが香恋の言うことを聞くんだろう?」
光輝のダメ出しに、笑い声が溢れた。