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 オランダ。アムステルダム。

 街の郊外にある古びた食堂の隅で、瑞輝は簡単な食事をしていた。

店はかなり寂れて見えたが、比較的多くの客が出入りしている。

それは、安い割に量も味も満足できる店だからでもあるが、

それ以上にこの店の担う特殊な役割のせいでもあった。

 そう。この店は情報屋の巣ともいえる場所だったのである。

そして、そういった性質の店であることを察してか、

今回は風雅も人間サイズの見える姿で、瑞輝の横に座っていた。

 瑞輝が食事を終える頃、二人の前に一人の女性が現れた。

大人の色香の漂う美女でありながら、暗殺者のような鋭い雰囲気を持つ彼女は、

有能な情報屋の一人で、通り名をアルテミスという。

月の女神の名を戴いているが、名前負けすることは決して無い。

「…久し振りね、瑞輝。ポルも…。」

 瑞輝は目を見開いた。

「知り合いなのか?」

「はい。」

と笑顔で頷きながら、風雅はさりげなく気のベールを施す。

これによって、聞かれたくない内容が他者に漏れることはなく、

また聞かれても構わない話であれば、

不自然でない程度には聞こえることもあるといった状態を作り上げることができるのだ。風の精霊特有の技のひとつである。

 そして風雅は、向かい側に座るアルテミスに向き直った。

「ご無沙汰しています。」

「瑞輝とポルが知り合いだったなんて知らなかったわ。

…聞いても良いのかしら?どうして一緒にいるの?」

 風雅は微かに微笑んだ。

「契約したからですよ。彼に付けてもらった新たな名は風雅です。」

「良い主人を選んだわね。瑞輝とだったら毎日楽しいんじゃない?」

「はい、とても。」

 二人の仲の良さそうな様子に、瑞輝の方が驚く。

「…二人こそ知り合いなのか?」

 風の精が肩をすくめた。

「もしかして瑞輝は、全く気が付いていないのですか?」

 アルテミスが悠然と微笑んだ。

「…私も精霊よ。風のね。」

「同郷なんです。言ってみれば、私の姉貴分ですね。」

「…え?…えーっ?そうだったのか?」

 二人は同時に頷いた。

「彼女は少々型破りな精霊で、誰とも契約しないのです。

ただ単独で、情報屋をしながら、人間達の間を縫うように生きています。」

「良いじゃない。私がそれを楽しんでるんだから。」

「そうですね。」

 アルテミスが頬杖をついた。

「で?今回の獲物は何?何が知りたいの?」

 気を取り直して、瑞輝が言った。

「ブラッディダイヤモンドの在処さ。」

「ああ、あれね。知ってるわ。…で、代償のことだけど。」

「金。」

 瑞輝は即答したが、アルテミスは首を振った。

「今回二人に会って、お金よりももっと欲しいものができたわ。」

「…何だ?」

 眉をひそめる瑞輝に、アルテミスは微笑んだ。

「…私は情報屋よ?一番欲しいのは情報に決まってるでしょ?」

「だが、俺達は何の情報も持ってないぜ?」

「今は、でしょ?」

 アルテミスの艶めかしい笑みにも全く動じず、

瑞輝は怪訝な表情を隠しもしないで言った。

「…意味が判らないな。」

「うん、もう。焦らしてるつもり?…瑞輝はお宝を探す為に色々旅をしている訳よね?

そして風雅も毎回同行するんでしょ?

だから、行く先々で得た情報を、風雅を介して横流しして欲しいのよ。

その代わり、今回ばかりじゃなく、あなたが情報を必要とする時は、無償で提供するわ。」

「だが正直、俺にはアルテミスが欲しいと思う情報ってのがよく判らない。」

「情報って堅苦しく考えないで、

ちょっと気になったことなら何でも流してくれれば良いの。私の方で取捨選択するから。」

「風雅を使うのであれば、風雅の意志も大事だろう?」

「確かにそうだわ。…ね、風雅はどうなの?」

 風雅は微笑んだ。

「…私は構いません。今回の獲物ばかりでなく、

今後もアルテミスの情報に頼らざるを得ない状況は想定されます。

また、先程も言いましたが、アルテミスは姉のようなものですからね。

アルテミスと我が主である瑞輝の両方に利があるのであれば、協力は惜しみません。」

 瑞輝は頷いた。

「風雅さえ良ければ、俺も構わない。」

「じゃあ、契約成立ね。」

 嬉しそうに微笑むアルテミスは美しく、

確かに精霊っぽいな、と今更ながら、瑞輝は思った。

「…ブラッディダイヤモンドはオーストラリアにあるわ。

どうやってそこに渡ったのかは不明だけど…。」

と言いつつ、あるビルの名前を出した。

「今はそこのオーナーの元にあるって話よ。」

「ありがとう。」

 瑞輝は微笑み、風雅も頷く。

「了解しました。」

「じゃあまたね。情報、楽しみに待ってるわ。」

 アルテミスはウインクして立ち去った。



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