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檸檬と亨の学期末試験は終了した。結果が出るのは来週になるだろう。
週末。
「良かったら、午前中からおいで。」
と光輝に言ってもらえた三人は、桃を間に挟んで、手を繋いで歩いていた。
勿論、二人の精霊も一緒にいる。
光輝が早く来るよう言ってくれたのは、偏に桃の為である。
亨に対して説明を始めると、どうしても長くかかってしまう。
そうなると、桃が退屈しかねない。
だから早めに来て、桃が心おきなくみんなと遊ぶ時間を確保しようという配慮なのだ。
本当は、金曜日の晩から来ても良いと言われたのだが、さすがにそれは遠慮した。
亨が檸檬に問い掛ける。
「理事長先生って、双子のお兄さんがいるって言ってたよね?
今は旅に出てるって聞いたけど、二人が揃ってる時って見分けが付くの?」
各々の波動やオーラを感じられる精霊には二人を見分けることなど造作もない。
同時に頷いた。
それを目の端で捉えながら檸檬が口を開く。
「顔や体型、声は本当に瓜二つだよ。
でも、纏う雰囲気とか話し方とか、そういうのが全然違うんだ。
理事長先生は穏やかで理知的な感じだし、
瑞輝さんは男らしくて野生的な感じって言ったら良いのかな?」
檸檬の説明に、炎の精が付け加える。
「光輝は頭が良くて、瑞輝は馬鹿だ。」
更に水の精までも付け足した。
「光輝は大人の男性だけど、瑞輝はガキンチョよ。」
亨は困った顔をする。
「…酷い言われようだね、理事長先生のお兄さん。」
檸檬は笑った。
「…でも二人ともすっごく良い人なんだ。」
「それは判るよ。びとーさんも香恋さんも、声に多分に好意が混じっているから。」
言われて、二人の精霊も苦笑する。
最後に桃が言った。
「うんっとね、りぢちょーせんせーがほんもののりぢちょーせんせーで、
もうひとりがニセモノおにーさん!」
これにはさすがに亨も笑ってしまった。
塔に着くと、笑顔の光輝と玲に出迎えられた。
二人とも本当に嬉しそうな顔をしていて、亨も嬉しくなってしまう。
こんな風に自分を歓迎してくれるのは、これまで檸檬と桃くらいだったからだ。
それは、亨の方にも原因があったのかもしれない。
明るい性格とはいえ、本当の意味で心を開くことができる相手は、
これまで檸檬しかいなかったのだから。
ここに来て亨は、人間サイズの精霊がこれだけ揃っていることに純粋に感嘆した。
精霊は人間よりも遙かに美しい。
美丈夫という表現が似合うびとー、絶世の美女の香恋、天使のような雷の精。
だが、亨を一番驚嘆させたのは、初めて人間大の姿を見る土の精霊だった。
黒の髪、黒い瞳の彼は、正に華美、凄艶。
神を前にしたような畏怖を感じさせる美しさだったからだ。
精霊の美しさは、力の大きさと比例する。
この中では格段に、この土の精霊が強いのだろう。
だが、そんな精霊達の中にあって、
普通の人間でありながら見劣りすることのない光輝と玲も凄いんじゃないだろうかと、
亨は漠然と思った。
塔には数々の部屋がある。
普段使われていない部屋を檸檬や亨、桃の為に用意してくれてあったらしく、
玲に案内されて荷物を置いた。