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『ももれも』初の恋バナもどきです。
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大谷 瑞輝は飛行機に乗っていた。相棒の風の精を連れ、ナップサックひとつで。
彼はトレジャーハンターの一人で、
いわくのある物や得体の知れない物を探し求めて世界を旅している。
今回の獲物はブラッディダイヤモンドと呼ばれる宝石だ。
元はかなりの大きさを誇る普通のダイヤモンドだったらしい。
だが、欲に目が眩んだ人間達が血みどろの戦いを繰り広げ、
流された大量の血を吸って赤くなったと言われている。
今では、その流された血の多さ故、手にした者を呪い殺すと噂されている代物だ。
だが、それは単なる口実でしかないことを瑞輝自身がよく判っていた。
使い魔にしか聞こえない小さな囁きを落とす。
「…俺って卑怯だよな。逃げてばっかで…。」
今頃は、双子の弟の光輝が見合いをしている頃だろう。
彼は理事長の仕事にしても、見合いにしても、逃げずに立ち向かって答えを出す。
それは瑞輝でさえも尊敬する光輝の美徳だ。
それを思えば、自分は何て情けないのだろう。
今回も、見合いや仕事の話が自分にも回ってくるかと、先手を打って逃げ出してきたのだ。
対する風の精霊、風雅は、姿は見せないが、囁きを返してくる。
「光輝には判ってます。
瑞輝が逃げることを恥ずかしく思っていることも、
そして瑞輝から自由を奪ったら瑞輝でなくなってしまうことも。
だから、彼が瑞輝を責めたことは無いでしょう?」
瑞輝は瞳を伏せて頷いた。
「彼にとってはそれぞれに適した生き方をしているに過ぎない。
自分の生き方を自分で決めていると意識してるし、瑞輝のことも認めている。
だから責めるなんて考えてもいないでしょう。だから、良いのです。瑞輝は瑞輝のままで。」
そして、少し笑った。
「それに、瑞輝が旅に出なくなると、私が寂しいじゃないですか。
光輝が赦してくれる間は行きたいだけ旅に出掛けましょう。」
風雅の言葉に少しだけ救われる。瑞輝は微かな笑みを浮かべた。