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一人ぼっちのデュエット

作者: ゆーたろー

この物語に山落ち、意味などありません。あしからず。

「あなた、一人なの? 私もなんだぁ……」

 静まり返ったベルリンの夜に、少女の声が響く。

 見た目から察するに、帰る家がないというわけではないだろう。

 むしろとても大切にされている感が、高そうなドレスからありありと伝わってくる。

「お名前はなんというの? ……そうね、アリア……なんてどうかしら?」

 裕福そうな少女は、私を目の前に持ち上げ訊ねてくる。

 本当の名前は違った。でも、最初になんという名前をつけてもらったか、もはや思い出せなかった。

「アリア、私と友達になってくれないかな? こんな寒い夜でも、二人ならきっと乗り越えられる……そんな気がするの」

 私は寒さを感じない。それでも紅潮した少女の頬から、ベルリンの街が相当に冷え込んでいるのが分かった。

「行きましょう、アリア。歩いていれば、いずれ暖かいところに辿り着けるわ」

 そう言うと、少女は私を胸の前に抱きかかえ駆け出す。

 この子自体には好感が持てた。着ているものは綺麗だし、可愛くて、純真そうな瞳も。

 しかし、正直少女と一緒に行くのは嫌だった。

 少女にとって、夜の街がどれほど危険なものか、私には分かっていたから――


      ************


 硬い石畳の上で、私は少女を見上げる。

 いや、すでに少女の姿は、ボロボロの外套をきた醜い男に遮られ見えなくなっていた。

 必死に抵抗しているのだろう。ときおり、悲鳴にもなっていない少女の呻き声が聞こえてくる。

 しかし大の男にのしかかられたとあっては、どれだけもがこうと、逃げ出すための活路は見いだせないだろう。

 次第に二人の動きが静かになっていく。少女の力が尽きてきたのだろう。

 抵抗が止んでしまったら、そしたら――

 私はこういう光景が見たくなかったから、連れていって欲しくなかったのだ。

 人の悪意は腐るほど見てきたが、目の当たりにするのは、やはり気分の良いものではない。

 少女が暴れなくなると、男は小汚い布切れを取り出した。おそらく猿ぐつわにするつもりだろう。

 それを少女の口にあてがう時、一瞬だけ、少女の瞳から光が頬を伝った気がした。

 でも、仕方ないわよね。こんな夜中に出歩く方が悪いのだもの。

 私は目を瞑ることができない。だから無垢な少女が汚されていくのを、私はただ黙って見ているしかない。

 そういう時は、なにも考えず、心を殺すのだ。

 ――本当の、人形のように――

 その時、少女にとって救いの神が舞い降りる。

 音もなく近づいた黒い影が、男をみぞおちから蹴り上げた。

「――ッ!!? ァ、カハァッ!」

 男は苦しそうに路上にうずくまってしまった。

 少女は泣き腫らした目で影を見上げ、そこでようやく状況を呑み込んだようだ。

 脱兎のごとく駆け出す少女。

 男は力を振り絞り、少女を逃がすまいと腕を伸ばす。

 しかし、腕は届く前に闇に呑み込まれてしまった。いや、黒い影が男に覆いかぶさったのだ。

 希有なこともあるものだ。人助けなど、このご時世には童話の中でしか存在しえないというのに。

「アリアっ!」

 少女は私を抱えあげると、脇目も振らずに走っていく。

 だが私は少女の肩越しに見てしまった。

 黒い影が、銀色に輝くソレを、動けない男に突き立てるのを。


      ************


「どこに行っていたんだ、エリス。みな心配したのだぞ!」

 品の良さそうな、立派なあごひげを蓄えた紳士が少女を抱きかかえる。

「ドレスもボロボロじゃないか……一体なにがあったんだい?」

 エリスと呼ばれた少女は、紳士の腹部に顔をうずめたままなにも話そうとはしない。

 少女の身長では腰に腕を回すことはできないとは分かっていても、紳士の尻に押しつけられるのは良い気分ではなかった。

「……とにかく、家に入ろう。そして暖かいスープでも飲もう。……おや? なんだい、その小汚い人形は?」

 いきなり人を小汚い扱いとは、いい性格してるわね、おっさん。

「……私の友達よ。失礼なこと言わないで」

 ずっとだんまりだった少女が久方ぶりに口を開いた。

「そうなのかい?」

 紳士は訊ねるが反応はない。そして、少女は私を抱きしめ家の中に入っていった。

 こうして私、一人ぼっちのアリアには、エリスという可愛らしい友達ができたのだった。


練習としての文章なので、どなたか心やさしい人、批評などください。文章上達のための糧にしたいので……

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