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ワッフル

 今日は、なんと無く、本格的なコーヒーが飲みたい気分だった。なので、いつものファミレスからちょっと遠いが、しばしば行く喫茶店に向かうことにした。

「マンデリンと、ワッフル一つ」

メニュー表も見ず、入ってすぐ答える。常連と言うほど通っては居ないが、いつも頼んでいるものだ。

「お待たせしました、マンデリンになります」

うす白い湯気を立てながら、コーヒーが運ばれてくる。深く澄んだ黒は、吸い込まれるような美しさだ。

 濃厚な香りを楽しみながら、ひと口飲むと深い苦みが口に広がる。なんとも癖になる味だ。

 ここに、甘いバニラアイスの乗った、香ばしいワッフルと瑞々しい季節のフルーツがくるとなると、それはそれは素晴らしい組み合わせだろう。

 「はい、ワッフルになります」


 女子高生がきた。

 

 こ こ で も か。

 一体全体、なんだって言うんだ。俺が何をしたっていうんだ。

 これは夢か? 夢なのか?

 だったら覚めてくれ、そして俺に普通にスイーツを食べさせてくれ。

「どうしたんですお兄さん? そんな渋―い顔をして。コーヒーが苦かったんですか?」

「苦くないコーヒーなんてコーヒーじゃないよ」

悲しい事に、意思疎通はできている。本当に悲しい事に。

「……ほんとに君たちは何なんだい? どうして僕の前に現れてくる?」

きょとんとした顔で、セーラー服の少女はこちらを見る。

「そんな、あたり前じゃないですか。あなたが私を注文したんですから」

「いや、だからね、僕はワッフルを頼んだんであって、君みたいな女子高生を……」

「ええ、だからですよ?」

ケラケラとセーラ服の少女は笑いながら言う。

机の上に立つと、くるりとその場で回りだす。

「私が、ワッフルなんですから」

彼女が僕に顔を近づけると、バニラの甘い香りがふわりと香る。

 軽やかなセーラ服の動き飾り気の少ない薄化粧した顔、フルーツのピンクの瑞々しい唇。他のケーキのような、美しいと思えるほどの甘さがあるわけではないが、 そこには初々しさの含んだような優しい甘さが、不思議な魅力を与えている。

 そう、彼女は私の好きなように何色にでも染められるのだ。


 あぁ、確かに、彼女は。

「そうか、女子高生は、君がワッフルなのか」

彼女はにっこりとほほ笑むと。

「違いますよー。ばーか」

そこには、アイスが程よく溶けたワッフルが、置いてあった。その横では、まだ温かいコーヒーが湯気を立てている。

 ため息を一つ着いた後、僕はそれを食べ始めた。


 帰り道。川沿いの道を歩いていると、反対側から女子高生が一人、自転車に乗って過ぎ去っていった。

 彼女とすれ違う瞬間、バニラの香りが鼻に広がる。

 振り向いてみたが、少女はすでにかなり遠くに行ってしまっている。

 夕焼けがまぶしい河川敷で、僕はただその後ろ姿を見つめ続けていた。


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