モンブラン
モンブラン
「おまたせいたしました、モンブランでございます」
貴婦人がきた。
雅に食欲をそそる金色の栗のクリームに、白い粉雪を彷彿させるような砂糖の衣を纏った宝の山の上に、まるでその宝の山に眠っている、輝かしい黄金のようなマロン・グラッセ。
食べる事すらおこがましいような高貴なそれでは無く。
貴婦人がきた。
「またですか……」
「またですわ」
貴婦人は清楚にほほ笑む。
「君はいったい何なんだ?」
「私はモンブランですわ。注文通り、貴方の所に参りました」
貴婦人は恭しく、スカートの端を掴んでお辞儀をする。その様は丁寧でいて優雅で、まさしく貴婦人と言えるものだった。
「いやさ、僕は君じゃなくてお菓子のモンブランを頼んだんであって……」
「私は、モンブランですわ」
「……モンブランさん?」
「違いますわ」
ですよね。まぁ、そうだと思いましたけど。
僕はため息を吐きながら、彼女につぶやく。
「なんだって言うんだ、僕はただ美味しくて、美しいスイーツを楽しみたいだけなのに」
「あら、私の事……お気に召しません?」
貴婦人は、首を傾げる。
はらりと、美しいブロンドの髪が揺れる。金色のドレスからは、すらりと細い腕がしなやかに僕の胸を撫でる。
僕はその華やかな色気に圧されて、思わずのけぞる。
「私はモンブランですわ」
「君がモンブラン、貴婦人のような君が……」
黄金に輝くリップが塗られた唇が近づく。その唇は、まさに宝物のようで……。僕は思わず彼女の頬に触れた。
「そうか、モンブランとは、貴婦人の事だったんだ」
「そんな訳ありませんわ。お馬鹿さん」
目の前の彼女が不意に消え、僕はまたいつものファミレスに戻っている。
そこには一つのモンブランが置かれていた。そのモンブランには、上にマロン・グラッセが乗っかっていない。
ふと手を見ると、僕はそこには金色の栗を一粒握っていた。